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プロローグ
バイラヴァ─恐怖と破壊の神─
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遠賀川の向こう側……日本が2つに分断される前は福岡県警飯塚署だった場所に嫌なモノが見える。
嫌なモノと云う言い方では何も判らないだろうが……そう表現せざるを得ない理由が有る。
稀に居るらしい「見えない」人間を除いては、あそこで起きているモノは、人によって見え方は微妙に違うだろう。
ただ……本能的に危険を感じるモノに見える点は共通している筈だ。
おそらく……心霊災害か魔法災害。
「外」から来たテロリスト達が、この筑豊TCAの軍・警察の合同庁舎を襲撃したらしい。
そして、「魔法」を使って、危険な「異界」への門を開き、そこから魔物や悪霊が吹き出した。
最早、あの場所は、一般人が「護符」や「防護魔法」無しに入れば即死間違いなしの心霊汚染地帯と化しただろう。
しかし、それほどの大騒ぎさえも……「正義の味方」を名乗るテロリスト達による陽動に過ぎなかった。
軍・警察の合同庁舎を襲撃したのとは別のテロリストが「ここ」に侵入しており、軍や警察が陽動と呼ぶには余りに重大なテロ行為への対処に人員を割かれている間に……私は2人のテロリストに拉致された。
1人は緑色の強化装甲服を着装い……もう1人は梵字がいくつも描かれた防具を付けていた。
2人とも顔を隠していたが、声からすると若い女のようだった。
緑色の装甲服の方は、話し方からして日本語ネイティブではないようだが……一〇〇%の確証は無い。
どうやら、緑色の方が近接戦闘や銃撃戦を担当し、もう片方が後方支援や索敵を担当する「魔法使い」のようだ。
そして……私は目隠しを取られ……何かがおかしかった。
「外」に運ばれたにしては、移送時間が短かい。
そこに有ったのは……旧Q工大……待て……待ってくれ……。
恐怖のあまり失禁した私をテロリスト達が一瞥する。
顔を覆う仮面からは……私を嘲笑しているのか……それとも私の醜態に何の関心も抱いていないのか判別は困難だ。
今は一般臣民向けの医療施設となっているこの場所に……何人ものテロリスト達と……私が良く知っている人々が集っていた。
テロリストに連行されているのは……この筑豊TCAの地元政治家達……それも私と同じ「東京派」の人達ばかりだ。
私が所属する会派「東京派」は対立する「大阪派」を駆逐し、日本各地に点在する「真の日本」である「伝統文化地域」の主導権を握る事に成功した……筈だった。
だが、その成功は、たった数日で潰えた。
その時、テロリスト達が、ほぼ同時に何かをつぶやき出した。
どうやら……テロリスト達の司令部と無線通話を行なっているらしい。
「藤田正一氏……予定が変りました」
私をここまで連行した緑色の強化装甲服のテロリストが、私に、そう説明を始めた。
「貴方達には……貴方達が筑豊TCAの一般市民に受けさせようとしていたおぞましい処置を受けていただく手筈でしたが、予想外の事実が判明しました。貴方達には『外』の医療機関で精密検査を受けていただきます」
「ま……待ってくれ……何がどうなっている?」
「詳しい説明は後で行ないます。その前に質問が1つ有ります。もっとも、貴方が答を知っている事は期待していませんが……念の為の一応の質問です」
「な……何だ?」
「貴方の所属会派のリーダー格の人達は、いつ何者の手によって、いかなる理由で脳改造を受けたのですか?」
多分……私は……今……馬鹿のような顔をしているのだろう……。
私は……奴らの質問を……言葉の表面的な意味は理解出来るのに、質問の意図が全く理解出来なかった。
何1つ見当が付かない。
奴らが何か事実誤認をしているのであれば、一体、どんな理由でどんな誤認をすれば、このような質問をしてくるのか?
奴らが私を騙そうとしているのなら、どうして、こんな稚拙で荒唐無稽な嘘を吐くのか?
