変身できなくなったヒーローの憂鬱

蓮實長治

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変身できなくなったヒーローの憂鬱

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 あの能力が発現した直後、ちょっとしたコネが有ったので「ヒーロー組合」みたいな組織に入る事になった。
 けど、そこの先輩パイセンに、まず、言われたのは「セカンド・キャリアは考えてるのか?」だった。
 1人前と言える程の経験を積んだ頃には、能力は下り坂に入ってるケースが結構有るらしい。いや、それは良い方で、悲惨なのになると、ある日、突然、能力が消えてしまった、なんてのも……まぁ、あくまで稀な例らしいけど。
 しかも、十把一絡げの「ヒーロー」より、十年ぐらいの経験が有る後方支援要員……例えば医療チームとか一般市民の非難誘導をやる為のスキルを持ってる人とか……の方が、給料が高い事など良く有る事だそうだ。
 外部の人間が想像するような「能力によるランク付け」なんかは、実際にはほぼ不可能で、給料・格付けは成果主義でやるしか無い。
 その結果「本気を出して戦うと辺りの地形が変りかねない」ような超チート級だけど迂闊に前線に出せない「ヒーロー」より、どんなケースでも必要とされるような能力・スキルを持ってて、仕事を卒なくこなせる「そこそこの人」の方が「成果」を上げる事になる。
 どんな業界でも、チートな天才より、地道な秀才の方が大成するものらしい。

 その日、自宅の隣の市で起きた魔法使い系の暴走族……とんでも無い事に乗ってるのは車やバイクじゃなくて裏市場で入手したらしい軍用ヴィークルだ……と武闘派暴力団が使っている戦闘用ロボット……これまた洒落にならない事に4m級の戦闘用パワーローダーまで現われた……の大喧嘩を鎮圧し終えた頃には、夜の十時を過ぎていた。
 バイクに乗って自宅の近所のコンビニにまで辿り着いた。
 変身は解いてる筈なのに、無茶苦茶、ダルい。
 コンビニに寄って夜食を買っていると……。
「おい、姉ちゃん、こんな時間に女の1人歩きは危ないぞ……。そうだ……おじさんが家まで送って……」
「部長……やめて下さい」
「す……すいません、ちょっと酔ってるみたいで……」
「何言ってる? 俺は酔ってなんかねぇぞ……」
 あたしに絡んで来たのは……五十前後らしい酔っ払いのおっさん。
 そして、その酔っ払いを宥めようとしている若い男が2人。
 3人とも背広なので……多分、会社の飲み会か何かの帰りだろう。
「あ……結構です……」
 愛想笑いをしながらレジに向かおうとする。
「何、言ってんだ。大人の言う事は、ちゃんと聞くもんだぞ……。親からどんな教育を受けてきたんだ……。そうだ……君の親に代って、おじさんが、今晩、ゆっくりと教育をしてあげよう」
「部長、いい加減にして下さい」
「ああっ? 誰に向かって言ってんだ? 馘になりてぇのか?」
「やめて下さい‼」
 そう叫んだ瞬間……。
「うわああ……」
「何だっ⁉」
「誰か……警察か……スーパーヒーローを呼んでくれ……」
 背広姿の3人の男と、店員達は大騒ぎを始めた。

 どうやら、一時的に「変身後の姿」になってしまったらしい。
 問題は、ヒーロー稼業をやってるのに、私の「変身後の姿」が昔話に出て来る「鬼」にしか見えない事だった。
 鏡を見るのが恐い。
 しかし……肌の色は元に戻ってるみたいだ。
 試しに外を出歩いても……誰も何も騒がない。
 やれやれ……どうやら、人間の姿に戻れたようだ。

 しかし、別の問題が持ち上がった。
 先日、隣の市で起きた暴走族とヤクザの抗争は、更に大きな犯罪組織同士の代理戦争だったらしい。
 とうとう、暴走族とヤクザの裏に居た犯罪組織が、追加人員を送り込み……事態はどんどん酷くなり、私は再び「出勤」する羽目になった。

 出勤前にアパートの大家さんと出会してしまった。
 大家さんは、一瞬「あれっ?」と云う顔をして……それから何かに気付いたようだった。
「ああ……お化粧変えました?」
「えっ?」
 どう云う事だ? 私は、今、ノーメイクなんだけど……。

 続いて、出勤中にスピード違反で警察に止められ……。
「はい、免許証出して。あとヘルメット取って下さい」
「……は……はい……」
 警官は免許証と私の顔を何度も見比べ……そして……。
「あの……失礼ですが……美容整形を受けた事は有ります?」
「へっ?」

「すいません……遅くなりました……」
 何とか、私達のチームの集合場所に辿り着き……。
 ヘルメットを取った瞬間……。
 その内の何人かが「おいっ‼」と云う顔になった。
 後から考えると、その表情が変ったメンバーには、ある共通点が有った。
「あの……どうかしました……?」
「えっと……何で、もう変身してんの?」

「結果出たよ……」
 ウチのチームの取り纏め役から、そう言われた。
 仕事が終って、ウチのチームの「ヒーロー」も「後方支援要員」……ついでに応援に来てた他チームのメンバー全員と面談を行なった。
 面談と言っても、1人づつ個別に顔を合わせて、まぁ、場合によっては2~3個何かの質問を受けた。
「ええっと……どう云う結果でしょうか?」
「まず……君が『人間の姿に戻ってる』と思ってる時、魔法使い系のヤツは……早い話が『魔力』を検知した」
「えっ?」
「続いて、精神操作系の能力への抵抗訓練を受けてないヤツは、全員、君の姿を『人間』と認識した」
「ちょ……ちょっと……待って下さい。何か……その先は……聞くのに心の準備が要る事とか……」
「うん……」
 私は、深呼吸をした。
「わかりました……言って下さい」
「続いて、精神操作系の能力への抵抗訓練を受けてるヤツは、全員、君の姿を『変身後の姿』と認識した」
「じゃあ……その……まさか……」
「ああ、君は……人間の姿に戻る能力か……『人間の姿』そのものを失なってる。そして、その代りに、無意識の内に……周囲の人間に『自分は人間の姿をしている』と云う魔法系の暗示をかけてるようだ」
「じゃ……じゃあ……その……魔法による暗示って事は……まさか、魔法の効かない監視カメラなんかには……」
「うん……思いっ切り、君の『変身後の姿』が写ってるね」
「ついでに……まさか……疲れてる時とか、動揺した時に、その魔法による暗示が解けちゃう事も……」
「うん……十分有り得るね……。……心当りが山程有りそうだね……」
「あの……私みたいな事になった例は……」
「ごめん……聞いた事も無い」
 どうやら、この稼業を始めた時に言われたように「セカンド・キャリア」をちゃんと考えてた方が良かったようだ。
 しかし、普通じゃない能力を持った人間……広い意味で……が山程居る時代でも……「鬼の姿」のまま、どんな仕事に就いて、どうやって日常生活を送ればいいんだ?
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