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終章:一週間後
スカーレット・モンク
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その納骨堂に並んでいる名前は……瀾師匠の父方・母方両方の親類や家族だった。
父方の伯父。
母親。
母方の従姉。
双子の妹。
皆「正義の味方」「御当地ヒーロー」としての活動の中で命を落したらしい。
「あの……TCAの政治家どもが『神の怒り』に操られてたにしては……」
「やらかした事が稚拙だと言いたいのか? 答は簡単だ……脳改造はされたが操られてなどいない」
瀾師匠から返って来た答は……意外なモノだったが……。
「奴らは私達と同じ無中枢・分散型の『組織』と呼ぶより『ネットワーク』と称すべき存在だ。古い意味での『組織』とは異なる。そのような連中が、単一の『中枢』『司令塔』により制御された人間のみから成る社会を安定した長続きする社会だと考える筈が無い」
「えっ?」
「奴らの最終目的は……人間に代る『この世界の管理者』を生み出す事。人間の文明や社会を、人間に似て非なる『人類より優れた人類の後継者』に受け継がせる事だ。もちろん『人類より優れた』と云うのは、奴らの評価基準に基いての話だがな……」
「ど……どう云う事ですか?」
「全ての始まりは……二十数年前の富士山の噴火だ。あれは……実は、ある『神の力を持つ者』が引き起こした事態だ」
「ちょ……ちょっと……なんか、話がデカ過ぎて……」
「ああ。その通りだ。話は、ここから一気にデカくなる。二十数年前の富士山の噴火によって引き起された影響は……お前が考えているより遥かに大きかった。なにせ『神の力』の本質は、限定的とは言え『世界の破壊と再創造』『現実改変』だからな。富士の噴火を引き起したのとは別のある『神の力を持つ者』に……地球上に残存する全ての『神の力を持つ者』の殲滅を決意させる程に……。そして、その傍迷惑な『神の力を持つ者』は、自分を含めた『神の力を持つ者』全てを滅ぼす最も効率の良い方法を思い付いた」
「あ……あの……それって……まさか……」
「『科学』や『魔法』が基本的に『秩序』に属するモノなのに対して、『神』は基本的に『混沌』を本質とする。私に取り憑いてる神も例外じゃない。その力は人間の脳内に有る『混沌』の力である『自由意志』を通じて、この世界に発現する。地球上から自由意志を持つ人間が消え去れば、それ以降は『神の力を持つ者』は新たに生まれなくなる。そんな世界をもたらそうとしている者達……この世界に残存する『神』の中で唯一無二の『秩序』に属する神である『時と闇の神』の手足である者達こそ『神の怒り』だ」
「無茶苦茶っすよ」
「知ってる筈だ。この世界は……単一の世界に見えて、3つの時代が重なっている。科学と人間中心主義の時代である近代と……魔法や古代種族の時代である中世と……傍迷惑な神様達が好き勝手やっている神話の時代とがな」
「は……はぁ……」
「チンケな異能力を持ったチンピラが小競り合いをやってる隣町では、傍迷惑な神様同士が世界の存亡を賭けた戦いをやっていて……しかも、その2つの事件が密接に絡み合っていても不思議じゃない。それが、私達が生きている世界、私達が生きざるを得ない時代だ」
そして、瀾師匠は、そっと納骨堂に刻まれた自分の妹の名前を指で触れる。
「これが最後の戦いではないにせよ……最後の大きな戦いになるかも知れない……。何度もそう思ってきたが……結局、戦いは続き、そして、その度に私は大事なモノを失なってきた」
瀾師匠の顔には微笑みが浮かんでいたのに……目には微かな涙が有った。
「なぁ、十いくつしか違わないお前に、子供や孫への遺言みたいな事を頼むのも変だが……」
「何ですか?」
「私達の世代で、戦いを終らせる事が出来なかったら……お前たちの世代が終らせろ。私達が失敗したなら、私達の世代のどこが間違っていたかを必ず突き止め、それを糧にしろ。絶対に終らせろ……私達のような連中を必要とする世の中を……。私達『正義の味方』『御当地ヒーロー』も……その最大の敵である『神の怒り』も確実に過去の遺物に変えろ」
