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公安は有能だと思ってたのに……その有能さの方向性が……

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「まず、中学校時代の同級生で仲が良かった安部伸介さんと山中太郎さん……高校の同級生で仲が良かった川野成彬なりあきさんに……」
「い……や……その、あいつらが何だってんですか?」
 公安の刑事さんは、俺が、中学・高校・調理師学校……その頃に仲が良かった友達の名前が次々と出した……。
「ほう、気付かれてなかった……。ああ、これは、二〇一〇年ごろに貴方がSNSに投稿したものですよね?」
 そう言って……刑事さんは紙を見せた。
 覚えてない。
 でも、それは俺のSNSへの投稿をプリントアウトしたものだった。
『在日朝鮮人の通名は左右対象の漢字を使ってるので、こいつが在日朝鮮人なのは明らかだ』
「では、どうして中学の頃の御友人の山中さんが在日朝鮮人だと気付かなかったんですか?」
「はあっ?」
「あと……川野さんも名前からして、普通の日本人なら在日朝鮮人または在日韓国人だと気付く筈です」
「何でですかッ?」
「『成彬』という名前は、韓国の元大統領の朴正熙の父親と同名です」
「いや、普通の日本人は……そんな事、知り……」
 ドゴオッ‼
 もう1人の刑事さんが、俺を殴り付ける。
「さっさと自白ゲロしろ。証拠は上がってんだ」
「何の事ですか?」
「貴方には日本名を名乗っていた在日朝鮮人の御友人が異常に多い。なのに、貴方はSNS上ではネット右翼に偽装していた」
「ち……ちがいます……」
 言い訳しようとしたが……たった一発殴られただけで、頭は真っ白。
 知らねえよ。奴らが在日朝鮮人だったなんて……。
 あと、偽装って何だよ? たしかにパヨクどもからは「ネトウヨ」扱いされてるけど……地だよ、偽装じゃない。
「昨今の与党の元総理や現職総理を狙ったテロの犯人は……SNS上では『消去法で現与党しか無い』とか投稿していた。貴方も、その手の工作員ですよね?」
「違いますぅ~」
「証拠は?」
「へっ?」
「証拠を出して下さい。貴方が北朝鮮の手先でない証拠を」
「えええええ?」
「出せってんだよッ‼ お前が北朝鮮の手先じゃねえ証拠をよぉッ‼ 大体、現実に居てたまるかッ⁉ お前みたいな……なんてよぉッ」

「あの……あたし、韓国ドラマとか良く見てて、韓国語がある程度は判るんですけど……」
「おい、仕事中に、そんな話するんじゃねえよ」
 俺の勤め先は銀座の一等地に有る高級寿司店「添禍一品」だ。
 けど……コ□ナ禍が開けて、外国の観光客が戻って来た途端、店の中では中国語や韓国語が飛び交うようになった。
 クソ……ムカツく……。
 でも、ここは給料がいいんで、クソどもが来ないような店に移る訳にもいかねえ。
 しかも、新しく入った接客係のメスガキはBTSと韓国ドラマの大ファンという国賊女だ。
「で、何?」
「さっき、あるお客さんから、お連れさんが薬を飲むので氷が入ってない水をくれって言われたんですけど……」
「だから、何?」
「変なんですよ、その方が……」
「だから、何だよ?」
「日本語をしゃべってる方ばっかりの中に1人だけ韓国語の人が居て……その人が薬を飲むんで水が欲しいらしかったんですけど……変なんですよ、その人」
「韓国人が変なのは当然だろ、要点を言え、要点を……」
「その人の韓国語……でした」
「あ、そ……」
 俺は、水の代りに塩素系の漂白剤をコップに入れて……。
「これでも出しとけ」
「あ……あの……これ……いいんですか?」
「いいに決ってるだろ。ただのイタズラだよ。万が一、北朝鮮の奴が死んだとしても……逆に日本の為になる」

「事情が判明しました。実行犯は日本人の寿司職人ですが……北朝鮮のシンパだったようで、北朝鮮からの指示で毒殺を行なったようです。本人も自白しました」
 日本の公安の担当者は、アメリカのCIAと韓国の国家情報院の担当者にそう説明した。
「しっかりして下さい。本人の希望で高級寿司屋に連れていったのはいいですが……従業員の身元を洗ってなかったんですか?」
「あの亡命希望者が持ってた北朝鮮の核兵器開発に関する情報が失なわれたんですよ。どうしてくれるんですか?」
「は……はい……今、背後関係を洗っています」
 日本の公安関係者は極めて有能である。
 ただ、その有能さを国でも国民でも正義でもなく、自分達の組織を守る事のみに全振りしているだけで。
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