私が生まれる以前……約四〇年前の二〇〇一年……全人類はこの世界が今まで思っていたモノとは違っていた事を知った。
あるテロを契機に様々な「異能力者」の存在が明らかになったのだ。
超能力者。魔法使い。変身能力者。「妖怪」や「妖精」と呼ぶべき者どもの末裔。
信憑性は皆無に等しいが、「半神」としか呼べぬ「古代種族」や、通常の「魔法」や「超能力」を遥かに超える「神の力」……既知の「科学」「魔法」「超能力」のいずれでも対処・対抗不能な規格外の存在についての噂さえ有った。
そして、約二〇年前……日本では富士山が噴火し、当時の政府と首都圏は崩壊した。
富士山の歴史的大噴火は……規格外の「異能力者」によるものと信じる愚か者も居るには居るが……「魔法使い」や「妖怪」が我が物顔で跋扈する今の時代においても、歴史の流れを大きく変え、日本のみならず地球環境に重大な影響を与えるほどの天災を起せる規格外の異能力者は確認されていない。
その後、いつしか、日本は2つに分断された。
「正義の味方」を僭称するテロリスト達が広めた「かつての日本はとんでもないディストピアだった」と云うプロガンダを信じて、古き善き日本を取り戻す事を諦めた者達が住む「外」「『狭義の日本』を名乗る地域」と、そこから弾き出された真の日本人が住む「伝統文化地域」「真の日本」に……。
その2つの「日本」が、日本列島に斑状に共存するようになっていた。
しかし……今世紀の「当り前」は「一〇年前の『当り前』は今の『当り前』と似ても似つかず、一〇年後の『当り前』は今の『当り前』を元に予想する事は困難」だ。
私が住んでいた筑豊TCAがテロリスト達の猛攻の前に崩壊した日から1ヶ月経たぬ内に、日本各地に点在していた「真の日本」は1つ残らず、蹂躙され尽した。
だが、それは……「正義の味方」と、もう1つの世界的テロ組織「神の怒り」の何度目かの大規模戦争の始まりに過ぎなかった。
ただし、戦争とは言っても、前世紀の人々が考える「戦争」とは何から何まで違う代物であったが……。
そして、2つの「大魔王」「荒振る破壊と恐怖の神々」の激突に巻き込まれて、私が失なったモノは……私の忠誠の対象だった「真の日本」だけではなかった。
私は……自分が自分であると云う確信を失なってしまったのだ。
嫌なモノと云う言い方では何も判らないだろうが……そう表現せざるを得ない理由が有る。
稀に居るらしい「見えない」人間を除いては、あそこで起きているモノは、人によって見え方は微妙に違うだろう。
ただ……本能的に危険を感じるモノに見える点は共通している筈だ。
おそらく……心霊災害か魔法災害。
「外」から来たテロリスト達が、この筑豊TCAの軍・警察の合同庁舎を襲撃したらしい。
そして、「魔法」を使って、危険な「異界」への門を開き、そこから魔物や悪霊が吹き出した。
最早、あの場所は、一般人が「護符」や「防護魔法」無しに入れば即死間違いなしの心霊汚染地帯と化しただろう。
しかし、それほどの大騒ぎさえも……「正義の味方」を名乗るテロリスト達による陽動に過ぎなかった。
軍・警察の合同庁舎を襲撃したのとは別のテロリストが「ここ」に侵入しており、軍や警察が陽動と呼ぶには余りに重大なテロ行為への対処に人員を割かれている間に……私は2人のテロリストに拉致された。
1人は緑色の強化装甲服を着装い……もう1人は梵字がいくつも描かれた防具を付けていた。
2人とも顔を隠していたが、声からすると若い女のようだった。
緑色の装甲服の方は、話し方からして日本語ネイティブではないようだが……一〇〇%の確証は無い。
どうやら、緑色の方が近接戦闘や銃撃戦を担当し、もう片方が後方支援や索敵を担当する「魔法使い」のようだ。
そして……私は目隠しを取られ……何かがおかしかった。
「外」に運ばれたにしては、移送時間が短かい。
そこに有ったのは……旧Q工大……待て……待ってくれ……。
恐怖のあまり失禁した私をテロリスト達が一瞥する。
顔を覆う仮面からは……私を嘲笑しているのか……それとも私の醜態に何の関心も抱いていないのか判別は困難だ。
今は一般臣民向けの医療施設となっているこの場所に……何人ものテロリスト達と……私が良く知っている人々が集っていた。
