謎の治験データ

蓮實長治

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「妙だな?」
 人類は、100年前に起きたあの感染症の世界的流行とそれによる混乱から、半世紀以上の時をかけて文明を再興させた。
 しかし、あの大流行とそれ以前の記録の多くは、失なわれていた。
 電子媒体が主流になっていた時代に世界的混乱が発生した事が、記録の消失・紛失に拍車をかけていた。
 しかし、あの伝染病のワクチンの紙に印刷された実験データが発見され……。
「実験データで『平熱』とされてる体温が、コンマ数℃ですが……現代で『平熱』とされてる温度より低くなってますね」
「身長や体重も現代人より若干だが大き目だな。まぁ、これは当時の他の遺物からも判明している事だが……」
「あと、注射位置を示す図に書かれている人間の体……何かおかしくないですか?」
「ああ、腕が妙に短く、足が妙に長い……」
「まるで人間と云うより……あの害獣の……」
「訳が判りませんね。ひょっとして、破棄されたワクチンのデータなんですかね? 実験動物に使った場合は副反応として知能の向上が確認されたが、人間に使った場合、知能の低下を引き起す虞れ有りとか書かれてますし」
「あと……この実験動物として使わたらしい?」
「わからん……。読み解くには、歴史学と医学・生物学の両方の知識が必要だな……」
 そう云うと研究者達は、発見された資料をバックパックに収め、それを背負うとで、その場を立ち去って行った。
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