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第一章:The Intern

シルバー・ローニン(6)

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「どう云う事だ?」
「いや……ネットの動画サイトで、たまたま観た言語学者の受け売りだけどさ……日本には、今、『首都』が無いだろ」
「ああ……言われてみれば……」
「二十何年か前に『本当の関東』は富士山の噴火で滅んだ。新しい首都になろうとした大阪も十年前に自滅した」
「あのねえ、あれば『正義の味方』を称するテロリストが……」
 スカートの少女が横から口を出す。
「そこは認識の相違だ。難民を逃がす作戦の陽動に引っ掛かったまではいいが……自分達の兵器を自分達で暴走させて、エラい事になったんだから、どう考えても『自滅』だ」
「お互いの見解はいい。要は東京も大阪も潰れて、今の日本は言わば『首都のない連邦国家』みたいなモノだと言いたいんだろう?」
「その結果、何が起きると思う?」
「起きそうな事は山程有るので、もっと具体的に言ってくれ」
「全国の学校教育を統括してる役所は?」
「無いな」
「全国を網羅してる新聞・TV・ラジオは?」
「なるほど……東京本社は火山灰の下か」
「大手出版社は?」
「どうなった?」
「元々は、本社は東京近辺の場合が多かったが……富士山の噴火以降に再建出来た出版社は……どこか特定の場所に集中してる訳じゃない」
「なら……何が起きてるんだ?」
。何せ、昔だったら日本語の『標準語』を維持してきたモノが、まとめて無くなったんでな。そして、明治以降の日本語の『女言葉』は『標準語』の一部だったそうだ」
「では、『言う』と云う言葉を、私が『ゆう』と読み、彼女が『いう』と読んだのと……私の周囲では、一定年齢以下の女性に『女言葉』を使う人がほとんど居ないのは……喩えるなら、同じ木の別の枝なのか?」
「そう云う事。多分、今後、日本語に『女言葉』が復活しても、元の『女言葉』じゃなくて、各地の方言をベースにしたモノになるだろう……って、ネットで、どっかの言語学者がってた」
「だが、お前のしゃべり方は『標準語』に近い気がするが……?」
「ああ、あたしは根無し草みたいなモノだしな……。あたし自身は……大阪生まれの九州育ちで、育ての親は『本当の関東』生まれの『Neo Tokyo』育ちだ」
 良い悪いは別にして、奇怪な状況かも知れない……。ひょっとして……「
 それなのに、日本と云う国だけは……形骸化しているかも知れないが、存続している。
 では、他の国もそうなっているのか?
 今更だが、どうやら、私は……自分の常識の通じない世界に来てしまったらしい。
「では……何故、彼女は『女言葉』を使っているんだ?」
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