ムズムズとドキドキのあいだ

ももくり

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Lesson3

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 んで、翌日夕方。

「三嶋さん」
「はい?なんでしょうか桐生さん」

「田之倉さんとつき合うんだって?」
「そうですね」

「ふうん」

 で、彼は立ち去る。なになに?それだけを言いに、私の席まで来たワケ??仕事しましょうよ。

「へえ。そうなんだ。なんか意外な組み合わせだな」

 隣席の原田さんも話しかけてくる。

「そっかあ。なんかウチの娘はまだ小学生なんだけど、勝手に三嶋さんのことも娘みたいに思ってて。もう嫁ぎ先が決まったみたいな、そんな淋しい気持ちになっちゃったなあ」
「は、原田さん…」

 まだ38才で男の色気もムンムンしているのに、自分の色恋なんかよりも一人娘をメチャ可愛がっているシングルファザーの原田さん。貴方にそんなこと言ってもらえるなんていつ死んでもこの三嶋有香、悔いはありません!などと悶えていたら、終業時間になり。退勤処理を済ませてロッカーへ向かう。すると背後から誰かが私の腕を掴んだ。

 振り返ると、そこには桐生さんの姿が。

「ねえ。今日これからお客さんと20時に約束してるんだけど、まだ2時間以上もあるからさ~、一緒にお茶しようよ~~」
「私、昨日から田之倉さんのカノジョなんですが。それを知ってのお誘いですか?」

 彼はとても愛くるしい笑顔で、コクンと頷く。

 なんだか抵抗するのも面倒臭くなり、新しく出来たベーグル専門店でシェイクを飲むことにする。晩ご飯が食べられなくなるかもという理由で1個のベーグルを仲良く2人でシェアした。

「やっぱり『抹茶大納言ベーグル』にすれば良かったな。甘いのが食べたかったのに、桐生さんがイヤだって言うから」
「『カリカリベーコンベーグル』を頼んで正解だったと思うよ。やっぱこの時間はしょっぱいモノが欲しくなるから」

「…あのさあ、田之倉さんとつき合うのって、もしかして俺のため?」
「へ?なんでですか??」

「正直、ちょっとムッとした。俺の方が仲良かったのに、三嶋さんと。で、なんか胸がザワザワしちゃって。ねえ、これって嫉妬?」

 なぜか満面の笑みで聞いてくる。

「それはどうでしょう?」
「たぶん嫉妬っぽい。田之倉さんと三嶋さんがキスとかセ…あ、言ったらダメなんだった。とにかく、それするんだと思ったら、胸がザワついたんだよね。俺をこんな気持ちにさせるために田之倉さんと付き合うんでしょ?」

 だから、なんで笑顔なのかってば。

「知りませんよ、そんなの。私、そこまで桐生さんにする義理ないし。田之倉さんとつき合うのは、いい人だと思…」

 ん…。
 このタイミングで、キスって。
 本当に読めないな、この人。

「ひ、ひどいぃ…。いつも乱暴だよォ、三嶋さん」

 顔面にグーパンチをお見舞いしてやった。

「鼻の骨、折れたら責任取ってよ」
「何の了解もなしに、唇を奪うからです」

 冷静に残りのベーグルを食べる私。

「何度も言いますが、私は田之倉さんとお付き合いを開始したのです。『貞操観念』という言葉をご存知ないのでしょうか?」
「俺、別に関係ないもん。彼氏がいようが、旦那がいようが」

 紙ナプキンをぐしゃりと握り、睨みを利かせる私。それを見て怯える桐生さん。

「だ、だってさ。1人の相手に想いを集中させるとシンドイよ。過去に付き合ってきた女たちはそんな理由で俺を選んだみたいだけどね。ほら、気持ちを分散させる感じ?」
「桐生さんって…」

「ん~」
「好きになったことが無い…んじゃなくて、誰からも本気で好きになって貰ってないんですね」

「あ、あは。そうかな?言われてみれば」
「相手が本気じゃないから、貴方も本気にならないんじゃないですか?」

「そう…なの、かな?」
「『愛され桐生』になりましょうよ。まずは、誠実に!信用できる男になるのです。愛し、愛される素晴らしさを、是非とも体感してみましょう!」

 胸元で両手を組み、ウットリする私。

「…ていうかさ、三嶋さんもその『愛し、愛される素晴らしさ』を味わったの?」
「いいえ。でも、これからです」

「なんだよ、ソレ」
「相手は田之倉さんかもしれないし、そうではないかもしれない。でも、考えてみてください。きっときっと、最高に素敵ですよ」

「…三嶋さんって」
「なんですか?」

「ほんと、可愛いね」

 そう言った桐生さんの表情は今まで見たことが無いもので。ほんの少しドキリとしたけれど照れ隠しでエヘヘと笑う。素敵な恋をする権利は皆んなにあって、勿論、私たちにも与えられているから。

 だから…頑張ろうよ、桐生さん。

 
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