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ゆる神さま
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神様は子供のように永遠の欲望を持っておられるのではあるまいか。
われわれは罪を犯し、だから老年を知っている。
けれどもわれらが父は、われわれよりも若く、幼くていらっしゃるのだ。
天使のすさまじい哄笑に比べれば、われわれ人間の涙など深刻ぶるには当たらない。
ひょっとするとわれわれは、星座をめぐらす部屋に沈黙のうちに坐っていながら、天界に響き渡る笑いのどよめきがあまりに大きすぎて聞こえないだけかもしれないのである。
G.K.チェスタトン「正統とは何か」より
「何て事をしてくれたんですか?『がじがみさま』を『ゆるキャラ』にするなんて……」
地元自治体の首長は、朝一番で、この自衛隊基地の責任者である私の執務室を訪れて、そう抗議した。
「え……っと……」
基地反対派の人物が選挙で当選したので、何かクレームを言って来る事は予想していたが……いや……こんな予想外の事だったとは……。
「あの『神様』は『荒振る神』とされているんですよ。手順通りの祀り方をしないと……何が起きるか判らないような……」
「い……いや……でも……あのお祭りの時の御神輿に乗ってる『がじがみさま』の御神体は……その……」
「がじがみさま」とは、地元の神社に祀られている由来不明の「神様」で、年に1回のお祭りの時に「御神体」とされる像を乗せた神輿が町中を練り歩くのが恒例だった。
その「御神体」の像は……人の姿とは言い難かったが……可愛らしく、愛嬌が有るモノだった。
「あの『神様』は善い神様ですが極めて強い力を持ちながら……神様としてはまだ子供だとされているんですよ……。子供がいたずらをするように、神様が、ちょっとしたいたずらをしただけで……この世には大きな天変地異が起きると伝えられています。それを……『ゆるキャラ』にするなんて……何て事を……」
防衛省の誰か……多分、閑職にでも回された背広組のエラいさん……が日本各地の自衛隊基地ごとに「ゆるキャラ」を作ろうと云う、しょ~もない企画を思い付いた事が始まりだった。
そして……東京の防衛省の本省庁舎近くの広場で行なわれる連休のイベントで、各基地の「ゆるキャラ」を一斉にお披露目する事になった。
私が責任者をやっている基地では、地元の神社に祀られている「がじがみさま」を「ゆるキャラ」化する事になり、漫画家に発注し……何回かの描き直しの後、デザインが最終的に決り……お披露目用の着ぐるみを発注し……ただし、一つだけ忘れていた事が有った。地元自治体に話を通していなかったのだ。
地元自治体の首長が「ゆるキャラ」化した「がじがみさま」の事を知ったのが……本人の話では、どうやら昨日。
そして、首長が基地に抗議に来たのが……よりにもよって「お披露目」の当日である今日の朝9時。
何とかお帰りいただく事に成功したのが……時計を見たら、イベントの「お披露目」の予定時刻をとっくに過ぎていた。
「連絡だけはしとくか……」
本庁の担当者にメールを入れておいた。
昼食の時間帯の少し前に、本庁の担当者に出したメールがエラーで返ってきた。
エラーの意味が判らないので……昼食後にIT担当者にでも聞くかと思って、基地の食堂に向う。
だが……食堂では……大騒ぎになっていた。
「な……なんだ……あれは……? え……えっと……映画か子供番組……だよな?」
「ち……違います……ニュース番組です。臨時ニュースです」
食堂のTVには、とんでもないモノが映っていた。
「お……おい……だとしても……何故、私の所に話が来てない?」
「で……ですから……我々の指揮系統の中枢そのものが……無くなっているらしいのです」
『外部との連絡が途絶えていた東京の山手線内に海外メディアのドローンが入り、衛星回線経由で映像を送る事に成功しました』
TVに映っている「東京都内」では……。
ウチの基地の『がじくん』。
東北の基地の『ばららぎちゃん』。
関西の基地の『ぎんどらたん』。
『都内で暴れている怪獣は十匹前後とみられ……東京の山手線内とその近辺に居られた方々の生存は……絶望的と見られています』
都内では……何匹もの……「ゆるキャラ」たちが楽しげに遊んでいた。
ただし……小さく見積っても……全長二〇〇m以上の……。
どうやら……日本は……もしくは……地球そのものが……神または怪獣の遊び場で……人類とは……たまたま……あの怪物達が大人しくしていた期間に栄えていただけの、いつ滅んでも不思議ではない種族だったようだ……。
