上 下
34 / 105
第五章:Premonition

(5)

しおりを挟む
 翌日の研修は何事もなく終った……筈だった。
 けど、博多駅のホームに入ろうとした途端に携帯電話ブンコPhoneに着信音。
 それも、通常の音声通話でもMeaveメッセンジャーアプリでもない。
 ユーザ側で中継サーバを立てる事が可能なセキュア・タイプのメッセンジャーだ。通話記録などは、運営会社じゃなくてユーザ側のサーバに保存されるので、犯罪組織から民間企業、「正義の味方」に場合によっては軍事・警察関係の公的機関でも使ってる国が有るらしい。
『博多遊軍チームのガルーダと落ち合う事は可能か?』
 以下、書かれてた時刻と場所は……。
 時刻は……間に合う。
 場所は……ボクは、博多駅の駅ビル内の書店に向かう。
 洋書コーナー。
 人文書。
 そこに居たのは……。
「君だったか……『お上人さん』が寄越した応援ってのは?」
「えっ?」
 お洒落でわざと乱れ気味にしてるらしい髪。
 ピンク色のシャツに白っぽいスラックス。
 青く染められた革靴は……ビジネス・シューズじゃなくてウォーキング向き。
 そして、襟元には……留め具が鷲か鷹らしき鳥の形になってるループタイ。
「あっ……。この前……」
 たしか……らんさんの家に来てた女の人。
「君が昨日の朝、博多駅で助けた病人が消えたそうだ」
「消えたって?」
「コネ入社らしいが……勤め先が『大阪』のフロント企業。親は『大阪』を含めたテロ組織と繋りが有る大物地方議員。念の為、博多のあるチームの後方支援要員が監視をしていたが……ついさっき、病院に県警のパトカーが来ていた。パトカーに乗っていた担当らしき警察官は……行方不明捜索関係を担当している部署の人間だった」
「何が……起きてんですか?」
「判らん。しかし、博多のチームの『魔法使い』系のメンバーが、対象に『式』を取り憑かせていた」
 「式」は早い話が「使い魔」の事。実は、流派によって、陰陽道系なら「式神」や「式」、密教系なら「護法」「護法童子」、西欧系なら「使い魔ファミリア」「守護天使」と呼び方は違うが……日本で一九九〇年代に起きた「陰陽師」ブームのせいで一番メジャーな呼び方になった「式」を使う場合が多い。
「でも、それなら、魔法使い系の人が、すぐに見付けられる筈で……あと、何で、わざわざ、式を取り憑かせるような事を……」
 式を取り憑かせるなら……どんな手を使ったのかはともかく、入院先の病院に入る必要が有る。結構、危い橋を渡る事になるが……。
「まず、行方不明になったのは病人だ。私は……人間の生命力そのものを見る事が出来る。そして、君は、どうやら、体臭から相手の体調などを推測出来るそうだな」
「は……はい……」
「式を取り憑かせた理由だが……念の為、対象の勤め先を調べていたら……建物内から、微弱だが妙な魔法系の気配がしたらしい」
「えっ?」
「そして……同じ気配が、対象が持っていた鞄からも検出された」
「い……一体、何なんですか?」
「不明だが……私は『魔法使い』系じゃないが、一般的な魔法には、ほぼ完全な耐性を持ってる」
 い……いや……なら、この人が関わってる理由が判るけど……どう言う事だ?
 「生命力そのものを見る」なんて魔法系らしき能力。でも、本人は「魔法使い」系じゃないと言ってる。そして、「一般的な魔法に対するほぼ完全な耐性」……。
 待て……似たようなモノや……似たような人を……。
「あ……あの……まさか……その……あなたの能力って……?」
「そうだ。『魔法』と似て非なる『神の力』だ。能力は太陽に関するモノの中でも『生命力』と『浄化』に特化している。ただ……少しばかり弱点が有るけどな」
しおりを挟む

処理中です...