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権力者の条件
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「えっと……専門は……数理社会学ですか? えっと……どんな研究をされてるんですか?」
俺は、複数の殺害事件を含む与党政治家への数々のテロを起こしてきた組織のリーダーとみられる学者の弁護を担当していた。
当初は、もっと大物の同業者が弁護をやる事になっていたのだが、検察からのクレームの連続で俺みたいな若手が貧乏籤を引いてしまったのだ。
「要は社会現象をシミュレーションで解析する研究ですよ」
「はあ……ですが……まぁ、僕も何となく判らないではないですけど……例えば、法律用語と一般用語では全然意味が違うとか……でも……」
「まぁ、何を言いたいかは判りますが……」
「え……えっと、そりゃ、一般人の常識通りの事しか言わないなら学問に意味は無いかも知れません。そこまでは判りますよ」
俺は……そこで深呼吸をした
「でも、流石に無理が有りますよ。民主主義を維持する為にはテロを起す必要が有るなんて……」
そう……それが、この学者センセイ達がテロを起していた理由だった。
「で、あなたは、どう思いますか? 我々が出した、この結論を……」
「あの……心身喪失・心神耗弱での無罪や減刑を狙うのなら、流石に無理が……いや、本当に先生が@#$%だとしても、国民感情が……」
「我々は理性的ですよ。理性的だから……同じような研究をしていても、細かいやり方が違う複数の学者が相互に検証し合った。でも……シミュレーションの結果は……同じだった」
「いや……待って下さい、どうなってるんですか?」
「話を判りやすくする為に、政治家や政党を4つのタイプに分けましょう。善良かつ頭が良い。善良かつ頭が悪い。邪悪かつ頭が良い。邪悪かつ頭が悪い」
「でも……善良さとか、頭の良さって、人によってイメージするモノが違いませんか?」
「ここで云う善良さは近代国家における政治家としての誠実さと思って下さい。例えば国民を騙さない、公文書や公的な統計を改竄しない……その他、政治家としてのズルをしないと云う事です。そして、頭が良いとは……長期的な視野を持ち、短期的には得になっても長期的には損になる選択はしない、という事です」
「は……はぁ……」
「複数の違った手法によるシミュレーションの結果、まず、善良かつ頭が良い政党や政治家が脱落しました」
「ま……まぁ、そりゃ、善良さと頭の良さは……相性が悪そうですからね。下手に善良だと……現実主義に徹する事が出来なそうだ」
その時、学者センセイの顔が曇った。
「次に脱落するのは……善良で頭が悪い政党・政治家か、邪悪で頭が良い政治家になります。どちらが先に脱落するかは……詳細は省きますが、ほんのわずかな条件の違いが大きな要因となる事が突き止められました」
「え……えっと……ちょ……ちょっと待って下さい」
「どうしました?」
「あ……あの……何で、同じ邪悪なら……頭が悪い方が勝つんですか?」
「逆に訊きます。何故、どんな条件の元でも頭が良い方が有利だと思われてるのですか?」
「何故って……そりゃ……あの……頭が悪い方が……例えば、その……給料が高くなるとか、生活がマシになるとか、そんな事が起きたら……えっと……頭が良くても社会において有利になれないなら子供が学校で真面目に勉強する意味は無いでしょ」
「では、学校で勉強するコストが頭が良くなった事によるメリットより大くても、学校で真面目に勉強する意味は有りますか?」
「えっ?」
「邪悪であっても頭が良くなるには、コストがかかる。そして、邪悪であっても頭がいい政治家や政党は、短期的にはメリットが有っても、長期的にはデメリットが大きい政策を取ろうとしない。邪悪な政治家や政党である点では同じなら、安易で短絡的な発想をしがちな政治家や政党の方が短期で成果を出したように見えるんです」
「そ……そんな……馬鹿な……」
「我々は善良な政党や政治家に政権を取らせようとしたんじゃない。我々は……我々が『邪悪だが頭が良い』と見做した政治家に、どうすれば彼らやその所属政党が有利な社会が作れるかの方策を送りました」
「へっ?」
「だから、我々がやったのは時間稼ぎですよ。同じ邪悪な政治家なら、せめて長期的なデメリットがある政策を採用しないような連中が有利になる社会が出来るまでのね。でも、失敗しました。結局、何もかも遅過ぎた。せめて、もっと早く、我々が出したのと同じ結論を出した誰かが居てくれていたなら……」
「い……いや……でも……先生は……今の政権与党が『邪悪かつ頭が悪い』と思ってらっしゃいますが……そんなに世の中悪くなってますか? 先生が若い頃より……この国はマシになってんじゃないですか?」
「本当にそうですかね?」
「失礼ですが……全ては……先生達、御老人の懐古主義から生まれた妄想じゃないんですか? だって、みんな言ってますよ。今の我が国は……長年に渡る停滞を抜け出して、世界が羨む素晴らしい国になった、って……」
「そこは……貴方の御判断に任せますよ……。その点を議論しても平行線のままになりそうだ」
「そうですね……。ああ、そうだ……お子さんとお孫さんが亡くなられたそうですね。お悔やみ申し上げます」
「ええ……孫は……まだ5歳でしてね……。アメリカが我が国に落とした史上5発目の核爆弾のせいでね」
「いや……大丈夫ですよ、今度こそ日本が米中連合軍に勝ちますよ。百年前の大東亜戦争の雪辱を果たす時ですよ。苦しいのは一時で……その後の日本には薔薇色の未来が待ってますよ。……政府も国民も……みな、そう信じてますから」
