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第二章:The Magnificent Seven/選ばれし7人

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 地獄への道は善意で舗装されてる、と主張する人も居る。
 いや、悪意に決ってるだろ、と反論する人も居る。
 でも、私は……今、自分も周囲も関係ない人間さえ地獄に突き落すには、どうすればいいか、よく判った。
 地獄への道は、善意でも悪意でもなく、「安易」により舗装されている。
 安易な選択を現実主義だと勘違いすれば……いずれは、目の前で、残虐無比かつ世にも笑えるみじめな死に方をした名前も知らないおっちゃんみたいな運命を辿る。
 馬鹿に限って自分を現実主義者だと勘違いするけど、馬鹿だから、自分が地獄への道を飛龍ワイバーン天馬ペガサスに乗って猛スピードで進み続けてる事に気付けない。
 ……人の事は言えないけど……。
「さて……俺の都合で、まとこにすまんが……」
 「鋼の男」は……酒場の中を見渡し……。
「俺が、今、ここで何をやったかをベラベラ他人ひとにしゃべって広めてくれる者が必要だ。だが、それは1人でいい」
 へっ?
「お前らで、その1人を選……」
「うわあああああああッ‼」
 嫌だ。
 冗談じゃない。
 生きてく気力は無いけど、あの名前も知らないおっちゃんみたいなロクデモない死に方は嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 絶対に嫌だ。
 あんな酷い死に方するぐらいなら死んだ方がマシだ。
 あたしは、テレポーテーションの魔法を発動し……。
 発動し……。
 発動……。
 あれ?
「冒険者などという人間のクズにしては……マシな奴のようだな……」
 あ……。
 やっぱり、魔法は使えるけど、巧く制御する事は出来ないみたいだ……。
 イルゼとルーカス君だけが消えて……あたしだけが、この場に残って……。
 失敗するにしても、何で、毎度、こうなるの? 私だけ逃げて、2人は見捨てるつもりだったのに……。
「あははは……」
「クズらしくもない真似をした事に免じて……今回だけは、全員助けてやろう。だが、次も助かるかは保証出来んぞ」
「は……はい……」
 思いっ切り勘違いしてくれた「鋼の男」は……私に背を向け……。
 イルゼの言った通りだ。
 油断した所をグサリとやろうとしても……刃物で刺し貫けそうな場所が全然無い。
「ああ、そうだ。店の前に置いてある死体の始末と、店の清掃は、冒険者ギルドの方で適当にやって置いてくれ。俺がギルドに上納してきた金に比べれば、端金はしたがねで何とかなる話だろ?」
「あ……ああ……そうですね、ギルドのエラいさんには、そう伝えておきます」
 「鋼の男」が店を出てから……しばらくしても……私は腰をぬかしたまま……あれ?
 何か……ひっかかる。
 何か……重大なミスをしたような気が……。
 あ……そうだ。
 あの2人、どこにテレポーテーションしたんだ?
 そもそも、私……テレポーテーションの魔法がマトモに成功したとして……どこにテレポーテーションするつもりだったんだ?
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