異世界転生から帰還したんですが、ちょっと、作者さんを拉致らせてもらいます

蓮實長治

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異世界転生から帰還したんですが、ちょっと、作者さんを拉致らせてもらいます

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 確かに、あとになって考えれば、全てがおかしかった……。
 なぜ、ヤツらが、あんなにもあっさりと日本を征服出来たのか……。
 もっとも、この原因だけは、ヤツらの日本征服が完了しない内に判ってはいた。人間側は、ヤツらの魔法は初体験であり、巧く対処出来なかったのに、ヤツらには、明らかにのだ。
 だが、は誰にも判らず、ようやく判った時には僕の運命は何もかも終ってしまっていた……。
 なぜ、複数の「異世界」から侵攻してきた軍隊なのに、どの「異世界」も種族・文化は似たりよったりだったのか?
 なぜ、大概の「異世界」軍は、複数種族から構成されれていたのに、その指導者は、ほぼ必ず、人間だったのか?
 しかも、なぜ、その「異世界」軍の指導者達は、で、だったのか?
 そして、なぜ、「異世界」軍の構成種族や、そいつらの使う武器や魔法や、そいつらの格好が、何1つとしてボクの想像の範囲外のモノが無かったのか?
 そして……日本に侵攻してきた「異世界」の数が、なぜ、稿稿だったのか?

「実は、居眠り運転のトラックが人を轢くなんてのは、交通事故の中でも数が少ないんですよ」
 あの「異世界からの侵略」が起きた日の前日の深夜、仕事を終え、最悪の気分で帰宅している最中だった僕は、偶然にもtwitterのその書き込みを見付けた。
 まず思った事は「そんな馬鹿な」だった。
 高校の頃から、十数年間、「居眠り運転らしいトラックに轢き殺された人」の葬式に何度も出たからだ。
 多くは「犯人不明の轢き逃げ」だ。
 帰宅しても何故か寝付けず……小説の執筆に使っているPCを立ち上げ、警察の統計資料なんかを調べ……。

 夜は明けた。
 祝日で会社は休みだったし……会社では「使えない奴」扱いなので、休日出勤が必要になる仕事には関わっていない。
 だが……今日は、どこにも出掛ける気にはなれない。
 徹夜で馬鹿な調べモノをした事による疲れと眠けのせいじゃない。
 その調べモノの結果、軽いパニックになっていた為だ……。
 あのtwitterの書き込みの通りだった。
 確かに「トラックによる轢き逃げ」なんてのは……交通事故の中でも稀なモノだった。
 けど……例外が有った。
 僕が高校の頃は……僕の実家が有る県。
 大学の頃は……僕が通っていた大学が有る県。
 就職した後は……職場が有る辺り。……ご丁寧に、2年ほど、客先常駐の為に転勤してた頃だと、自社近辺では「トラックによる轢き逃げ」は、ほぼゼロになり……逆に、転勤先の県で「トラックによる轢き逃げ」が頻発するようになっていた。
 そして、その日の午後には、あれが起きていた。

 マスコミも政府も僕たち一般市民も……最初、何が起きているか理解出来なかった。
 確かにそうだ……日本にとって……いや人類にとって「予想もしなかった初体験」なのだから……。
 あとから振り返ってみれば……この時に起きた事は「こっちが何が起きているか把握出来ずに大混乱してる隙に、ファンタジーRPGに出て来るような軍団が日本を征服していた」だろう。
 人間・エルフ・ドワーフ・ゴブリン・オーク・ドラゴン・グリフォン……中には、天使や悪魔やクトゥルフ神話の怪物らしきモノ達まで居た……あまりにも雑多なのに、何故か、僕の想像の範囲外の種族は1つとして居ない多種族混成軍は……あっさり日本を支配していた。
『この世界のこの国では、私達のような「魔法が有る世界」の中でも、更に規格外の力を持つ者を「チート」と呼ぶようだが……』
 混成軍の代表者は、流暢な日本語で、まるで、どうすれば記者会見を開けるかをあらかじめ知っていたかのように、日本征服が完了したその日の内に記者会見を開いた。
『この世界のこの国には、我々から見ても「チート」な能力を持つ危険人物が居る。そいつは、幸いにも、まだ自分の能力に気付いておらず……そしてちゃんと制御も出来ていない。我々の目的は……そいつが自分の能力を制御出来るようになり……その能力を使って、この世界と我々の世界に災いをもたらす前に、そいつを封印する事だ』
 その混成軍の代表者の顔と格好に見覚えが有った……。僕は……ゴミ屋敷化している部屋の中を探し……。
 見付けた……。今、小説投稿サイト「小説家を始めよう」に連載している……と言っても、多分、また途中でアイデアが尽きるだろう「異世界転生もの」の主人公のコスチュームのラフ画像……。
 僕の下手な絵と……動画サイトで生中継されている記者会見を見比べ……。
 でも……顔は……見覚えが有るのに思い出せない……。誰だ……?
『我々は、そのたった1人の危険人物を見付け出し封印した後には去る。その後は、日本の皆さんにとっても、この世界の他の国々にとっても、我々が来る以前の日常が戻るだろう』
 髪と目は……アニメにも出て来そうな派手な色なのに、顔立ちは日本人……少なくともアジア系……。なら、髪と目を黒にして……。
 うわああああああっ……。
 そいつの顔は……この前、トラックに轢き逃げされて死んだ、ボクの上司に良く似ていた。あいつを、若くしてスマートにしたら……多分、こんな感じになる……。

