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有る筈の無い「内面」
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「あの……だから、俺の小説を使うのはやめた方がいいって言ったんですよ……」
「いや、これは、これで面白そうだ……。論文に載せるのは無理だが……」
「えっ?」
「盆休みには実家に帰るんだろ?」
「そうですが……」
「じゃあ、君のワークステーションは、その間、誰も使わない訳か。なら、空いてる君のワークステーションで解析用のプログラムを走らせてもいいか?」
研究室の先輩は、俺が18禁小説サイトに投稿した催眠モノのエロ小説を見ながらそう言った。
エロ目的で見てくれるなら、まだいい。
しかし、「テンプレ通りのエロ小説の犯され役の女の子の『内面』をAIに推定させる」なんて事に使われたら、作者の俺からしても嫌な予感しかしない。
そもそも、その手のエロ小説によくある「催眠」にかかったキャラに「内面」なんて有るのか?
AIと言っても、実は大きく2種類に分かれる。
1つは、人間の「論理性」「理性」をコンピュータで再現しようとするもの。
もう1つは、人間の「学習や経験で得た能力」をコンピュータで再現しようとするもの。
この2つは実は仕組みが全く違う。両方の機能を持つAIを作ろうなんて……喩えるなら「iPhoneとAndroidを合成して、全く新しいスマホを作りました」「iOSとWindowsを合成して全く新しいOSを作りました」ぐらい馬鹿馬鹿しい……いや、その方がまだ現実味が有る話だった……。
そう「だった」。俺が大学に入学した頃は……。
しかし、ほんの1~2年で状況は変った。「理性」「論理性」と「学習能力」……そして何なら「感情」さえも併せ持つAI……最早「人工知能」どころか「人工意識」「人工人格」と呼ぶべきモノを作る為の基礎理論が生まれ……そして、俺が卒論を書く頃には、人工知能界隈での一大流行となっていた。
そして、俺が配属された研究室でも、修士・博士課程の先輩達の中には、この新しいタイプのAIを研究テーマに選ぶ人も出て来ていた。
そして、研究室の先輩の1人は「AIにある小説の派生版を書かせる」……具体的には「AIに『ある小説を主人公以外の登場人物の視点から語り直したスピンオフ小説』を作らせる」と云う研究テーマを選んだ。
ゼミで、その先輩が例として出したのが……「森鴎外の『舞姫』をエリスの視点から見た小説をAIに書かせる」。
その時は、古典文学の知識なんて、ほとんど無さそうなウチの研究室の面々の顔にさえ不安げな表情が浮かんだ。
「そう言や、君、どっかの小説投稿サイトに小説を投稿してるって聞いたけど……」
その先輩がゼミで新しい研究テーマを発表してから数ヶ月後、とんでもない事を言い出したがった。
「えっ? 何の事ですか?」
おい、おい、おい、どこで聞き付けやがった。
「いや、隣の研究室の○○が、君の同期の××君から聞いたと言ってたんだけど……」
あ……あの野郎……。
「その小説、ウチのAIに食わせてもらえないかな?」
どうやら「食わせる」と云うのは「俺の小説のスピンオフをAIに書かせる」って意味らしい。
「いや、でも、俺の小説は人間描写が……」
「でも、小説は小説だろ」
いや、AIに「主人公以外の視点で、その小説を語り直す」なんて真似をやらせようったって、俺の小説の登場人物の大半には「視点」も「内面」も無い。
