ああ、窓にっ‼ 窓にっ‼

蓮實長治

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ああ、窓にっ‼ 窓にっ‼

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 ここ数日、誰かが私の尾行しているような気がしてきた。
 誰かに見張られ続けている……。
 だが、仕事終りの町中で……朝、会社に向かう途中に……夜、会社の飲み会の帰りに……背後うしろを見ても、それらしい誰かは見当たらなかった。
 どうやら、錯覚か……何かの妄想か……らしい。
 就職出来たはいいが、数ヶ月で自分と合わない職場だと思い知った……そのせいでノイローゼ気味なのかも知れない……。
 心療内科にでも行くか……いや……ウチの会社の気風からして、万が一、上司に、バレたら……。
 そんな事を残業で遅くなった夜に考えていると……また、あの感覚を感じた……。そして……背後を見ると……。
 誰も居ない。
 ただ、ビルの灯りらしきモノがいくつか夜の町を照らしていた。
 妙に真ん丸な、ほぼ同じ高さに並んだ灯りがいくつも……。

 ある秋の連休前の夜、その日も、会社の寮に戻れたのは日付が変る頃だった。
 どうやら、台風が来ているようで、折角の連休も遊びに行けそうにない。
 びしょ濡れのまま、寮の最上階の自室に戻ると……窓に……目が……目が……巨大な目が……。
 そうか……私を追っていたのは、こいつだったのか……。
 私を尾行しているのは人間だと云う思い込みが有ったので……逆に巨大なモノを見落し……って、こいつ、そもそも何だ?
「佐藤正一だな……」
 それは……私にそう言った。
「は……はい……」
「『漆黒の太陽のしもべ』なる滑稽な『魔術師名』を名乗っている人間の魔術師よ……。契約の対価を受け取りに来た」
「えっ……?」
「『えっ?』って何が『えっ?』だ。今さら『契約書をちゃんと読んでなかった』とか寝言を言っても通じんぞ」
「契約って……何ですか? あと……魔術師って……?」
 しばしの沈黙が有った。
「……お前、何年前に生まれた?」
「えっと……二十×年前ですが……」
「間違い無い?」
「は……はい……」
「出身は熊本の阿蘇の近くで間違い無いか?」
「いえ、北海道の函館の近くです」
「ホントに?」
「ええ、間違い有りません……。何なら、連休明けに戸籍謄本を……」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……あの……」
「ごめん、同姓同名のヤツと間違えたみたい」
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