瀾師匠は、深く息をした。
「自分達が不要になった世界を夢見ない者に、戦士の資格は無い」
父方の伯父。
母親。
母方の従姉。
双子の妹。
皆「正義の味方」「御当地ヒーロー」としての活動の中で命を落したらしい。
「あの……TCAの政治家どもが『神の怒り』に操られてたにしては……」
「やらかした事が稚拙だと言いたいのか? 答は簡単だ……脳改造はされたが操られてなどいない」
瀾師匠から返って来た答は……意外なモノだったが……。
「奴らは私達と同じ無中枢・分散型の『組織』と呼ぶより『ネットワーク』と称すべき存在だ。古い意味での『組織』とは異なる。そのような連中が、単一の『中枢』『司令塔』により制御された人間のみから成る社会を安定した長続きする社会だと考える筈が無い」
「えっ?」
「奴らの最終目的は……人間に代る『この世界の管理者』を生み出す事。人間の文明や社会を、人間に似て非なる『人類より優れた人類の後継者』に受け継がせる事だ。もちろん『人類より優れた』と云うのは、奴らの評価基準に基いての話だがな……」
「ど……どう云う事ですか?」
「全ての始まりは……二十数年前の富士山の噴火だ。あれは……実は、ある『神の力を持つ者』が引き起こした事態だ」
「ちょ……ちょっと……なんか、話がデカ過ぎて……」
「ああ。その通りだ。話は、ここから一気にデカくなる。二十数年前の富士山の噴火によって引き起された影響は……お前が考えているより遥かに大きかった。なにせ『神の力』の本質は、限定的とは言え『世界の破壊と再創造』『現実改変』だからな。富士の噴火を引き起したのとは別のある『神の力を持つ者』に……地球上に残存する全ての『神の力を持つ者』の殲滅を決意させる程に……。そして、その傍迷惑な『神の力を持つ者』は、自分を含めた『神の力を持つ者』全てを滅ぼす最も効率の良い方法を思い付いた」
「あ……あの……それって……まさか……」
「『科学』や『魔法』が基本的に『秩序』に属するモノなのに対して、『神』は基本的に『混沌』を本質とする。私に取り憑いてる神も例外じゃない。その力は人間の脳内に有る『混沌』の力である『自由意志』を通じて、この世界に発現する。地球上から自由意志を持つ人間が消え去れば、それ以降は『神の力を持つ者』は新たに生まれなくなる。そんな世界をもたらそうとしている者達……この世界に残存する『神』の中で唯一無二の『秩序』に属する神である『時と闇の神』の手足である者達こそ『神の怒り』だ」
「無茶苦茶っすよ」
「知ってる筈だ。この世界は……単一の世界に見えて、3つの時代が重なっている。科学と人間中心主義の時代である近代と……魔法や古代種族の時代である中世と……傍迷惑な神様達が好き勝手やっている神話の時代とがな」
「は……はぁ……」
「チンケな異能力を持ったチンピラが小競り合いをやってる隣町では、傍迷惑な神様同士が世界の存亡を賭けた戦いをやっていて……しかも、その2つの事件が密接に絡み合っていても不思議じゃない。それが、私達が生きている世界、私達が生きざるを得ない時代だ」
そして、瀾師匠は、そっと納骨堂に刻まれた自分の妹の名前を指で触れる。
「これが最後の戦いではないにせよ……最後の大きな戦いになるかも知れない……。何度もそう思ってきたが……結局、戦いは続き、そして、その度に私は大事なモノを失なってきた」
瀾師匠の顔には微笑みが浮かんでいたのに……目には微かな涙が有った。
「なぁ、十いくつしか違わないお前に、子供や孫への遺言みたいな事を頼むのも変だが……」
「何ですか?」
「私達の世代で、戦いを終らせる事が出来なかったら……お前たちの世代が終らせろ。私達が失敗したなら、私達の世代のどこが間違っていたかを必ず突き止め、それを糧にしろ。絶対に終らせろ……私達のような連中を必要とする世の中を……。私達『正義の味方』『御当地ヒーロー』も……その最大の敵である『神の怒り』も確実に過去の遺物に変えろ」
瀾師匠は、深く息をした。
「自分達が不要になった世界を夢見ない者に、戦士の資格は無い」
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