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偽りの神水
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『「抗ゾンビ化薬」についてのデマも下火になりましたね』
実家の最寄り駅のベンチでSNSを見ていたら、そんな書き込みが目にとまった。
そのSNSの書き込みの主は、仙台大学の津山教授だった。
国民の八〇%近くが「抗ゾンビ化薬」の定期摂取を受けるようになったお蔭で、俺も、ようやく正月に帰省できるようになった訳だが……。
『でも、例の「高浜の神水」を出してる会社の売上は伸びてるみたいですよ』
ところが津山教授の書き込みに、そんなリプライが付いていた。
「高浜の神水」とは……ゾンビ禍が始まる前から、元首相の1人が愛飲していた事で知られていた超高級ミネラル・ウォーターだ。だが……「工作員」を雇ってSNS上などで普通に宣伝すれば薬事法に引っ掛かるような宣伝をやっていると噂されていた。
販売会社が「この水を飲めば、この病気が治ります」などと宣伝すれば、役所からの指導が入る。
当然だ。薬ではなく「ミネラル・ウォーター」なのだから。
しかし……販売会社から金を受け取っているが、その金に対して何重もの「ロンダリング」が行なわれ、販売会社との繋がりを証明するのが難しい「工作員」が、SNSで宣伝をやっていれば、それを止めさせる手段は、SNSの規約違反ぐらいしか無い。
半年ほど前にも、この「高浜の神水」が問題になったのは「抗ゾンビ化薬を接種しなくても、この水を飲んでいれば、ゾンビに噛まれてもゾンビ化しない」と云う事をSNSに書き込んでいた「工作員と証明するのが難しい工作員」が山程居た為だ。
その手のニセ科学を批判している我々が根気良くSNSの運営に抗議をした結果、「工作員と証明するのが難しい工作員」のアカウントの大半は凍結された筈なのだが……。
「おい……迎えに来たぞ……。車はあっちに止めてる」
その時、父親の声がした……。
元気がない……いや……。
「と……父さん……?」
「ほら……いくぞ……」
父親の目は虚で……顔は真っ赤……足下はふらつき……手には……。
おい、何で、俺の父親が、あの水のペットボトルを持ってる。
「だ……大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ……何ともない」
「で……でも……」
「抗ゾンビ化薬の接種を、ようやく接種会場が年末年始で閉まる直前に受けられたんでな……。ちょっと副反応が出てるかも知れないが……」
いや、ちょっとって……あれを打って4~5日は、下手したら四〇℃近い熱が出るんで、自宅で安静してる事が推奨されてる筈……。
「あの……大丈夫なの?」
「ああ、ネットに『これを飲んでりゃ、副反応は押えられる』って書いてあったんでな。買ってみたんだ」
そう言って、父親は手にしていた「高浜の神水」を俺に見せた。
しまった……。その手が有ったか……。
「多少、熱っぽいが……言われてた程に酷くはない。本当に効くな、これ……」
いや、どう見ても酷い状態で、気付いてないのは親父だけだよ……。
「1ダース入りのを一〇個注文したよ。ちょっと高価かったけどな」
「あ……車……俺が運転するよ……」
「何、言ってんだ。お前、学生の頃に免許取ってから、車、ロクに運転してないだろ」
た……た……たすけてくれ……。
実家まで、約3㎞弱。それを……この明らかに高熱が出てる父親が運転する車で……。いや、往路は無事だったんだから……復路だって……本当に大丈夫なのか?
俺は……実家に帰り着けるのか?
実家の最寄り駅のベンチでSNSを見ていたら、そんな書き込みが目にとまった。
そのSNSの書き込みの主は、仙台大学の津山教授だった。
国民の八〇%近くが「抗ゾンビ化薬」の定期摂取を受けるようになったお蔭で、俺も、ようやく正月に帰省できるようになった訳だが……。
『でも、例の「高浜の神水」を出してる会社の売上は伸びてるみたいですよ』
ところが津山教授の書き込みに、そんなリプライが付いていた。
「高浜の神水」とは……ゾンビ禍が始まる前から、元首相の1人が愛飲していた事で知られていた超高級ミネラル・ウォーターだ。だが……「工作員」を雇ってSNS上などで普通に宣伝すれば薬事法に引っ掛かるような宣伝をやっていると噂されていた。
販売会社が「この水を飲めば、この病気が治ります」などと宣伝すれば、役所からの指導が入る。
当然だ。薬ではなく「ミネラル・ウォーター」なのだから。
しかし……販売会社から金を受け取っているが、その金に対して何重もの「ロンダリング」が行なわれ、販売会社との繋がりを証明するのが難しい「工作員」が、SNSで宣伝をやっていれば、それを止めさせる手段は、SNSの規約違反ぐらいしか無い。
半年ほど前にも、この「高浜の神水」が問題になったのは「抗ゾンビ化薬を接種しなくても、この水を飲んでいれば、ゾンビに噛まれてもゾンビ化しない」と云う事をSNSに書き込んでいた「工作員と証明するのが難しい工作員」が山程居た為だ。
その手のニセ科学を批判している我々が根気良くSNSの運営に抗議をした結果、「工作員と証明するのが難しい工作員」のアカウントの大半は凍結された筈なのだが……。
「おい……迎えに来たぞ……。車はあっちに止めてる」
その時、父親の声がした……。
元気がない……いや……。
「と……父さん……?」
「ほら……いくぞ……」
父親の目は虚で……顔は真っ赤……足下はふらつき……手には……。
おい、何で、俺の父親が、あの水のペットボトルを持ってる。
「だ……大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ……何ともない」
「で……でも……」
「抗ゾンビ化薬の接種を、ようやく接種会場が年末年始で閉まる直前に受けられたんでな……。ちょっと副反応が出てるかも知れないが……」
いや、ちょっとって……あれを打って4~5日は、下手したら四〇℃近い熱が出るんで、自宅で安静してる事が推奨されてる筈……。
「あの……大丈夫なの?」
「ああ、ネットに『これを飲んでりゃ、副反応は押えられる』って書いてあったんでな。買ってみたんだ」
そう言って、父親は手にしていた「高浜の神水」を俺に見せた。
しまった……。その手が有ったか……。
「多少、熱っぽいが……言われてた程に酷くはない。本当に効くな、これ……」
いや、どう見ても酷い状態で、気付いてないのは親父だけだよ……。
「1ダース入りのを一〇個注文したよ。ちょっと高価かったけどな」
「あ……車……俺が運転するよ……」
「何、言ってんだ。お前、学生の頃に免許取ってから、車、ロクに運転してないだろ」
た……た……たすけてくれ……。
実家まで、約3㎞弱。それを……この明らかに高熱が出てる父親が運転する車で……。いや、往路は無事だったんだから……復路だって……本当に大丈夫なのか?
俺は……実家に帰り着けるのか?
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