日本進化論

蓮實長治

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日本進化論

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 その日、我々の国そのものが突然変異を起こして、古い国民を駆逐し、新しい国に適応した新しい国民を生み出し始めた。
 もちろん、これは「国」と云う非人間的な生物を人間に喩えているだけで、「古い国民を駆逐」と言っても、「国」から見れば、理念・思想・善悪などとは全く関係ない単なる生理現象に過ぎない。
 旧国民は次々と病気・物理的な力・有害化学物質などで死んでいき、その死体は「国」に吸収され、新しい国民を生み出す材料にされていった。
 難民となり、自分の「国」そのものに追われ続けている俺達は、死都ネクロポリスと化したかつての首都の街路を当て無く彷徨さまよっていた。
「生き残るのは、最も強い国でも、最も賢い国でもない。変化出来る国だ」
 そこで見付けたのは……今からすると脳天気極まりない、かつての政権与党のポスターだった。
「この『日本』を出て……他の『日本』に亡命するか……新しい『日本』を作るしか有るまい」
 難民団のリーダーは悲痛な表情で、皆にそう告げた。

 ボロ船に乗り、荒海に乗り出した我々は……それでも、何とか半分弱は生き残る事が出来た。
 水平線の彼方に「日本」が見えた。
 我々は、その「日本」に上陸したが……。
「ぐわっ」
 上陸した途端に、銃器らしきモノで我々は次々と殺傷されていった。
「そ……そんな……」
 我々を殺している「日本」人は……少なくとも外見からすると、我々が居た「日本」が新しく生み出した「日本人」と似たタイプの「日本人」のようだ。
 仲間の死体は、次々と、この「日本」の国土に吸収されていく。
 そうか……そう言う事か……。
 地球そのものの環境が変り……その結果、「日本」は新しい環境に適応した。
 そして、同じ環境に適応したのなら、別の「日本」であっても似た「日本」になる可能性が高い……。
 多分、我々は、どの「日本」に行っても「旧時代の遺物」なのだ……。

 我々の「地球」では、1000個体以上の「日本」が、交配し、突然変異を起し……そして寿命や環境に適応出来なかった結果、死んでしまっていった。
 それでも幸運な「日本」は、子孫を残して生命を次代に継いでいった。自分と交配相手である別の「日本」の両方の特質を持つ、次の次代に適応出来るかも知れない新たなる「日本」を……。
 そのような状況では……当然ながら、この「地球」に存在する無数の「日本」は少しづつではあるが、進化を続けていた。それが、「日本」が生み出した「道具」である「日本国民」にとって望ましい事かは別にして。
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