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たまたま、ほぼ同時に起きた2つの事
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「なんで、ウチの国や、同盟国の若造どもが、わざわざC国から密輸されたスマホを買うんだ?」
2期目の就任式を間近に控えたA国のT大統領は激昂していた。
昨年の大統領選で再選を果たした後、T大統領は、かねてより対立を深めていたC国を「インターネット」から隔離する事に成功した。
もちろん、この所業の結果、より大きな迷惑を被るのは、C国の政府や軍部ではなく、それらに酷い目に遭わされているC国の一般民衆だろう。C国の心有る人達が、自国の政府や軍部が行なっている非道な所業をを国外に知らせようとしても、その手段が、また1つ失なわれる事になった……それもA国を初めとしてC国を批判し憎んでいる国々の手によって。
とは言え、少なくとも近現代において、戦争から経済制裁まで「ある国の非道を他の国が止めようとする」手段は、どれ1つとして「その手段を行使したが最後、制裁対象国の中でも、立場の弱い同情すべき人々こそ、最も酷い目に遭う」と云う根本的な欠陥を克服出来ていないので、C国の罪無き一般国民の皆様におかれては、耐え難く忍び難き生活の不便を耐え忍ぶか、憎悪の対象を自国の政府からお節介な他国に変更するか、さもなくば収容所の中で惨めに死んでいただくしか有るまい。
ところが奇妙な事に、陸上・海底を問わず、C国と国外を結ぶ通信ケーブルを1つ残らず物理的に断ち切ったのと前後して、A国とその同盟国にC国製のスマホが大量に密輸され始めた。もちろん……密輸されるのは売れるからだ。
「そ……それが……これは正確にはスマホではありません」
いつもより機嫌が悪い大統領に説明をする羽目になった不幸な連邦政府職員は、押収された「密輸品のC国製のスマホ」のサンプルを見せながら、恐る恐るそう言った。
今の所、押収されたものの数十倍か下手したら百倍を超える「密輸スマホ」が、A国とその同盟国内で流通していると見られていた。
「スマホにしか見えねぇだろ、これは?」
「確かに部品の9割以上はスマホと共通しています……スマホの規準では、かなり高性能なモノでは有りますが……。OSも我が国でも使われてる一般的なスマホのOSです。バックドアが仕込まれている可能性は否定出来ませんし、インストール可能なアプリも、多言語化はされていますが、C国独自のアプリストアで配布されているものだけです。しかし、やはり、これは正確にはスマホではありません」
「いや、聞けば聞くほど、スマホにしか思えねぇぞ」
「これは衛星電話です。衛星回線を経由して、国外と切断された筈のC国内のネットワークにアクセスする機能を持っています」
「待て。何で、ウチみたいな自由な国の若造どもが、わざわざ、独裁国家の国内ネットワークにアクセスしようとしてるんだ?」
連邦政府職員は、心の中で「ウチの国も、自由な国じゃなくなりつつ有るけどな。あんたのせいで」と毒突いた。とは言え、何だかんだ言っても、まだ、A国の方がC国よりも遥かに「自由」であるのは確かなので、「自由な国の人間が、わざわざ、独裁国家の国内ネットワークにアクセスしようとしている」と云う不可解な現象が起きていると云う謎は解けないままだった。
「また、ゲーム会社が、ウチのアプリストアからゲームを引き上げました」
「お……おい……どうなってるんだ?」
「商売敵のG社のアプリストアでも同じ事が起きてます」
スマホ大手のA社ではゲームの課金による収益が、ここ数ヶ月、減少し続けていた。A社の商売敵であるG社でもだ。
A社・G社ともに、かなり阿漕な「ショバ代」をゲーム会社から搾取し続けていたので、ついに、いくつものゲーム会社が反乱を起こしたのだ。
「でも……やつらは……一体、どこから収益を上げてるんだ?」
据置き型のゲーム機やPCも有るが、スマホの収益が無くなったのを補えるレベルでは無い筈だ。
「我々の知らない所で、新しい商売敵でも現われたのか?」
「そんな馬鹿な……」
更に数ヶ月後、A国で多数のゲーム会社が摘発された。
収益が減っている筈なのに、社員をレイオフする事なく、給料を支給し続けていたせいで、流石に国税局が怪しみ出したのだ。
容疑は、脱税・密輸・禁止されているC国との商取引。下手をしたら国防関係の法律違反も追加される可能性も有る。
