ブチのめせるなら誰でも良かった

蓮實長治

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ブチのめせるなら誰でも良かった

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「さぁ、我が戦闘員二等兵どもよ。この国のまこと統治者みかどたる『古き神々』の『信民』となるべき善良な市民を保護するのだ」
『Wyyyyyy……』
 私の命令に戦闘員二等兵達は無線通信で応答した。
「あの……天獄てんごくセンパイ、それ、今の感覚じゃ、どう考えても『拉致監禁』っすよ」
 私の同僚である「鬼類誅戮護国崇神団」を統べる三幹部の1人である灰汁山あくやま薪三郎は、やれやれと言った口調でそう言った。
「何を言っている? 我々が『保護』すべきは、本能的に、より優れた者に服従する事に悦びを感じる筈だ」
「いや、だったら、何で、拉致した一般人の……」
「『保護』だ」
「……『保護』した一般人の脳味噌の前頭葉(作者注:グロ描写につき一部自粛します)なんてやる必要が有るんですか?」
「純血の日本人が自然なあるべき姿に戻るまでの暫定措置だ」
 多くの自称を含む「日本人」は知らない事だが、ある時代以降、彼らに「鬼」の血が混ってしまった。
 我が「鬼類誅戮護国崇神団」の目的は、自称を含む「日本人」の内、「鬼」の血が許容範囲以上の者達を「安楽死」させ、純血の日本人からなる「在るべき日本」を取り戻し、日本の本来の支配者である「古き神々」を復活させる事だ。
 その過程で、日本の人口は今の半分未満になるだろうが、まぁ、「在るべき日本」の「信民」達は納得してくれるだろう。全「信民」の脳改造が完了した後は特に。

『待てッ、鬼類誅戮護国崇神団‼ その人達を解放しろッ‼』
 戦闘員二等兵達の戦闘服に搭載されているカメラとマイクが奴らの姿と声を捉えた。
 我らが「正義」の遂行を邪魔する、「正義の味方」の名を騙るおぞましき「鬼」の末裔「鬼面ソルジャーズ」だ。
『後方支援チーム。何か変だ。今回は現場指揮官クラスの「怪人」が見当らない。ドローンで探してくれ』
 憎むべき敵だが、まるっきりの馬鹿ではない事は認めてやらねばなるまい。奴らも、早速、いつもと違う点に気付いたようだ。
「博士。例のモノを起動してくれ」
 私は、同じく三幹部の1人である冨永邪怖博士に言った。
「いや……でも、テストしてからの方が……」
「やってくれ。これがテストだ……そして、本日この日こそが奴ら鬼面ソルジャーズの命日だ」
「わかったよ。とりあえず、我輩が、今『使うならテストをしてからやるべきだ』と主張していた事は記録しておいてくれ」
 次の瞬間、戦闘員二等兵達の戦闘服の下で筋肉が盛り上がる。
『グル……ッ』
『グル……ッ』
『おい、敵戦闘員の様子が何か変だ』
 戦闘員二等兵達の戦闘服に新しく付与した即効性の筋力増加薬と戦意高揚薬を注入する機能……それが、今、起動され……。
『いけ……穢らわしい鬼どもを殺……おい、待て、何やってる? やめろ、やめろ馬鹿どもッ‼』
 戦闘員二等兵達は、いきなり、我が「信民」となるべき一般市民達を袋叩きにし始め……鬼面ソルジャーズどもも、一瞬、あっけに取られていたが、すぐに慌てて、戦闘員二等兵達に攻撃を加え……。

「センパイ、戦闘員二等兵を少々強くしたって、鬼面ソルジャーズに勝てる訳ないでしょ。不意撃ちなら何とか成ったかも知れませんが、そのチャンスをフイにしちゃったし」
 皮肉っぽい口調で灰汁山あくやまがそう指摘した。
「う……うるさい……戦いはこれからだ……」
 そうだ……。まだ、筋力増加薬と戦意高揚薬の効果は切れていない。
「でも、拉致した一般人は全部、鬼面ソルジャーズが逃がしちゃいましたよ」
「だ……黙れ……」
「ああ……すいません。『拉致』じゃなくて『保護』でしたね……。って、何やってんすか、ウチの戦闘員二等兵ども?」
 えっ?
 何が起きてる?
 戦闘員二等兵達は、鬼面ソルジャーズを恐れるようにじりじりと引き下がり……。
「冨永博士ッ‼ どうなっているッ⁉ 戦意高揚薬の効き目が、もう切れたのかッ⁉」
「い……いや待ってくれ……。戦闘員二等兵達は……‼」
「どう云う状態だ、それはッ⁉ そんな状態が有り得る訳が……」
「いや……センパイ……ああ云う状態でしょ」
 現場では……戦闘員二等兵達は、傷を負った自分達の仲間を袋叩きにし始めていた。
「お……おい……一体、どうなってるんだ?」
「す……すまん、我輩にも判らん……」
「俺には判りますよ、センパイがた
「はぁ?」
「だから、俺達が『正義』だと思ってるのは、天獄てんごくセンパイだけで、俺達の本質はやっぱり『悪』なんすよ」
「……な……何を言いたいんだ?」
「だ・か・ら……でしょ」
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