有ったとしても、登場した途端に「視点」やら「内面」が消え去る奴らばかりだ……。
だって、俺の小説は……催眠モノのエロ小説なのだから……。
『私は……ようやく気付きました……。男性ホルモンが多い事と、男らしさの間には当然、関係が有る。つまり……女は……御主人様のような太った体臭がキツい髪の薄い方に引かれるのが自然なのだと……』
「何なんですか、これ?」
「いや、だから、催眠にかかったヒロインその1が、催眠にかかった事を気付かないまま、主人公に恋をしてる理由を自分でデッチ上げて合理化してるんだ……と思う」
「『思う』?『思う』って、何なんですか? 先輩が作ったAIが出力した小説でしょ、これ?」
「君こそ、AI関係の研究室に居て、何を言ってるんだ? AIってのは、作ったヤツにとってもブラックボックス化するものだろう!!」
『御主人様のような素晴しい方の遺伝子は少しでも多く残さねばなりません。ですから……1人でも多くの女性が御主人様の子供を産む事は、世の中の為になるのです』
「うわあああ……。すいません、ちょっと、トイレ……」
「何でトイレ?」
「いや、俺が作った筈のキャラがサイコっぽい事を言い出したんで、吐き気がしてきて……」
「入力は君の小説だぞ!!」
『変です。私を含めて、御主人様の恋人達の誰も妊娠しません。私達の役目は、御主人様の遺伝子を残す事の筈……。御主人様の子供を残せないのなら、私達に生きている意味は有りません……。さようなら、御主人様……御主人様が、御主人様の優れた遺伝子を残す事が出来る女性に巡り会えるように祈っています』
「……な……なんで、ヒロイン全員が集団自殺するなんてオチに……?」
「なぁ……どっちだと思う?」
「何がですか?」
「俺の作ったAIは『催眠にかかったキャラ』の『内面』をシミュレートするのに失敗したと思うか? それとも……巧くシミュレートし過ぎたのか?」
ふと……嫌な予感がした……。俺は、今後、2次創作モノのエロを見る度に、このイロイロアレアレな「俺の小説のAIが書いたスピンオフ」を思い出す事になり……素直にヌけなくなるんじゃなかろうか……と。
だが、このトラウマによって、俺の体に起きた事は、もっと洒落にならなかった。
「すいません、もう、この小説は中断されたんでしょうか?」
小説投稿サイトに、そんな感想が書かれた。
「いや、実は俺、大学4年で、今、卒論で忙しくて……卒論終ったら続きを書きます」
そう返信したは良いが……。
しかし、どうすりゃいいんだ? あと、これの責任を誰に取らせるべきなんだ?
よりにもよって、AIが書いた俺の小説のスピンオフを読まされたトラウマでEDになってしまった場合って……。
「いや、これは、これで面白そうだ……。論文に載せるのは無理だが……」
「えっ?」
「盆休みには実家に帰るんだろ?」
「そうですが……」
「じゃあ、君のワークステーションは、その間、誰も使わない訳か。なら、空いてる君のワークステーションで解析用のプログラムを走らせてもいいか?」
研究室の先輩は、俺が18禁小説サイトに投稿した催眠モノのエロ小説を見ながらそう言った。
エロ目的で見てくれるなら、まだいい。
しかし、「テンプレ通りのエロ小説の犯され役の女の子の『内面』をAIに推定させる」なんて事に使われたら、作者の俺からしても嫌な予感しかしない。
そもそも、その手のエロ小説によくある「催眠」にかかったキャラに「内面」なんて有るのか?
