ところで、誰だ、あれは?

蓮實長治

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ところで、誰だ、あれは?

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「実はさ……あれが起きた頃、孫がネットで配信されてた韓流ドラマにハマっててさ……」
 久し振りに再会した「同志」は、皇居の新年の一般参賀を待つ間、そう言った。
 俺は、若い頃から民族派活動家……いわゆる右翼で、一緒に居るこいつは大学の頃からの活動家仲間だ。
 「あれ」とは言うまでもなく、約十年前の大災害だ。
 突如として全世界規模でインターネットに「何か」が起きた。
 今もって何が起きたのか判らないようだ。ともかく、メールその他のインターネット経由の通信手段は、事実上、使えなくなり、様々なホームページやSNSも、事実上、見る事は出来なくなった。
 「事実上」と言うのがミソで、時々、メールは届くし、様々なホームーページも見る事は出来たが……その「時々」がいつかは事前には判らず、届いたメールの何割かは文字化けを起していたし、文字化けしていないメールでも、明らかに俺でない誰かに送られたモノが、俺に届く事が有った。
 ホームページやSNSも同様で……文字化けは起きる、文字化けしていない場合でも、どこまで信用出来る内容かは誰にも判らない。
 しかも、携帯電話での通話のネットを経由していたようで、通信手段として使えたのは旧式の……IP電話とやらじゃない、固定の電話やFAXだけだった。
「あれが起きる直前だと……韓国がネットで自分の国のドラマやアイドルを流行らせる為の工作をやってたよな……」
「恥かしながら、自分の孫が、その工作に引っ掛かった訳だ」
「何のドラマだ?」
「歴史モノだ」
「よくある王宮の恋愛ものか?」
「いや、結構、硬派な話でな。朴正熙時代の政治劇だ」
「ああ、それなら、俺の息子夫婦も見てた。たしか、N……で配信してたのだろ?」
「それ、それ……しかし、ちょっと驚いたな」
「何が?」
「いや、最後で史実と違う話になっただろ?」
「そうだっけ?」
「ああ、史実とは違って、朴正熙を暗殺したのは、KCIAの長官だっただろ」
「おい、待て、それが『史実』だろ?」
「いや、違うだろ。朴正熙を暗殺したのは、次の大統領の安成彬だろ?」
「誰だ、それ? 朴正熙の次の韓国の大統領は……あれ? 誰だっけ?」
「あとで、ネットで調べるか?」
「おいおい、まだ、ネット上の情報は信用出来ないぞ……」
「近くの図書館が開いたら調べるか……昔の本でな」
「ああ、たしかに。それが一番信用出来るな……」
 ネットが事実上使えなくなってから、マスコミも機能を停止した。
 政府の発表も一般庶民には届かなくなった……。政府がマトモに機能していたとしてだが……。
 新しい本も出版されなくなり……。
 あまりにも様々なモノがネットに依存し……良く知った飲食店やスーパーやコンビニが次々と潰れ……町の風景は、十年前とそう変わならいのに、個々の店の名前は別物になっていた。
「一体、十年前のあれは何だったんだろうな?」
「さぁ……ネットが使えなくなったのは結果で、実は、もっととんでもない事が裏で起きてたなんて噂も有ったな……」
「なんだ、もっととんでもない事って?」
「どっかの学者が2つの何とかが衝突したの融合したのどうのこうのとか言ってたが……よく意味がわからん」
「ネットがマトモに使えた頃なら、誰かがわかりやすくまとめてくれてただろうな」
「まったく、不便にな……おい、あの端っこの方に居るのは誰だ?」
「ああ……そうだな……あんな皇族居たか?」
「一体、あの……」
「一体、あの……」
「一番左の男は誰だ?」
「一番右の女は誰だ?」
「えっ?」
「えっ?」
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