俺は、複数の殺害事件を含む与党政治家への数々のテロを起こしてきた組織のリーダーとみられる学者の弁護を担当していた。
当初は、もっと大物の同業者が弁護をやる事になっていたのだが、検察からのクレームの連続で俺みたいな若手が貧乏籤を引いてしまったのだ。
「要は社会現象をシミュレーションで解析する研究ですよ」
「はあ……ですが……まぁ、僕も何となく判らないではないですけど……例えば、法律用語と一般用語では全然意味が違うとか……でも……」
「まぁ、何を言いたいかは判りますが……」
「え……えっと、そりゃ、一般人の常識通りの事しか言わないなら学問に意味は無いかも知れません。そこまでは判りますよ」
俺は……そこで深呼吸をした
「でも、流石に無理が有りますよ。民主主義を維持する為にはテロを起す必要が有るなんて……」
そう……それが、この学者センセイ達がテロを起していた理由だった。
「で、あなたは、どう思いますか? 我々が出した、この結論を……」
「あの……心身喪失・心神耗弱での無罪や減刑を狙うのなら、流石に無理が……いや、本当に先生が@#$%だとしても、国民感情が……」
「我々は理性的ですよ。理性的だから……同じような研究をしていても、細かいやり方が違う複数の学者が相互に検証し合った。でも……シミュレーションの結果は……同じだった」
「いや……待って下さい、どうなってるんですか?」
「話を判りやすくする為に、政治家や政党を4つのタイプに分けましょう。善良かつ頭が良い。善良かつ頭が悪い。邪悪かつ頭が良い。邪悪かつ頭が悪い」
「でも……善良さとか、頭の良さって、人によってイメージするモノが違いませんか?」
「ここで云う善良さは近代国家における政治家としての誠実さと思って下さい。例えば国民を騙さない、公文書や公的な統計を改竄しない……その他、政治家としてのズルをしないと云う事です。そして、頭が良いとは……長期的な視野を持ち、短期的には得になっても長期的には損になる選択はしない、という事です」
「は……はぁ……」
「複数の違った手法によるシミュレーションの結果、まず、善良かつ頭が良い政党や政治家が脱落しました」
「ま……まぁ、そりゃ、善良さと頭の良さは……相性が悪そうですからね。下手に善良だと……現実主義に徹する事が出来なそうだ」
その時、学者センセイの顔が曇った。
「次に脱落するのは……善良で頭が悪い政党・政治家か、邪悪で頭が良い政治家になります。どちらが先に脱落するかは……詳細は省きますが、ほんのわずかな条件の違いが大きな要因となる事が突き止められました」
「え……えっと……ちょ……ちょっと待って下さい」
「どうしました?」
「あ……あの……何で、同じ邪悪なら……頭が悪い方が勝つんですか?」
「逆に訊きます。何故、どんな条件の元でも頭が良い方が有利だと思われてるのですか?」
「何故って……そりゃ……あの……頭が悪い方が……例えば、その……給料が高くなるとか、生活がマシになるとか、そんな事が起きたら……えっと……頭が良くても社会において有利になれないなら子供が学校で真面目に勉強する意味は無いでしょ」
「では、学校で勉強するコストが頭が良くなった事によるメリットより大くても、学校で真面目に勉強する意味は有りますか?」
「えっ?」
「邪悪であっても頭が良くなるには、コストがかかる。そして、邪悪であっても頭がいい政治家や政党は、短期的にはメリットが有っても、長期的にはデメリットが大きい政策を取ろうとしない。邪悪な政治家や政党である点では同じなら、安易で短絡的な発想をしがちな政治家や政党の方が短期で成果を出したように見えるんです」
「そ……そんな……馬鹿な……」
「我々は善良な政党や政治家に政権を取らせようとしたんじゃない。我々は……我々が『邪悪だが頭が良い』と見做した政治家に、どうすれば彼らやその所属政党が有利な社会が作れるかの方策を送りました」
「へっ?」
「だから、我々がやったのは時間稼ぎですよ。同じ邪悪な政治家なら、せめて長期的なデメリットがある政策を採用しないような連中が有利になる社会が出来るまでのね。でも、失敗しました。結局、何もかも遅過ぎた。せめて、もっと早く、我々が出したのと同じ結論を出した誰かが居てくれていたなら……」
「い……いや……でも……先生は……今の政権与党が『邪悪かつ頭が悪い』と思ってらっしゃいますが……そんなに世の中悪くなってますか? 先生が若い頃より……この国はマシになってんじゃないですか?」
「本当にそうですかね?」
「失礼ですが……全ては……先生達、御老人の懐古主義から生まれた妄想じゃないんですか? だって、みんな言ってますよ。今の我が国は……長年に渡る停滞を抜け出して、世界が羨む素晴らしい国になった、って……」
「そこは……貴方の御判断に任せますよ……。その点を議論しても平行線のままになりそうだ」
「そうですね……。ああ、そうだ……お子さんとお孫さんが亡くなられたそうですね。お悔やみ申し上げます」
「ええ……孫は……まだ5歳でしてね……。アメリカが我が国に落とした史上5発目の核爆弾のせいでね」
「いや……大丈夫ですよ、今度こそ日本が米中連合軍に勝ちますよ。百年前の大東亜戦争の雪辱を果たす時ですよ。苦しいのは一時で……その後の日本には薔薇色の未来が待ってますよ。……政府も国民も……みな、そう信じてますから」
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