A社やG社による搾取にうんざりしたゲーム会社は……A社やG社が関わっていないC国のアプリストアでゲームを配布し、A社やG社に「ショバ代」を取られずにユーザに課金をしようとしたのだった。
2期目の就任式を間近に控えたA国のT大統領は激昂していた。
昨年の大統領選で再選を果たした後、T大統領は、かねてより対立を深めていたC国を「インターネット」から隔離する事に成功した。
もちろん、この所業の結果、より大きな迷惑を被るのは、C国の政府や軍部ではなく、それらに酷い目に遭わされているC国の一般民衆だろう。C国の心有る人達が、自国の政府や軍部が行なっている非道な所業をを国外に知らせようとしても、その手段が、また1つ失なわれる事になった……それもA国を初めとしてC国を批判し憎んでいる国々の手によって。
とは言え、少なくとも近現代において、戦争から経済制裁まで「ある国の非道を他の国が止めようとする」手段は、どれ1つとして「その手段を行使したが最後、制裁対象国の中でも、立場の弱い同情すべき人々こそ、最も酷い目に遭う」と云う根本的な欠陥を克服出来ていないので、C国の罪無き一般国民の皆様におかれては、耐え難く忍び難き生活の不便を耐え忍ぶか、憎悪の対象を自国の政府からお節介な他国に変更するか、さもなくば収容所の中で惨めに死んでいただくしか有るまい。
ところが奇妙な事に、陸上・海底を問わず、C国と国外を結ぶ通信ケーブルを1つ残らず物理的に断ち切ったのと前後して、A国とその同盟国にC国製のスマホが大量に密輸され始めた。もちろん……密輸されるのは売れるからだ。
「そ……それが……これは正確にはスマホではありません」
いつもより機嫌が悪い大統領に説明をする羽目になった不幸な連邦政府職員は、押収された「密輸品のC国製のスマホ」のサンプルを見せながら、恐る恐るそう言った。
今の所、押収されたものの数十倍か下手したら百倍を超える「密輸スマホ」が、A国とその同盟国内で流通していると見られていた。
「スマホにしか見えねぇだろ、これは?」
「確かに部品の9割以上はスマホと共通しています……スマホの規準では、かなり高性能なモノでは有りますが……。OSも我が国でも使われてる一般的なスマホのOSです。バックドアが仕込まれている可能性は否定出来ませんし、インストール可能なアプリも、多言語化はされていますが、C国独自のアプリストアで配布されているものだけです。しかし、やはり、これは正確にはスマホではありません」
「いや、聞けば聞くほど、スマホにしか思えねぇぞ」
「これは衛星電話です。衛星回線を経由して、国外と切断された筈のC国内のネットワークにアクセスする機能を持っています」
「待て。何で、ウチみたいな自由な国の若造どもが、わざわざ、独裁国家の国内ネットワークにアクセスしようとしてるんだ?」
連邦政府職員は、心の中で「ウチの国も、自由な国じゃなくなりつつ有るけどな。あんたのせいで」と毒突いた。とは言え、何だかんだ言っても、まだ、A国の方がC国よりも遥かに「自由」であるのは確かなので、「自由な国の人間が、わざわざ、独裁国家の国内ネットワークにアクセスしようとしている」と云う不可解な現象が起きていると云う謎は解けないままだった。
「また、ゲーム会社が、ウチのアプリストアからゲームを引き上げました」
「お……おい……どうなってるんだ?」
「商売敵のG社のアプリストアでも同じ事が起きてます」
スマホ大手のA社ではゲームの課金による収益が、ここ数ヶ月、減少し続けていた。A社の商売敵であるG社でもだ。
A社・G社ともに、かなり阿漕な「ショバ代」をゲーム会社から搾取し続けていたので、ついに、いくつものゲーム会社が反乱を起こしたのだ。
「でも……やつらは……一体、どこから収益を上げてるんだ?」
据置き型のゲーム機やPCも有るが、スマホの収益が無くなったのを補えるレベルでは無い筈だ。
「我々の知らない所で、新しい商売敵でも現われたのか?」
「そんな馬鹿な……」
更に数ヶ月後、A国で多数のゲーム会社が摘発された。
収益が減っている筈なのに、社員をレイオフする事なく、給料を支給し続けていたせいで、流石に国税局が怪しみ出したのだ。
容疑は、脱税・密輸・禁止されているC国との商取引。下手をしたら国防関係の法律違反も追加される可能性も有る。
A社やG社による搾取にうんざりしたゲーム会社は……A社やG社が関わっていないC国のアプリストアでゲームを配布し、A社やG社に「ショバ代」を取られずにユーザに課金をしようとしたのだった。
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