6 / 36
第1章:ミッドナイト・ライダー
(5)
しおりを挟む
「おい、何で、もう浮遊の効果が切れてる?」
浮遊の魔法で酒場の2階のベランダ席から大通りに降りた途端に、ローアがブチ切れた。
「え……だって……」
「『だって』じゃねえ。この状況だと、空飛んでかねえと、標的に追い付けねえだろうがッ‼」
……あ、まぁ、ローアの言う通り、通りは燃え盛りながら大通りを走ってる山車のせいで起きた火事から逃げようとしてる人達が山程居て、大混乱状態だ。
「母ちゃん、2階席の客が、どさくさに紛れて、食い逃げしようとしてるよッ‼」
その時、たまたま表に出てた酒場の看板娘が大声で怒鳴る。
「黙れッ‼」
ローアは得意の「猿ぐつわ」の魔法を、酒場の看板娘に……あ……えっ……?
看板娘は、魔法の猿ぐつわを力づくで引き千切る。
……って、何者だよ、こいつ?
「おい、若造。何、ビビっとるんじゃいッ?」
「ちょ……ちょっとシュタール……」
シュタールは戦斧を横殴りに振う。
いや……普通は「振り降す」だろうけど、小人症の人間を改造して作った偽ドワーフでは、身長が足りないんで、人間の頭を狙うのは困難だ。
だから、胴体を狙って横に振り……。
ガシンっ‼
シュタールの戦斧と、看板娘がたまたま手にしていたフライパンが激突し……。
「に……逃げた方が……いいよ……これ……」
「って、この娘……何者?」
フライパンには傷1つなく、シュタールの戦斧が手から弾け飛ぶ。
「あ……あ……あ……」
うろたえた表情で……自分の両手を見るシュタール。
その両手は……。
あ……どう見ても……アル中による手の震えだ。
そのせいで、握力が落ちてたらしい。
ドゴォッ‼
看板娘の前蹴りがシュタールの胴体に命中。
それも命中した場所は、正中線上じゃなくて、アル中のせいで弱ってる肝臓の辺り。
派手に吹っ飛んだ訳じゃない。
ただ、板金鎧が思いっ切り凹んだだけで。
蹴りのダメージだけじゃなくて、凹んだ鎧に内臓を圧迫されてるせいだと思うけど……シュタールは血と胃の中身を吐き……。
「食い逃げは捕まえたのかい?」
店の奥から……おかみさんの声。
たしか……この看板娘、何かドジする度に、おかみさんにブチのめされてた……。
……つまり……。
おかみさんは、こいつより強い。
おかみさんが出て来たら……僕たちは皆殺しだ。確実に。
ああああ、そう言えば、この辺りの酒場街で、「税金」を請求するヤクザを全然見掛けないと思ったら……そ……そんな……こんな無茶苦茶な裏が有ったのかッ⁉
「すいません、急用で、すぐに行かなきゃいけない所が有るんで、お金は倍払いますッ‼」
僕は、そう言って、財布を差し出した。
「足りないよ」
看板娘は、財布の中身を見ると、冷たくそう言った。
「へっ?」
「あんたらが飲み食いした分には足りてるけど、あんたが言った倍には足りない」
「あ……すいません、後で冒険者ギルドに請求して下さい」
「まぁ、いいけどね。なら行った、行った」
「はいいいいッ‼ あと、こいつの葬式代も冒険者ギルドに……」
僕は、一応は、まだ生きてるけど……助かるのは無理っぽそうな状態のシュタールを指差して、そう言った。
「わかった、わかった。さっさと消えな」
「は……はい……。ローア、シュネ、行く……」
そう口にした瞬間、僕は、ようやく気付いた。
あの2人は、既に近くには居なかった。
浮遊の魔法で酒場の2階のベランダ席から大通りに降りた途端に、ローアがブチ切れた。
「え……だって……」
「『だって』じゃねえ。この状況だと、空飛んでかねえと、標的に追い付けねえだろうがッ‼」
……あ、まぁ、ローアの言う通り、通りは燃え盛りながら大通りを走ってる山車のせいで起きた火事から逃げようとしてる人達が山程居て、大混乱状態だ。
「母ちゃん、2階席の客が、どさくさに紛れて、食い逃げしようとしてるよッ‼」
その時、たまたま表に出てた酒場の看板娘が大声で怒鳴る。
「黙れッ‼」
ローアは得意の「猿ぐつわ」の魔法を、酒場の看板娘に……あ……えっ……?
看板娘は、魔法の猿ぐつわを力づくで引き千切る。
……って、何者だよ、こいつ?
「おい、若造。何、ビビっとるんじゃいッ?」
「ちょ……ちょっとシュタール……」
シュタールは戦斧を横殴りに振う。
いや……普通は「振り降す」だろうけど、小人症の人間を改造して作った偽ドワーフでは、身長が足りないんで、人間の頭を狙うのは困難だ。
だから、胴体を狙って横に振り……。
ガシンっ‼
シュタールの戦斧と、看板娘がたまたま手にしていたフライパンが激突し……。
「に……逃げた方が……いいよ……これ……」
「って、この娘……何者?」
フライパンには傷1つなく、シュタールの戦斧が手から弾け飛ぶ。
「あ……あ……あ……」
うろたえた表情で……自分の両手を見るシュタール。
その両手は……。
あ……どう見ても……アル中による手の震えだ。
そのせいで、握力が落ちてたらしい。
ドゴォッ‼
看板娘の前蹴りがシュタールの胴体に命中。
それも命中した場所は、正中線上じゃなくて、アル中のせいで弱ってる肝臓の辺り。
派手に吹っ飛んだ訳じゃない。
ただ、板金鎧が思いっ切り凹んだだけで。
蹴りのダメージだけじゃなくて、凹んだ鎧に内臓を圧迫されてるせいだと思うけど……シュタールは血と胃の中身を吐き……。
「食い逃げは捕まえたのかい?」
店の奥から……おかみさんの声。
たしか……この看板娘、何かドジする度に、おかみさんにブチのめされてた……。
……つまり……。
おかみさんは、こいつより強い。
おかみさんが出て来たら……僕たちは皆殺しだ。確実に。
ああああ、そう言えば、この辺りの酒場街で、「税金」を請求するヤクザを全然見掛けないと思ったら……そ……そんな……こんな無茶苦茶な裏が有ったのかッ⁉
「すいません、急用で、すぐに行かなきゃいけない所が有るんで、お金は倍払いますッ‼」
僕は、そう言って、財布を差し出した。
「足りないよ」
看板娘は、財布の中身を見ると、冷たくそう言った。
「へっ?」
「あんたらが飲み食いした分には足りてるけど、あんたが言った倍には足りない」
「あ……すいません、後で冒険者ギルドに請求して下さい」
「まぁ、いいけどね。なら行った、行った」
「はいいいいッ‼ あと、こいつの葬式代も冒険者ギルドに……」
僕は、一応は、まだ生きてるけど……助かるのは無理っぽそうな状態のシュタールを指差して、そう言った。
「わかった、わかった。さっさと消えな」
「は……はい……。ローア、シュネ、行く……」
そう口にした瞬間、僕は、ようやく気付いた。
あの2人は、既に近くには居なかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる