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悪夢の校閲AI
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「あ……あの……何を言ってるんですか?」
俺は編集者からの指摘の意味が判らずに、そう訊き返した。
「は……はい。校閲から『ツイフェミ』と云う単語がオンライン辞書に載っていないので、『ツイフェミ』と云う単語の使い方が正しいか判断出来ない、と云う指摘が有りまして……」
SNS上で、いわゆる「ネット論客」を一〇年近くやって、初めて大手出版社から出す新書だった。
噂では、出版社の校閲は意味不明な指摘をすると言われていたが……どうやら本当だったらしい。
「じゃあ、その校閲の人と話をさせて下さいよ。俺が直接説明します」
「そ……それが……」
「何であんたがここに居る?」
俺と、そのブスは同時にそう言った。
何故か校閲への説明の為に、わざわざ出版社まで出向く羽目になったその日、編集者の机の前で出会したデブ女は……俺の初単行本で「ツイフェミ」の代表として吊るし上げていた小説家の馬場谷雅だった。
「えっと……その……」
説明し難そうな表情の編集者に馬場谷の婆ァは、俺を指差しながら言った。
「ああ……なるほど。貴方、私とこいつの両方の担当編集だった訳?」
「は……はぁ……出版不況で人手が減らされてるんで……」
「で、あんたは何が起きたの?」
「校閲に『ツイフェミ』って単語の意味が判らんと言われた」
「そりゃ、そうだよ。意味が無い単語の意味が判る人間なんて居る訳がない」
「何だと、このツイフェミ⁉」
「私はもっと変な理由。小説に九州弁のキャラを出したら『てにをは』がおかしいって指摘された。ちゃんと方言の専門家に見てもらった筈なのに」
何故か俺達が通されたのはサーバー・ルームだった。
「え……えっと……何で、ここ? あと、何で校閲さんが作業着を着てんの?」
「ついでに……その作業着のロゴ……」
作業着に入っている社名は、この出版社のモノではなく……有名IT企業のモノだった。
「い……いえ……私は校閲じゃなくて、校閲AIの品質保証担当者です」
「へっ?」
「わかりました。じゃあ、何とか上に馬場谷さんの小説の方言の部分に対する校閲の指摘は無視するようにかけあってみます」
「じゃあ、お願いします」
馬場谷と編集者とIT企業の担当者は少し話をした後に、結論が出たようだ。
「一体、何なんですか? 最初から説明して下さい」
「実は……出版不況で、とうとう校閲が契約解除になりまして……」
「契約?」
「今までは、校閲は非正規雇用のフリーランンスだったんですが……とうとう、今期から校閲担当者を雇用する予算が無くなりまして……」
「それで、ウチの作ったAIに校閲をやらせる事になったんです」
「は……はぁ……」
これから何が起きるか判らない。
しかし、今後、この出版社で、俺の想像を遥かに超えた大騒動が起きる事だけは理解出来る。
「ですので、とりあえずの回避策として先生の本に出て来る『ツイフェミ』と云う単語の定義が書かれているWEBサイトを教えていただければ……」
そう言われて俺は、オタク向けイラスト投稿サイトの「牡蠣渋」の「牡蠣渋百科辞典」の「ツイフェミ」の項目を教えてやり……。
数日後、「てにをは」や送り仮名の間違いを修正した原稿を送付し……。
「すいません、また、校閲AIから指摘が有りました」
送って一〇分経たない内に、編集者から連絡が有った。
「はぁ?」
「詳細はメールで……」
何なんだ、一体?
そう思ってメールを見ると……。
『「ツイフェミ」と云う単語は意味が無い単語と定義されています。校閲対象には「ツイフェミ」と云う単語が多用されている為、内容の妥当性を判断出来ません』
い……いや、待て、この前、ちゃんとAIに「ツイフェミ」の意味を教えた筈……ん?
最初と文面がビミョ~に違うぞ?
どういう事だ?「意味が無い単語と定義されています」って?
そう思って、「牡蠣渋百科辞典」の「ツイフェミ」の項目を見ると……。
……編集合戦が起きていた。
編集合戦のせいで「牡蠣渋百科辞典」の「ツイフェミ」の項目には、数行ごとに矛盾する記述が書かれている、と云う無茶苦茶な状況になっていた。
ツイフェミとツイフェミ批判派が言いたい事を書き合っている状況だった。
しかも、「牡蠣渋百科辞典」にはWikipediaのように編集ロック機能が無い。
『「ツイフェミ」と云う単語は「大半はアンチフェミのなりすまし」と定義されていますが、アンチフェミと云う単語が未定義です。また、校閲対象の文章は「ツイフェミは違う意見の者によるなりすまし」と矛盾する記述が有ります。該当する箇所は……』
た……たすけてくれ……どうすればいいんだ?
