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全面開戦 ― Parabellum ―

秋光清二

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 「有楽町」……と言っても、かつて本物の東京に有った有楽町ではなく、それを模した贋物の町。
 その一画の、複数の広域警察の支局と地元警察の本部が入っているビルの屋上のヘリポート。
 そこに俺は居た。
 この町……いや、この島の警察には、捜査能力はともかく、ある程度以上の規模の暴力犯罪や異能力犯罪を鎮圧出来る実働部隊は……最早、無い。
 あえて……居るとすれば……「手足を伸ばす」ぐらいの「異能力」しかねぇ俺と……そして……。
 たった今、到着したヘリから降りたそいつは……二〇世紀のTVの子供向けヒーロー番組に出て来てもおかしくねぇ姿だった。
 それも、俺が子供だった頃より、更に一昔以上前の……。
 くすんだ色の金属装甲。
 妙に大きな「目」。
 何の役に立つか判らないマフラー。
 胸には、俺達「対異能力犯罪広域警察レコンキスタ」のシンボルである「菊水」のマーク。
 左手には、鞘に入ったままの日本刀を持っている。……もっともこしらえは、戦前の軍刀に近い……みたいだ……良く知らねぇけど。
「状況は聞いている。これからの任務は……この『島』に上陸した『あれ』の鎮圧だ」
 三十前と言われれば、そう思え、五十より上と言われれば、これまたそう思えるような……妙な感じの男の声だった。
「『あれ』の鎮圧だけですか? えっと……『あれ』を運んだ船に有る……」
「『あれ』の鎮圧が最優先だ。船にある放射性廃棄物が日本海を汚染しようと、この『島』が沈もうと、『あれ』の鎮圧に成功したならば、今回の我らの任務は成功で、お前には、それ相応の額の臨時賞与が出る。殉職や大きな失敗をしなければの話だがな。逆に、日本海の汚染を防げても、この『島』の住人が無事だろうと、『あれ』の鎮圧に失敗したなら……お前がもし生き延びたとしても……懲戒免職だ」
 何だ、こりゃ? 安いドラマかアニメの悪役の台詞か?
「えっと……」
「もっとも、お前が今回やるべき事は、せいぜい、車の運転その他の雑務や後方支援だけだがな」
「あの……えっと……何と……貴方……でいいのかな? それとも貴官でしょうか? ともかく……何て呼べばいいんでしょうか?」
「俺の正式な氏名や所属は明かせん事は聞いている筈だ。ただ、この任務中は、俺をお前の上官として扱え。そして……俺の事は……こう呼べ……『護国軍鬼・ゼロ号鬼』と」
「えっ?」
 護国軍鬼だと? 待て……その名前は……確か……。
「どうやら……この『島』に……俺の紛物まがいものが1匹居るようだな……。ついでに挨拶ぐらいはしておくか……」
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