Storm Breakers:第一部「Better Days」

蓮實長治

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第一章:The Intern

シルバー・ローニン(1)

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「単純な身体能力なら、もう既に、キミはボクたちより上だ」
 師匠の1人であるエイミー・エヴァンスはそう言った。
 立ち上がる事さえ出来ないほど疲れ切った私に対して、同じ時間、ほぼ同じ条件で稽古に付き合っていた師匠は、汗こそかいているが、まだ、ピンピンして、表情には余裕がある。
 体格と、銀色の髪と灰色の目は、故郷で私が想いを寄せていた女性に似ている。
 性格については何から何まで逆だが。
「なら、何で、いつも貴方達に勝てないのだ?」
「何度も言ってるだろ。力の使い方がなっちゃいない」
 私も師匠達もの呼び方では「強化兵士」と呼ばれる存在だ。
 常人を遥かに超えた知能・身体能力を持っていた古代種族「古代天孫族ヴィディヤーダラ日の支族スーリヤ・ヴァンシャ」を再現した存在。
 だが……事情を知らない者には変に聞こえるだろうが、の呼び方では、齢下である私が第一世代で、齢上の師匠達は第二世代だ。
 古代天孫族ヴィディヤーダラ日の支族スーリヤ・ヴァンシャに限りなく近付けた存在が第一世代。
 第一世代の「強化兵士」が持っていた「通常の負傷に対する高速治癒能力と引き換えに、放射線や発癌性の有害化学物質に対する耐性が常人未満」と云う欠点を改良した……言うなれば「能力にリミッターをかける代りに、より運用の幅を大きくした」のが第二世代の「強化兵士」だ。
 師匠達は、確かに常人からすれば驚異的な身体能力を持っているが……それでも、喩えるなら、「短距離走と長距離走の両方で世界トップレベルのアスリート並」……全体として見れば「人間として有り得ない」が、個々の能力は「常人でも才能有る者ならギリギリは訓練で到達可能」な範囲内だ。
 だが……私は……大人になる頃には、常人が訓練で到達出来る域を超えた能力を持つようになるだろう。
 女としても小柄な私が、やがては、力においては、男としても大柄な者と互角以上になれる。
「困りましたね……。私達が教えられるのは基礎だけ。そこから先は……貴方自身が誰もが通った事の無い道を切開いていくしか無い」
 薄緑色のヒジャブを着た女性が、そう言った。もう1人の師匠……エイミーと同じく第二世代の「強化兵士」であるマルヤム・アッ・ラーマンだ。
 「常人用」の戦闘術では、大人になった私の能力を十分に引き出せないのでは無いか?……どうやら、それが、師匠達の最近の懸念事項らしい。
 2人の「師匠」は、この場に居る最後の1人を見た。
「いや、ちょっと待て……僕は、元から、君らより遥かに腕前は下だし、そもそも、『ヒーロー』を引退して何年も経つ」
 そう答えたのは、師匠達より少し齢上の男……医療チームの金子裕天のりたか……おそらくは、私以外では、この最後の「第一世代・強化兵士」だ。
「まぁ、いい……。今日出来なくてもいいから、あれを試してみろ。最初の1回が成功すれば、2回目以降は一〇〇%じゃないにしても、そこそこは上手くいくようになる筈だ」
 身体が疲弊した状態で、心を鼓舞する言葉……人によって違い、「覚悟完了」でも「こん畜生、ブッ殺すぞ」でも宗教的な祈りの言葉でも何でもいい……を唱え、限界を超えた力を引き出す……。
 もし、それに成功したなら、次からは、その時に唱えた言葉が、過剰反応……この地域くにの俗語で言うなら「火事場の馬鹿力」……を自分の意志で引き出す為のキーワードになる。
 私は、自分の恐れを払拭する言葉を唱えた……。に来てから居候している仏教寺院で何度も聞いた経文の一節を……。
 私が最も恐れているのは……私自身の恐れだ。……いつか来るまで何としても生きねばならないと云う想いが……近い将来に来るになって、「死を恐れた結果、逆に、死を招く」ような事態を引き起すのでは無いのか? そんな懸念を抱き続けてきた。
 その迷いを断ち切る言葉は……私の内から力を引き出し……。
 次の瞬間、私は、あっさり師匠に投げ飛ばされた……。
 力もスピードも師匠を上回っていた筈だった。
 だが、その力を、簡単に逆用されたらしい。
「はぁ……お疲れ。今日は、美味しいものでも食って、ゆっくり休んで……」
 師匠は、私の口から訓練用の低酸素マスクを外した。続いて、自分の口からも同じモノを外す。
 私達、古代天孫族ヴィディヤーダラの血を引く者が「火事場の馬鹿力」を引き出した際には、一時的に髪と瞳の色が変るらしい。
 そして、どんな色に変るかは人によって違う……髪に関しては、多くの場合、元の色に似た、しかし、通常の人間の髪には有り得ない金属のような光沢を持つ色になるらしい。
 私の髪は、既に、元の黒い色に戻りつつあった。……しかし、その先端だけは……まだ、色が変ったままだった……。
 その色は……故郷に居る愛する人の髪と同じ……銀色だった。
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