 何故か、異世界からの侵略者達は、小説投稿サイト「小説家をはじめよう」の運営の本社の「査察」を始め……まるで、、あっと言う間に目的の情報を見付けた……らしかった。
「このメールアドレスの主を我々に引き渡してもらいたい。使っているインターネット・プロバイダからの情報で、大まかな住所も特定出来ている」
 そう宣言した「異世界の王」達の1人は……大学の頃に、僕を「キモい」と言ってゴミでも見るような目で見ていた女にそっくりだった。
 その女も、トラックに轢き逃げされて死んでいた。
 そして……とんでもない事に、そのメールアドレスは……。
 マズい……。どこまでマズいか判らない程にマズい……。
 間に合うか判らないけど……とりあえず……。
 だが、「小説家をはじめよう」のサイトにアクセスすると……。
『異世界連合軍の命令により、当面の間、メンテナンス中です』
 うわあああ……ッ‼

「苦しかったよ……死ぬほどな……」
 高校の頃、僕をいじめていたヤンキーは、そう言った。こいつは、僕が「小説家をはじめよう」に最初に異世界転生もののラノベを書いた直後に、トラックに轢かれて死んだ筈だった。
「殺すのは駄目だよ、小谷くん。こいつを殺せば……何が起きるか予想も付かない。あくまで封印だ」
 そう言ったのは……同じ高校に居た……僕から志望校の推薦枠を奪ったヤツだった。こいつも、トラックに轢かれて死んだ。受験勉強そっちのけで、「小説家をはじめよう」に新しい小説を投稿し始めた頃に……。
 大学のサークルや研究室の先輩、学生時代のバイト先の店長、就職してからの上司・同僚・後輩・お客さん。
 ようやく気付いた……。僕の身の回りで……トラックに轢き逃げされて死んだ人達は……正統な恨みも、自分でも逆恨みと判ってるものも有るが……全員、ボクが恨んでいた人達だ……。
 そして……轢き逃げ事件が起きたのは……思い出せる限りでは……僕が「小説家をはじめよう」に新しい「異世界転生」ものを書き始めた直後……。
 待ってくれ……一体……何がどうなって……。
「さて……お前は……厳重に封印されたまま、これから永遠に生き続ける……。そして、夢の中で永遠に出来の悪い小説を書き続ける事になる。……我々は、その程度の事をやる能力ちからなら持っている……。その能力ちからを与えてくれたのは……だ」

 良く言えば平穏……悪く言えば退屈な日々が続いていた。
 世の中も……仕事も……私生活も……。
 段々と趣味で書いてる小説も、執筆意欲が薄れていった。
 小説投稿サイト「小説家をはじめよう」の「投稿済み小説一覧」に表示されているのは、高校の頃からアラサーの今まで十五年近くに渡って書き続けてきた、数十本の「異世界転生」ものの小説……。
 1つとして完結させられたものは無い。
 多分……僕には小説家になる為に必要な何かが欠けているのだろう。
 それでも……小説家への夢を諦める事は出来ない……。
 待てよ……少しパターンから外れたものを書いてみるか……。
 例えば……「異世界転生ものの小説家に、自分自身でも気付いていない現実改変能力が有って、その小説家の身の回りの人達が次々とトラックに轢かれて異世界転生してしまう」とか……。
 いや待てよ……捻り過ぎかな?
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