われわれは罪を犯し、だから老年を知っている。
けれどもわれらが父は、われわれよりも若く、幼くていらっしゃるのだ。
天使のすさまじい哄笑に比べれば、われわれ人間の涙など深刻ぶるには当たらない。
ひょっとするとわれわれは、星座をめぐらす部屋に沈黙のうちに坐っていながら、天界に響き渡る笑いのどよめきがあまりに大きすぎて聞こえないだけかもしれないのである。
G.K.チェスタトン「正統とは何か」より
「何て事をしてくれたんですか?『がじがみさま』を『ゆるキャラ』にするなんて……」
地元自治体の首長は、朝一番で、この自衛隊基地の責任者である私の執務室を訪れて、そう抗議した。
「え……っと……」
基地反対派の人物が選挙で当選したので、何かクレームを言って来る事は予想していたが……いや……こんな予想外の事だったとは……。
「あの『神様』は『荒振る神』とされているんですよ。手順通りの祀り方をしないと……何が起きるか判らないような……」
「い……いや……でも……あのお祭りの時の御神輿に乗ってる『がじがみさま』の御神体は……その……」
「がじがみさま」とは、地元の神社に祀られている由来不明の「神様」で、年に1回のお祭りの時に「御神体」とされる像を乗せた神輿が町中を練り歩くのが恒例だった。
その「御神体」の像は……人の姿とは言い難かったが……可愛らしく、愛嬌が有るモノだった。
「あの『神様』は善い神様ですが極めて強い力を持ちながら……神様としてはまだ子供だとされているんですよ……。子供がいたずらをするように、神様が、ちょっとしたいたずらをしただけで……この世には大きな天変地異が起きると伝えられています。それを……『ゆるキャラ』にするなんて……何て事を……」
防衛省の誰か……多分、閑職にでも回された背広組のエラいさん……が日本各地の自衛隊基地ごとに「ゆるキャラ」を作ろうと云う、しょ~もない企画を思い付いた事が始まりだった。
そして……東京の防衛省の本省庁舎近くの広場で行なわれる連休のイベントで、各基地の「ゆるキャラ」を一斉にお披露目する事になった。
私が責任者をやっている基地では、地元の神社に祀られている「がじがみさま」を「ゆるキャラ」化する事になり、漫画家に発注し……何回かの描き直しの後、デザインが最終的に決り……お披露目用の着ぐるみを発注し……ただし、一つだけ忘れていた事が有った。地元自治体に話を通していなかったのだ。
地元自治体の首長が「ゆるキャラ」化した「がじがみさま」の事を知ったのが……本人の話では、どうやら昨日。
そして、首長が基地に抗議に来たのが……よりにもよって「お披露目」の当日である今日の朝9時。
何とかお帰りいただく事に成功したのが……時計を見たら、イベントの「お披露目」の予定時刻をとっくに過ぎていた。
「連絡だけはしとくか……」
本庁の担当者にメールを入れておいた。
昼食の時間帯の少し前に、本庁の担当者に出したメールがエラーで返ってきた。
エラーの意味が判らないので……昼食後にIT担当者にでも聞くかと思って、基地の食堂に向う。
だが……食堂では……大騒ぎになっていた。
「な……なんだ……あれは……? え……えっと……映画か子供番組……だよな?」
「ち……違います……ニュース番組です。臨時ニュースです」
食堂のTVには、とんでもないモノが映っていた。
「お……おい……だとしても……何故、私の所に話が来てない?」
「で……ですから……我々の指揮系統の中枢そのものが……無くなっているらしいのです」
『外部との連絡が途絶えていた東京の山手線内に海外メディアのドローンが入り、衛星回線経由で映像を送る事に成功しました』
TVに映っている「東京都内」では……。
ウチの基地の『がじくん』。
東北の基地の『ばららぎちゃん』。
関西の基地の『ぎんどらたん』。
『都内で暴れている怪獣は十匹前後とみられ……東京の山手線内とその近辺に居られた方々の生存は……絶望的と見られています』
都内では……何匹もの……「ゆるキャラ」たちが楽しげに遊んでいた。
ただし……小さく見積っても……全長二〇〇m以上の……。
どうやら……日本は……もしくは……地球そのものが……神または怪獣の遊び場で……人類とは……たまたま……あの怪物達が大人しくしていた期間に栄えていただけの、いつ滅んでも不思議ではない種族だったようだ……。
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