上 下
13 / 32
第三章:BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY/恥も外聞も人倫も無い大戦争

(3)

しおりを挟む
「おい、何で、たった2つの死体で『葬除そうじ』代が、そんなに高価たかい?」
 幹部のお爺さんの1人が……魔法の石版タブレットに向かって怒鳴り散らしている。
 どうやら、「葬除屋ギルド」との価格交渉でトラブってるらしい。
 除屋と言っても普通の除屋さんじゃない。
 客は、王族・貴族に豪商に暗殺者アサシンギルドにチンピラまで。
 存在がバレるとマズい死体を「掃除」ならぬ「葬除」してくれる業者の連合体だ。
「どうしたんだ、おい?」
「ちくしょう……『強力な魔法や呪いで死んだ死体は、担当者も呪われる可能性が有るんで割増料金』だとさ」
 実は……そうだ。
 人間・動物・モンスターを問わず、魔法で殺された死体や、強力な魔法使いの死体には、ある種の「呪い」がかかってしまう事が有る。
 もっとも、私みたいな普通の魔法使いが殺した奴の死体なら、まだ、マシだ。
 むしろ、自称「僧侶」「プリースト」「クレリック」などが絡んだ方が危険だ。
 この世界に残存する自称「神聖魔法」の大半は、「神」と称するナニかから授けられた力じゃなくて、ヤバい魔物との契約で得た「一見すると『神聖魔法』に見える偽物」だ。
 そして、ヤバい魔物から授けられた力で殺された死体や、そんな魔物と契約してる奴の死体は……当然ながらヤバい代物と化す事が少なくない。
 実は、聖堂や神殿や寺院によく有る「一般人の信者は、めったに参拝出来ない『奥の院』の聖者廟」の正体は「超マズい呪いの品」と化した聖者や聖女(と言っても、大半がアカン魔物と契約したアカン連中)の死体や身の回りの品を封印する為の施設だ。要は一般人の信者が聖遺物だと思い込んでるけど、実態は魔遺物・邪遺物だったりするモノを保管する隔離施設だ。
 まぁ、本物の「神聖魔法」は「『神』と称するナニかは、アフターサポートも万全な代りに、そうそう簡単に願いを聞き届けてはくれない」のに対して、色々とマズい魔物との契約で使えるようになった偽の「神聖魔法」は「後で怖い事になる代りに発動率・成功率は、ほぼ一〇〇%」だったりするのが、この世界で本物の「神聖魔法」が絶滅危惧種と化しつつある理由の1つだが……。
「どうも、『葬除屋ギルド』の依頼で来ました」
 しばらく後に、酒場の入口から、そんな声がして、ゾロゾロと入って来たのは……。
「おい、バレるとマズいから、お前ら『葬除屋』を呼んだのに……何だ、それは?」
 入って来たのは……「冒険心ギルド」の所属者の中にも、そうそう居なさそうなぐらいに高レベルっぽい魔法使いに……魔法の護符をじゃらじゃらといくつも身に付けた人夫さん達。
「だから、魔法通話でんわでウチのエラいさんから説明有りましたよね? 魔法絡みの死体の『葬除』ってのは手間が半端ないんです」
「言ってる事は判るが……目立ち過ぎだッ‼ 目立つと困るから、お前らを呼んだのに、それじゃ本末転倒だッ‼」
「魔法絡みの死体の葬除を、ウチのギルドが定めた手順通りにやったのに呪いとかを受けた場合は、ウチのギルドが補償してくれるんですが、そうじゃない場合は、全部自己責任なんです」
「いや、だから……」
「目立たない格好で、出直してきてもいいですよ。でも、その場合は料金割増で、あと『もし、葬除屋の内の1人でも、これらの死体を葬除した結果、呪いその他の魔法災害を受けた場合の解呪の費用は全て冒険者ギルド持ちとする。更に、呪いで葬除人が死んだ場合には、以後、最低一〇年間、最大で五〇年間、冒険者ギルドが遺族年金を出す。なお、本契約の葬除屋側の対象は非正規雇用の者も含まれる』って契約書にサインしていただきます」
「割増? 遺族年金? どれ位だ?」
 もちろん、とんでもない額だった。
しおりを挟む

処理中です...