Storm Breakers:第一部「Better Days」

蓮實長治

文字の大きさ
1 / 78
序章

十年前

しおりを挟む
「ねえ、あたし達って、何やれば良かったんだっけ?」
「ええっと……陽動……」
「悪モンの親玉の家を派手にブッ壊す事って、陽動って呼ぶんだっけ?」
「……」
「帰りは安心だな……。一夜にして関西の軍事バランスが崩れちゃったんで、奴らには私らを追撃する余裕なんて無いだろうしな」
「…………」
 ここは、あたし達が住んでいる九州は福岡県から遠く離れた大阪府の吹田市。
 かつて、万博記念公園と呼ばれていた場所の近くだ。
 夜が明ける頃には、わざわざ万博記念公園を潰して作られたモノも灰と瓦礫の山と化しているだろうけど。
「ところでさ……お前、靖国神社に怨みでも有るのか?」
 あたしの双子の姉であるらんちゃんにそう言ったのは、ひなたちゃんだ。……本名は関口陽、ヒーローとしてのコードネームは「大元帥明王アータヴァカ」。強化装甲服パワードスーツ水城みずき」の「パワー型」を着装した「修験道系『魔法少女』」だ。
 いや、「魔法『少女』」と言うと怒られるので(あたし達姉妹きょうだいも、今年の3月に高校を卒業し、ひなたちゃんは、そのあたし達より更に1~2歳上だ)「魔法使い」と呼ぶべきか。
「怨みと呼べる程の『思い入れ』が有るんなら、あんな雑なブッ壊し方なんてやらない」
「ああ、そう言や、前回も雑な壊し方だったな」
 姉とは言っても、あたし達が赤ん坊の頃に両親が離婚したせいで、別々に育ち……あたしが瀾ちゃんと云う姉が居るのを知ったのは、高校に入る直前だった。
 その「姉」が着装しているのは、超チート級の戦闘用強化装甲服パワードスーツ「護国軍鬼4号鬼」。
 「護国」と言っても、十数年前の富士山の噴火で関東が壊滅して以降、日本の「国」って何だ、と云う極めて哲学的かつ実際的な問題が生まれ……そして、未だに回答の糸口すら見出せていない。
 実際、あたし達の仲間の一人で、瀾ちゃんの恋人であるエイミー……ヒーローとしてのコードネームは「青き戦士ソルジャー・ブルー」……は、生まれも育ちも民間軍事企業の研究所なのに「自分の民族的エスニック・アイデンティティーは『スコッチ・アイリッシュ系アメリカ人』だ」と言い張っている。
 世界各地で「国」が機能しなくなってからは、それが「普通」になりつつあるのかも知れない。国籍も民族も……下手したら性別さえも「自分が何者かを自分で決める為の補助線や道具」と化しつつあるのかも……。いや、エイミーの場合は、単にアメコミのキャプテン・アメリカのファンだから、スティーブ・ロジャースと同じになりたいだけだろうけど。
 話を戻そう。
 あたし達の目に映っているのは……そして、かつて「万博記念公園」が有った場所に建てられたけど、もうすぐ単なる廃墟と化すであろうモノは……関東が壊滅して以降に作られた2つの「贋物の靖国神社」の内の残り1つ。通称「シン靖国神社」だ。
 もう1つは、壱岐と唐津の間の人工島「Neo Tokyo Site01」の通称「九段」地区に存在したが……3年前に瀾ちゃんが、ある理由で「死んだフリ」をする羽目になった際に「ついで」に爆破されてしまった。
 ちなみに、この「大阪」に有る方の「贋物の靖国神社」は、どうやら精神操作系の特異能力者らしい自称「シン天皇」が住む、これまた自称「シン皇居」も兼ねている。なお、本当に旧皇族の一員かは不明。
 いや、「シン皇居」を兼ねている、ってのは不正確だ。正確には「兼ねていた」。
 金も社会的地位も十分に有るのに、もうすぐ廃墟になる場所に住み続けるのは少しもオススメ出来ない。
 「シン天皇」が生きていても、そろそろ、引越し先を探して、引越し業者に見積を依頼した方がいい。
 多分、家具とかもほぼ全部無くなってるだろうから引越し費用がかからないのは、この状態での数少ない救いだろう。……生きていればだけど。
 ここ、自称「シン日本首都」こと旧大阪府が誇る珍兵器「陸上戦艦『移動式・護国神社』」が何台も制御を失なって、「シン靖国神社」に突入し、そして互いに衝突したり、積んでる大砲やミサイルを乱射したり……まあ、控え目に言ってもエラい事になっている。要は、自分達の兵器を、自分達が「日本の正統な国家元首だ」と主張してる人物の住居にKamikazeさせてしまったのだ。そのうち歴史の本に載る事間違いなしの派手で豪快で色々と残念な自殺点オウンゴールだ。
 その時、陽ちゃんの脈拍が変化。
「どしたの……?」
「あ……ああ、『観えない』んだな……。あのデカブツ、『魔法』系の兵器も積んでたみたいで……それも暴走して……ヤバい『異界』への『門』が次々と開いてる」