テロリストに連行されているのは……この筑豊TCAの地元政治家達……それも私と同じ「東京派」の人達ばかりだ。
私が所属する会派「東京派」は対立する「大阪派」を駆逐し、日本各地に点在する「真の日本」である「伝統文化地域」の主導権を握る事に成功した……筈だった。
だが、その成功は、たった数日で潰えた。
その時、テロリスト達が、ほぼ同時に何かをつぶやき出した。
どうやら……テロリスト達の司令部と無線通話を行なっているらしい。
「藤田正一氏……予定が変りました」
私をここまで連行した緑色の強化装甲服のテロリストが、私に、そう説明を始めた。
「貴方達には……貴方達が筑豊TCAの一般市民に受けさせようとしていたおぞましい処置を受けていただく手筈でしたが、予想外の事実が判明しました。貴方達には『外』の医療機関で精密検査を受けていただきます」
「ま……待ってくれ……何がどうなっている?」
「詳しい説明は後で行ないます。その前に質問が1つ有ります。もっとも、貴方が答を知っている事は期待していませんが……念の為の一応の質問です」
「な……何だ?」
「貴方の所属会派のリーダー格の人達は、いつ何者の手によって、いかなる理由で脳改造を受けたのですか?」
多分……私は……今……馬鹿のような顔をしているのだろう……。
私は……奴らの質問を……言葉の表面的な意味は理解出来るのに、質問の意図が全く理解出来なかった。
何1つ見当が付かない。
奴らが何か事実誤認をしているのであれば、一体、どんな理由でどんな誤認をすれば、このような質問をしてくるのか?
奴らが私を騙そうとしているのなら、どうして、こんな稚拙で荒唐無稽な嘘を吐くのか?
私が生まれる以前……約四〇年前の二〇〇一年……全人類はこの世界が今まで思っていたモノとは違っていた事を知った。
あるテロを契機に様々な「異能力者」の存在が明らかになったのだ。
超能力者。魔法使い。変身能力者。「妖怪」や「妖精」と呼ぶべき者どもの末裔。
信憑性は皆無に等しいが、「半神」としか呼べぬ「古代種族」や、通常の「魔法」や「超能力」を遥かに超える「神の力」……既知の「科学」「魔法」「超能力」のいずれでも対処・対抗不能な規格外の存在についての噂さえ有った。
そして、約二〇年前……日本では富士山が噴火し、当時の政府と首都圏は崩壊した。
富士山の歴史的大噴火は……規格外の「異能力者」によるものと信じる愚か者も居るには居るが……「魔法使い」や「妖怪」が我が物顔で跋扈する今の時代においても、歴史の流れを大きく変え、日本のみならず地球環境に重大な影響を与えるほどの天災を起せる規格外の異能力者は確認されていない。
その後、いつしか、日本は2つに分断された。
「正義の味方」を僭称するテロリスト達が広めた「かつての日本はとんでもないディストピアだった」と云うプロガンダを信じて、古き善き日本を取り戻す事を諦めた者達が住む「外」「『狭義の日本』を名乗る地域」と、そこから弾き出された真の日本人が住む「伝統文化地域」「真の日本」に……。
その2つの「日本」が、日本列島に斑状に共存するようになっていた。
しかし……今世紀の「当り前」は「一〇年前の『当り前』は今の『当り前』と似ても似つかず、一〇年後の『当り前』は今の『当り前』を元に予想する事は困難」だ。
私が住んでいた筑豊TCAがテロリスト達の猛攻の前に崩壊した日から1ヶ月経たぬ内に、日本各地に点在していた「真の日本」は1つ残らず、蹂躙され尽した。
だが、それは……「正義の味方」と、もう1つの世界的テロ組織「神の怒り」の何度目かの大規模戦争の始まりに過ぎなかった。
ただし、戦争とは言っても、前世紀の人々が考える「戦争」とは何から何まで違う代物であったが……。
そして、2つの「大魔王」「荒振る破壊と恐怖の神々」の激突に巻き込まれて、私が失なったモノは……私の忠誠の対象だった「真の日本」だけではなかった。
私は……自分が自分であると云う確信を失なってしまったのだ。
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