受け継がれる炎

蓮實長治

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受け継がれる炎

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 何故、私が選ばれたのか判らない。
 オリンピックに出場した事は有るが……大した成績では無く、今や「知る人ぞ知る」元スポーツ選手の一般人に過ぎない。
 近所の工場でパートをしている主婦……それが今の私だ。
「絶対に辞退しないで下さい」
 JOCの関係者からは……そう言われている。
 だが……こんな御時世だ……。
 東京五輪の開催は不可能に近い。
 聖火リレーの最初の走者に選ばれた、私でさえ、そう思うようになっていた。

 最初は……私の従兄弟だった。
 次は、夫の叔母。
 3回目は、私の現役時代のコーチ。
 最後は夫の会社の部下……夫が担当しているプロジェクトに必要不可欠な人物だった。
 流石におかしいと思った。
 いや……私が辞退の意志を漏らす度に、私や夫の親類や友人・知人が脅しのように逮捕される事では無い。
 今の政府なら……それ位の事はやりかねない。
 夫が担当しているのは、間も無く始まるであろう戦争の為の兵器の部品工場の増設だ。
 それに必要不可欠な人材を逮捕するなど……何故「国」が「国の将来を危うくしかねない」真似をするのか?

「まず……何から説明すれば良いか……。オリンピックの聖火リレーが最初に行なわれたのは……いつか知っていますか?」
 聖火リレーの開始予定時刻まで……あと少し。
 私は……JOCの関係者から、まず、そう言われた。
「いえ……ですが……何故、今そんな話を?」
「これからやる聖火リレーを詳細を説明する為の……前提知識だからですよ。信じ難い話でしょうが……。オリンピックの聖火リレーが最初に行なわれたのは……一九三六年のベルリン・オリンピックです」
「え……ちょ……ちょっと待って下さい……。それは……。えっと……その年にはドイツで……もう……その……?」
「ええ、既にナチスがドイツの政権を掌握していました。全権委任法成立の約3年後です。そして……ナチスの関係者にはオカルトや『魔術』の信奉者が少なくなかった。……よく考えて下さい。聖火の着火式……それは、ある意味で『名のみ伝わり信仰が失なわれた古代の神を祀る儀式』です。こう言えば……その……」
 そうだ……そんな言い方をされれば……確かに聖火の着火式も……何かおかしなモノに思える。もう、誰も信仰していない神を……大真面目に祀るなど……。
「最初の聖火リレーは……魔術の儀式だったらしいのですよ……。そして……魔術やオカルトの目指すものは……『』」
「えっ?」
「私も……何を言われているのか……理解出来ません……。しかし……IOCの中に居る『ナチスのオカルト思想の系譜を継ぐ魔術師』に言われたのです……。聖火リレーの第一走者の候補の中で……貴方こそが、最も多数のに存在していると……」
「はぁ?」
「貴方は、の第一走者ですが……真の第一走者ではない……。これから……貴方に聖火を渡すのは……の貴方です……。……どうか……聖火と共に……希望を繋いで下さい」
「あの……」
 意味が判らない……しかし……その時……私が……第一走者の筈なのに……聖火の松明と予備の炎が入ったランタンを持って走って来た者が居た……。
 私だった……。
「受け……取って……」
「えっ……」
 思わず受け取った……その瞬間……。
「そ……それは……何……?」
「私の……前の私も……そうだった……多分……この聖火を渡した途端……東京五輪が開催出来ない……私の世界は……消えるらしいの……私と共に……」
「そ……そんな……」
「私の世界では……世界的な伝染病の流行で……東京五輪が開催出来なくなった……。貴方の世界が……そんな事のない……世界である事を……祈……」
 もう一人の私は……黒い煙と化しつつ有った……。
 確かに……もう一人の私が言うような「世界的な伝染病の流行」のニュースなど聞いた事は無い……。でも……その代り……東京五輪開催予定日までに……多くの国を巻き込んだ大戦争が勃発するのは……ほぼ……確実……。
「こ……これは……一体?」
「走って下さい……。真実が判った時には……何もかもが手遅れだった……。『意志による現実改変』で……東京五輪を実現させる……。その本当の意味は……らしいのです」
「い……いや……待って下さい……」
「走って……下さい……。聖火が消えた場合……聖火を受け取れなかった次の世界は東京五輪が開催されないだけで存続しますが……この世界は消えるそうです……。お願いです……走って下さい……。貴方から聖火を受け取るのが……別の世界の貴方ではなく……この世界の次の走者かも知れないと云う……一縷の希望のぞみに賭けて……」
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