「何とか、私の契約が切れるまでに手を考えます」
再び、編集者から連絡が入ったが……。
「『契約が切れる』? どう云う事ですか?」
「ああ、私、非正規雇用のフリーランスで、この出版社との契約が、もうすぐ切れるんです」
「ちょっと待って下さい。じゃあ、後任の方は誰に……?」
「『方』でも『誰』でもないです」
「へっ?」
「後任は編集者AIです」
俺は編集者からの指摘の意味が判らずに、そう訊き返した。
「は……はい。校閲から『ツイフェミ』と云う単語がオンライン辞書に載っていないので、『ツイフェミ』と云う単語の使い方が正しいか判断出来ない、と云う指摘が有りまして……」
SNS上で、いわゆる「ネット論客」を一〇年近くやって、初めて大手出版社から出す新書だった。
噂では、出版社の校閲は意味不明な指摘をすると言われていたが……どうやら本当だったらしい。
「じゃあ、その校閲の人と話をさせて下さいよ。俺が直接説明します」
「そ……それが……」
「何であんたがここに居る?」
俺と、そのブスは同時にそう言った。
何故か校閲への説明の為に、わざわざ出版社まで出向く羽目になったその日、編集者の机の前で出会したデブ女は……俺の初単行本で「ツイフェミ」の代表として吊るし上げていた小説家の馬場谷雅だった。
「えっと……その……」
説明し難そうな表情の編集者に馬場谷の婆ァは、俺を指差しながら言った。
「ああ……なるほど。貴方、私とこいつの両方の担当編集だった訳?」
「は……はぁ……出版不況で人手が減らされてるんで……」
「で、あんたは何が起きたの?」
「校閲に『ツイフェミ』って単語の意味が判らんと言われた」
「そりゃ、そうだよ。意味が無い単語の意味が判る人間なんて居る訳がない」
「何だと、このツイフェミ⁉」
「私はもっと変な理由。小説に九州弁のキャラを出したら『てにをは』がおかしいって指摘された。ちゃんと方言の専門家に見てもらった筈なのに」
何故か俺達が通されたのはサーバー・ルームだった。
「え……えっと……何で、ここ? あと、何で校閲さんが作業着を着てんの?」
「ついでに……その作業着のロゴ……」
作業着に入っている社名は、この出版社のモノではなく……有名IT企業のモノだった。
「い……いえ……私は校閲じゃなくて、校閲AIの品質保証担当者です」
「へっ?」
「わかりました。じゃあ、何とか上に馬場谷さんの小説の方言の部分に対する校閲の指摘は無視するようにかけあってみます」
「じゃあ、お願いします」
馬場谷と編集者とIT企業の担当者は少し話をした後に、結論が出たようだ。
「一体、何なんですか? 最初から説明して下さい」
「実は……出版不況で、とうとう校閲が契約解除になりまして……」
「契約?」
「今までは、校閲は非正規雇用のフリーランンスだったんですが……とうとう、今期から校閲担当者を雇用する予算が無くなりまして……」
「それで、ウチの作ったAIに校閲をやらせる事になったんです」
「は……はぁ……」
これから何が起きるか判らない。
しかし、今後、この出版社で、俺の想像を遥かに超えた大騒動が起きる事だけは理解出来る。
「ですので、とりあえずの回避策として先生の本に出て来る『ツイフェミ』と云う単語の定義が書かれているWEBサイトを教えていただければ……」
そう言われて俺は、オタク向けイラスト投稿サイトの「牡蠣渋」の「牡蠣渋百科辞典」の「ツイフェミ」の項目を教えてやり……。
数日後、「てにをは」や送り仮名の間違いを修正した原稿を送付し……。
「すいません、また、校閲AIから指摘が有りました」
送って一〇分経たない内に、編集者から連絡が有った。
「はぁ?」
「詳細はメールで……」
何なんだ、一体?
そう思ってメールを見ると……。
『「ツイフェミ」と云う単語は意味が無い単語と定義されています。校閲対象には「ツイフェミ」と云う単語が多用されている為、内容の妥当性を判断出来ません』
い……いや、待て、この前、ちゃんとAIに「ツイフェミ」の意味を教えた筈……ん?
最初と文面がビミョ~に違うぞ?
どういう事だ?「意味が無い単語と定義されています」って?
そう思って、「牡蠣渋百科辞典」の「ツイフェミ」の項目を見ると……。
……編集合戦が起きていた。
編集合戦のせいで「牡蠣渋百科辞典」の「ツイフェミ」の項目には、数行ごとに矛盾する記述が書かれている、と云う無茶苦茶な状況になっていた。
ツイフェミとツイフェミ批判派が言いたい事を書き合っている状況だった。
しかも、「牡蠣渋百科辞典」にはWikipediaのように編集ロック機能が無い。
『「ツイフェミ」と云う単語は「大半はアンチフェミのなりすまし」と定義されていますが、アンチフェミと云う単語が未定義です。また、校閲対象の文章は「ツイフェミは違う意見の者によるなりすまし」と矛盾する記述が有ります。該当する箇所は……』
た……たすけてくれ……どうすればいいんだ?
「何とか、私の契約が切れるまでに手を考えます」
再び、編集者から連絡が入ったが……。
「『契約が切れる』? どう云う事ですか?」
「ああ、私、非正規雇用のフリーランスで、この出版社との契約が、もうすぐ切れるんです」
「ちょっと待って下さい。じゃあ、後任の方は誰に……?」
「『方』でも『誰』でもないです」
「へっ?」
「後任は編集者AIです」
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