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復讐(リベンジ)代行業社ですが……同業者から復讐(アベンジ)の対象にされました

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「掘り終えたか……」
 そう言ったのは池袋近辺の同業者のリーダー格である通称「赤鬼」。
 元格闘家と云う噂の有る……顔も体格もゴツい男だ。
 拉致されて、普通車の後部トランクから出されると、そこは多摩かどこからしい山奥、時は真夜中。
 それから……延々と穴を掘らされた。
 一緒に拉致された後輩達は何もしてないが……その事には怨みも怒りもない。
 ふんじばられて……自分が入る墓穴を先輩パイセンである俺が掘ってるのを眺める羽目になったんだから。
「おい、新宿の大将……ケジメを付けろ」
 池袋の赤鬼は、そう言って俺に大型ハンマーを渡した。
「……け……ケジメ?」
「ああ……これで、子分どもを死ぬまで殴れ。そうすりゃ……お前だけは助けてやる。そして、田舎にでも帰ってカタギになれ」
「え……えっと……」
「はい……じゃあ、みんな、よく見ときな。あたしらの業界の掟『ウロボロス禁止』を破った奴の末路だよ」
 今度は、渋谷界隈のリーダー格である通称「羅刹女」が動画を撮影しながら、そう言った。
 で……でも……え……っと……おい、まさか、俺達は……。

 クリスマスも近いその日、俺は、事務所で後輩からの連絡を待っていた。
『あ、俺っす、俺』
「おい、俺達は『復讐代行業』だぞ。その手の詐欺師じゃねえ」
 今回の依頼主は、少し前に俺達の縄張りショバで自殺した家出少女メスガキの親だ。
 何でも……ここ半年ぐらいで有名になった家出少女メスガキやホームレスの若い女への支援を行なっている団体の男にレ○プされ自殺したらしい。
 調べてみると、ネット上の評判はいいのに、この近辺の風俗街で仕入れる事が出来た情報は……ゼロ
 ウチの事務所の先代の頃から付き合いの有る情報屋の1人は……完全にブラックな「店」を経営してる「組」……俺達「復讐代行業」でも迂闊に手を出せねえほどの剣呑ヤバい連中の名前をほのめかし、手を引くように言ってきた。
『えっと……標的が住んでるマンションの前まで来てますが……何か……変なんすよ……』
「何が?」
警官が居ます』
「はぁ?」
『い……いや……別件で見た事有るけど、たしか、生活安全課の……』
「おい、部署名口にしたら『D』なんて略語を使う意味ねえだろ」
『は……は……はぁ……は? は? は? はぁぁぁぁぁッッッッッ?』
「おい、どうした?」
『ああああ……』
「おい、どうした……」
『逃げます、とりあえず、逃げますッ‼』

『よ……ようやく、落ち着きましたんで……』
 数時間後、下見に行った後輩から、やっと、連絡が有った。
「ああ、ニュースになったんで見たよ」
『あ、そうっすか……』
「依頼された標的がマンションから飛び降り自殺したんだろ」
『ええ……』
「とりあえず……たまたま、何故か、マンションの周囲に居た警官は撒いたか?」
『撒きましたが……その……』
 どうやら、奴は「標的=T」「警官=D」みたいな略語を使ってない事を不審に思ったようだ。
「詳しい事は後で話す。とりあえず、事務所に戻れ……」
『は……はい……わかりました』
「じゃ、切るぞ……」
「どうなっとんのか、説明してもらおうか?」
 俺の目の前には……俺達でも迂闊に手を出せない「組」の恐いお兄さん達が居た……。
「え……えっと……」
「変った『お歳暮』やな。誰から届いたんかね?」
「そ……それが……」
「ウチの若いのが死んだ。警察に居る俺達のスパイの話では……自殺じゃのうて、殺されてから落とされたらしいんじゃよ。その情婦スケにも連絡が取れんと思うたら……殺されとって……何故か、その生首がここに有る。どうなっとる?」
 どうやら……標的がやってた支援団体は、本当に助けた家出少女メスガキに(18禁自粛)して、ブラックな「店」に卸してたらしい。
 しかも、標的のマズい仕事と私生活の両方のパートナーだった女まで殺されて、その生首が氷詰めにされて、ウチの事務所の前に置かれていた。
 そして、どこから、俺達に標的への「復讐」を依頼した奴が居た事を、恐いお兄さん達が聞き付けて……。
 おい、どうなってんだ……まるで……そうだ……俺達の同業者のやり口だ……。
 あらゆる方面から、俺への包囲網がしかれ……そして……。
 ん? 待て、この生首……どこかで見覚えが……。
 その時、恐いお兄さんのスマホに着信音。
「おい、どうした? 何? ああ、そうか……おい、どうなっとる?」
「へっ?」
「お前が自白ゲロした『依頼主』じゃが……家がもぬけの空じゃ」
「え……あの……どうなって……?」
「聞いとんのは、こっちじゃッ‼ その『依頼主』の家を調べたら……誰もらん。近所の奴の話じゃ、今日の朝、急に親類の葬式じゃうて、一家全員、どっかに出掛けて行ったらしい。娘の四十九日も明けとらんとに、どうなっとるッ?」
 ……い……いや、俺に言われても……。

