権力者の条件

蓮實長治

文字の大きさ
1 / 1

権力者の条件

しおりを挟む
「えっと……専門は……数理社会学ですか? えっと……どんな研究をされてるんですか?」
 俺は、複数の殺害事件を含む与党政治家への数々のテロを起こしてきた組織のリーダーとみられる学者の弁護を担当していた。
 当初は、もっと大物の同業者が弁護をやる事になっていたのだが、検察からのクレームの連続で俺みたいな若手が貧乏籤を引いてしまったのだ。
「要は社会現象をシミュレーションで解析する研究ですよ」
「はあ……ですが……まぁ、僕も何となく判らないではないですけど……例えば、法律用語と一般用語では全然意味が違うとか……でも……」
「まぁ、何を言いたいかは判りますが……」
「え……えっと、そりゃ、一般人の常識通りの事しか言わないなら学問に意味は無いかも知れません。そこまでは判りますよ」
 俺は……そこで深呼吸をした
「でも、流石に無理が有りますよ。なんて……」
 そう……それが、この学者センセイ達がテロを起していた理由だった。
「で、あなたは、どう思いますか? 我々が出した、この結論を……」
「あの……心身喪失・心神耗弱での無罪や減刑を狙うのなら、流石に無理が……いや、本当に先生が@#$%だとしても、国民感情が……」
「我々は理性的ですよ。理性的だから……同じような研究をしていても、細かいやり方が違う複数の学者が相互に検証し合った。でも……シミュレーションの結果は……同じだった」
「いや……待って下さい、どうなってるんですか?」
「話を判りやすくする為に、政治家や政党を4つのタイプに分けましょう。善良かつ頭が良い。善良かつ頭が悪い。邪悪かつ頭が良い。邪悪かつ頭が悪い」
「でも……善良さとか、頭の良さって、人によってイメージするモノが違いませんか?」
「ここで云う善良さは近代国家における政治家としての誠実さと思って下さい。例えば国民を騙さない、公文書や公的な統計を改竄しない……その他、政治家としてのズルをしないと云う事です。そして、頭が良いとは……長期的な視野を持ち、短期的には得になっても長期的には損になる選択はしない、という事です」
「は……はぁ……」
「複数の違った手法によるシミュレーションの結果、まず、善良かつ頭が良い政党や政治家が脱落しました」
「ま……まぁ、そりゃ、善良さと頭の良さは……相性が悪そうですからね。下手に善良だと……現実主義に徹する事が出来なそうだ」
 その時、学者センセイの顔が曇った。
「次に脱落するのは……善良で頭が悪い政党・政治家か、邪悪で頭が良い政治家になります。どちらが先に脱落するかは……詳細は省きますが、ほんのわずかな条件の違いが大きな要因となる事が突き止められました」
「え……えっと……ちょ……ちょっと待って下さい」
「どうしました?」
「あ……あの……何で、同じ邪悪なら……頭が悪い方が勝つんですか?」
「逆に訊きます。?」
「何故って……そりゃ……あの……頭が悪い方が……例えば、その……給料が高くなるとか、生活がマシになるとか、そんな事が起きたら……えっと……
「では、?」
「えっ?」
「邪悪であっても頭が良くなるには、コストがかかる。そして、邪悪であっても頭がいい政治家や政党は、短期的にはメリットが有っても、長期的にはデメリットが大きい政策を取ろうとしない。
「そ……そんな……馬鹿な……」
「我々は善良な政党や政治家に政権を取らせようとしたんじゃない。我々は……我々が『邪悪だが頭が良い』と見做した政治家に、どうすれば彼らやその所属政党が有利な社会が作れるかの方策を送りました」
「へっ?」
「だから、ね。でも、失敗しました。結局、何もかも遅過ぎた。せめて、もっと早く、我々が出したのと同じ結論を出した誰かが居てくれていたなら……」
「い……いや……でも……先生は……今の政権与党が『邪悪かつ頭が悪い』と思ってらっしゃいますが……そんなに世の中悪くなってますか? 先生が若い頃より……この国はマシになってんじゃないですか?」
「本当にそうですかね?」
「失礼ですが……全ては……先生達、御老人の懐古主義から生まれた妄想じゃないんですか? だって、みんな言ってますよ。今の我が国は……長年に渡る停滞を抜け出して、世界が羨む素晴らしい国になった、って……」
「そこは……貴方の御判断に任せますよ……。その点を議論しても平行線のままになりそうだ」
「そうですね……。ああ、そうだ……お子さんとお孫さんが亡くなられたそうですね。お悔やみ申し上げます」
「ええ……孫は……まだ5歳でしてね……。
「いや……大丈夫ですよ、。苦しいのは一時で……その後の日本には薔薇色の未来が待ってますよ。……政府も国民も……みな、そう信じてますから」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...