AIと言っても、実は大きく2種類に分かれる。
1つは、人間の「論理性」「理性」をコンピュータで再現しようとするもの。
もう1つは、人間の「学習や経験で得た能力」をコンピュータで再現しようとするもの。
この2つは実は仕組みが全く違う。両方の機能を持つAIを作ろうなんて……喩えるなら「iPhoneとAndroidを合成して、全く新しいスマホを作りました」「iOSとWindowsを合成して全く新しいOSを作りました」ぐらい馬鹿馬鹿しい……いや、その方がまだ現実味が有る話だった……。
そう「だった」。俺が大学に入学した頃は……。
しかし、ほんの1~2年で状況は変った。「理性」「論理性」と「学習能力」……そして何なら「感情」さえも併せ持つAI……最早「人工知能」どころか「人工意識」「人工人格」と呼ぶべきモノを作る為の基礎理論が生まれ……そして、俺が卒論を書く頃には、人工知能界隈での一大流行となっていた。
そして、俺が配属された研究室でも、修士・博士課程の先輩達の中には、この新しいタイプのAIを研究テーマに選ぶ人も出て来ていた。
そして、研究室の先輩の1人は「AIにある小説の派生版を書かせる」……具体的には「AIに『ある小説を主人公以外の登場人物の視点から語り直したスピンオフ小説』を作らせる」と云う研究テーマを選んだ。
ゼミで、その先輩が例として出したのが……「森鴎外の『舞姫』をエリスの視点から見た小説をAIに書かせる」。
その時は、古典文学の知識なんて、ほとんど無さそうなウチの研究室の面々の顔にさえ不安げな表情が浮かんだ。
「そう言や、君、どっかの小説投稿サイトに小説を投稿してるって聞いたけど……」
その先輩がゼミで新しい研究テーマを発表してから数ヶ月後、とんでもない事を言い出したがった。
「えっ? 何の事ですか?」
おい、おい、おい、どこで聞き付けやがった。
「いや、隣の研究室の○○が、君の同期の××君から聞いたと言ってたんだけど……」
あ……あの野郎……。
「その小説、ウチのAIに食わせてもらえないかな?」
どうやら「食わせる」と云うのは「俺の小説のスピンオフをAIに書かせる」って意味らしい。
「いや、でも、俺の小説は人間描写が……」
「でも、小説は小説だろ」
いや、AIに「主人公以外の視点で、その小説を語り直す」なんて真似をやらせようったって、俺の小説の登場人物の大半には「視点」も「内面」も無い。
有ったとしても、登場した途端に「視点」やら「内面」が消え去る奴らばかりだ……。
だって、俺の小説は……催眠モノのエロ小説なのだから……。
『私は……ようやく気付きました……。男性ホルモンが多い事と、男らしさの間には当然、関係が有る。つまり……女は……御主人様のような太った体臭がキツい髪の薄い方に引かれるのが自然なのだと……』
「何なんですか、これ?」
「いや、だから、催眠にかかったヒロインその1が、催眠にかかった事を気付かないまま、主人公に恋をしてる理由を自分でデッチ上げて合理化してるんだ……と思う」
「『思う』?『思う』って、何なんですか? 先輩が作ったAIが出力した小説でしょ、これ?」
「君こそ、AI関係の研究室に居て、何を言ってるんだ? AIってのは、作ったヤツにとってもブラックボックス化するものだろう!!」
『御主人様のような素晴しい方の遺伝子は少しでも多く残さねばなりません。ですから……1人でも多くの女性が御主人様の子供を産む事は、世の中の為になるのです』
「うわあああ……。すいません、ちょっと、トイレ……」
「何でトイレ?」
「いや、俺が作った筈のキャラがサイコっぽい事を言い出したんで、吐き気がしてきて……」
「入力は君の小説だぞ!!」
『変です。私を含めて、御主人様の恋人達の誰も妊娠しません。私達の役目は、御主人様の遺伝子を残す事の筈……。御主人様の子供を残せないのなら、私達に生きている意味は有りません……。さようなら、御主人様……御主人様が、御主人様の優れた遺伝子を残す事が出来る女性に巡り会えるように祈っています』
「……な……なんで、ヒロイン全員が集団自殺するなんてオチに……?」
「なぁ……どっちだと思う?」
「何がですか?」
「俺の作ったAIは『催眠にかかったキャラ』の『内面』をシミュレートするのに失敗したと思うか? それとも……巧くシミュレートし過ぎたのか?」
ふと……嫌な予感がした……。俺は、今後、2次創作モノのエロを見る度に、このイロイロアレアレな「俺の小説のAIが書いたスピンオフ」を思い出す事になり……素直にヌけなくなるんじゃなかろうか……と。
だが、このトラウマによって、俺の体に起きた事は、もっと洒落にならなかった。
「すいません、もう、この小説は中断されたんでしょうか?」
小説投稿サイトに、そんな感想が書かれた。
「いや、実は俺、大学4年で、今、卒論で忙しくて……卒論終ったら続きを書きます」
そう返信したは良いが……。
しかし、どうすりゃいいんだ? あと、これの責任を誰に取らせるべきなんだ?
よりにもよって、AIが書いた俺の小説のスピンオフを読まされたトラウマでEDになってしまった場合って……。
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