呪詛返死

蓮實長治

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第5章:本家・祟り屋

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 漫画家のアシスタントで食ってくのも、中々、厳しい。
 俺がアシスタントをやってる漫画が、二〇年以上連載が続いてて、何度かドラマ化もされた「本家・祟り屋」だとしてもだ。
 それで、こうして、本業の仕事が無い日は、バイトをやってる。
 もう四〇近いのに……この調子だ。
 住んでるアパートが有る市の「ゆるキャラ」の着ぐるみを着て、駅前で市の広報を配ってる。
 しかし……「熊を銃で撃つな」とか言ってる阿呆な活動家を、熊に殺された奴の遺族の依頼で呪い殺す……そんな回の悪役の死に方を考えた俺が、よりにもよって、熊の着ぐるみかよ。
 ああ、あの回の「悪役」みたいな阿呆が居たら……いや、現実問題としてSNS上に掃いて捨てるほど居るが……ブッ殺して……。
 ん?
 何で、俺と同じ熊の着ぐるみを着てる奴が、もう1人居るんだ?
 その熊は、俺の方に……変な歩き方だな……。
 どっかで……。
 えっ?
 変だ。
 明らかに着ぐるみを着た人間なのに、歩き方は、あの回の参考資料代りに見た……動画サイトの……熊が2本足で歩く時みたいな歩き方……。
 お……おい……来るな。
 誰だ、お前は……。
 どうやら、俺はパニクってるらしい。
 何か意味不明な事を叫んでいるらしい。
 通行人は俺の方を変な表情かおで見てる。
 でも、熊の着ぐるみなのか……熊の着ぐるみを着た熊なのか……良く判んない奴は……相変わらず人間としては変な歩き方で……。
 近付く。
 俺の方に近付く。
 そして……着ぐるみの頭のパーツを取……いや、変だよ。
 この着ぐるみと同じモノなら……着脱に結構な時間がかかる。頭のパーツ取るだけでも……簡単じゃない筈だ……。
 そして……。
 俺だ……。
 中に居たのは、俺そっくりの誰かだ。
 あっ?
 何で、俺、右手を上げてる?
 俺そっくりの誰かも、左手を上げていた。
 俺の右手が勝手に横殴りに……。
 もう一人の俺の左手も横殴りに……。
 そして、俺の右手が、俺の顔面を、もの凄い勢いでビンタしたのと……俺の左手が、俺の顔面を、もの凄い勢いでビンタしたのが、ほぼ同時……。
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