「おい、新宿の……お前んとこの若いのが逃げようとしてたんで、連れて来てやったぞ……おや?」
 その時、事務所の入口のドアが開き……そこには……。
 東京の復讐代行業の中でも「大物」である池袋の赤鬼と渋谷の羅刹女……。
 そして、標的のマンションの下見に行かせた後輩。
「おい、兄弟きょうでえ。そこの阿呆な兄さんが、兄弟きょうでえんとこの若いのを知らずにっちまったらしいな……。その阿呆な兄さんの『同業』が詫びを入れてえってさ」
 更に、別の恐いお兄さん。
「おい、待ってくれ、どうなってんだ?」
「申し訳ありません……私ら、そいつの『同業』の手で、そいつらにケジメ付けさせますんで……」
 そう言いながら……赤鬼は、とんでもない量の札束が入ったジュラルミンケースを開けた。

「お前さ……そこまで手際が悪くて、よく『復讐代行業』なんてやってられたな?」
「あああああ……」
 ウチの事務所の後輩達は……楽にも綺麗にも死ねなかった。
 俺が……大型ハンマーで何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も殴り付けて殺したのだ。
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も殴り付けたのは……一撃で死ななかったからだ。
「お……お……お……俺が……何をしたんだ?」
「だから……ウロボロスだ……」
 それは……たしか……。
「自分らが代行した『復讐』の結果、新しい怨みが生れる事が有る。だが、自分が生んだ怨みが原因の『復讐』の依頼は自分らで受けるな。それが、あたしらの間の掟の筈だよ?」
 渋谷の羅刹女が、そう言った。
 そうだ……。俺達は……正義漢ぶった悪党に過ぎないが……それでも、掟や矜持が有る。
 もし……羅刹女が言うような掟が無ければ……同業者の中に「わざと次の復讐の種を撒くような方法で依頼された復讐を果たす」ような奴が出る。たしかに、そんな「無限ループ」をやれば、楽に金を稼げるだろうが……やってしまうと、とんでもない事になる。
 どこまで、とんでもない事になるか判らないが、無茶苦茶とんでもない事になるのだけは確実なほどとんでもない事になる。
 そして、俺達は、正義漢ぶった悪党じゃなくて、単なる最低の悪党に成り下がる。
「で……でも……」
「おい、まだ気付いてないのか? あの標的の情婦スケが……去年の今頃、似たような依頼をお前にやっただろ?」
「へっ?」
 そうだ……。
 家出した少女メスガキや、ホームレスの女を支援してる団体を信じたら……酷い目に……いや……違う……でも、そっくりだ。
 最初の団体は……代表者が女。今度の団体は……代表者が男。
 最初の団体は……ネット上の評判は最悪。今度の団体は……ネット上の評判は上々。
 ところが、現実オフラインでの評判は、最初の団体は上々で、今度の団体は……。
 似てるのに正反対。正反対だからこそ似てる。
 どうなってる?
「だから、お前は……嘘の依頼に引っ掛かって……マトモな連中を潰した。そして、ヤー公のフロントが、まんまと、お前らが潰したマトモな団体の後釜に座った」
「当然、ヤー公のフロントだから、ロクな真似をしない……そりゃ、怨みも生まれるだろうけど……そんな依頼をあんたが受けたが最後……」
 ぐわあああああんッ‼
 今度は……俺の肩に大型ハンマーが叩き込まれる。
 おい、待て……俺は助けてくれるんじゃ……。
「この稼業をやってる奴なら……1度や2度は嘘の依頼に騙されて、罪の無い奴を酷い目に遭わせる事なんて有るんでね。あんたの1度目のポカは強くは責められないよ……でもね……」
「嘘の依頼で騙される馬鹿は許せても……『ウロボロス禁止』を破る奴が居たら……この稼業に何が起きるか判らねえんでな……。同業者への見せしめとして……」
 赤鬼は、再び、大型ハンマーを振り上げ……。
「死ね」
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