「なんだ……いつもの事か」
「困った事に『いつもの事』だ」
 続いてドデカい火柱。
「何、あれ?」
「そりゃ、ガソリンと火薬を山程詰んでるモノに火が回れば、ああなる」
 今度の解説は瀾ちゃん。
「『最新兵器』なのにEV電動車じゃないの?」
「あのデカさのモノを電動化するのは……まだ技術的に難しい上に……今じゃ『大阪』の内と外の技術格差は5年分ぐらいは有る筈だ」
「あたしの能力ちからで、あの火を消した方がいいかな?」
「あれの消火に必要なのは……水より、化学消防車だな……」
 残念ながら「ヒーロー稼業」を始めてから、何度も、この手の「歴史に残る一大スペクタクル」の現場に居合せる羽目になったので、あまり感慨は無い。ああ……自分でも色々と感覚が麻痺してる事だけは良く判る。
 確かに瀾ちゃんの言う通りだ……。「怨み」も、また、「思い入れ」の一種。愛の反対は憎しみではなく無関心。誰かに憎まれ怨まれてるなら、まだ、安心だ。力を持つ誰かが、自分の大切なモノに何の関心も持っていない時こそ、あっさりと、無惨かつ面白おかしく、どたどたどたどたどたぁっ♪って感じでティラノサウルスのむれか何かが走り去った後みたいな状態と化す事を心配した方がいい。
「あのさあ……何で……いつも、こうなるんだよ……」
 この自称「シン日本首都」こと旧大阪府は、無法地帯でも全体主義国家でも無い。
 そのどちらよりも更に酷い。
 両方の悪いとこ取りだ。
 チート能力は持ってるけど、阿呆さに関してもチート級のヤツが支配する……普通はあっさり破滅の炎に焼かれるけど、その結果、不死鳥のようにもっとマシな状態になって甦る筈の社会が、支配者のチート能力によりゾンビのように死に切れずにいる、と云う最低最悪の状態だ。支配者は変る気配が無いのに、社会システムは破綻している。最近の社会学者が「ゾンビ社会ソサイエティ」「ゾンビ共同体コミュニティ」と呼んでるモノの典型例だ。
 あたし達の今回の任務は……そこから「難民」を隣県に逃す事……。
 そこに関しては、専門のチームがそつなくやって、あたし達は、言わば「超強いだけの囮」。
 「事実上の大阪政府」である「獅子の党」は、今や旧時代の遺物にして異物と化した連中の集団だ。
 「大阪」の真の支配者である「精神操作系の特異能力者」は「手駒」として「精神操作能力への耐性を欠いたメンタリティ」の持ち主……昔風の言い方をすれば「体育会系」や「ヤンキー」……を揃えてしまった上に、「精神操作能力」への耐性が有る人達への迫害を行なっていた。
 どうやら、二〇〇一年に存在が明るみに出る前から裏で何かやっていた「精神操作能力者」達は……秘かに「自分達の能力に耐性が無いメンタリティの持ち主ほど出世しやすい社会」を作っていたらしいのだが、今の「大阪」の「真の支配者」は、それを歴史上、最も堂々かつあからさまにやり始めた。
 その事態を何とかする為に、あたし達が囮になってる間に、万単位の『精神操作能力への耐性持ちの人達』を『亡命』させる、と云う手筈を整えていた筈だった。なにせ、「大阪」の上層部は、異常に面子に拘る直情的で短絡的で、それでいて自分達を冷静で合理的で理性的だと信じ込んでるマヌケが揃ってるんで、精神操作能力なんて無くても操り易い事、この上無い。
 けど……いつも……こうなる……。あたし達と云う「囮」が……少々、チート過ぎたらしい。ゾンビから生きた一般人を逃す作戦の囮役が、あっさりゾンビの半数以上を虐殺してしまったような感じだ。
 そして、瀾ちゃんは……理性・合理性・知性を兼ね備えてるのに……何故かいつも結果として、単に、悪モンを大量虐殺し、建物や町をブッ壊す……だけで済んだら、まだマシなオチを作り出す。……あたし達が行く先々の「地域社会」は、何故か、瀾ちゃんが関わったが最後、それ以前とは同じで有り続ける事は出来ない。
「なあ、私らがやった事のせいで……『大阪』の支配者が代ったら……難民を逃す意味って、有ったのか?」
「あ……言われてみれば……」
「『言われてみれば』じゃないよ……」
 そうだ……瀾ちゃんのヒーローとしてのコードネームは「羅刹女ニルリティ」。そして、「瀾」と云う名前の意味は「荒波・高波・大波」。
 いつしか、同業者の間でも、悪モン達の間でも、こんな事が囁かれるようになっているらしい……。
「悪鬼の名を騙る苛烈なる『正義の女神』が現われる場所には混沌と新たなる秩序がもたらされる」
 と……。
 いや、こんなクサくてダサいセリフ、本人の前で言ったら、瀾ちゃんの機嫌が悪くなるのは確実だけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...