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Leap of faith
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「残念ですが……措置入院です」
同業者……診療科は違うが……は冷酷にそう告げた。
「い……いや……でも……その……」
「あなたが信じているモノは……妄想ですが、他人に危害を加える事につながりかねない危険な妄想です。安全の為に入院していただきます」
ほんの少し前まで開業医だった俺は傷害事件を起し……そして、有罪は免れた。俺に必要なのは処罰ではなく治療だと判断されて。
もう判らない……。俺が信じている事が、妄想か事実か……それさえも……。
発端はSNS上で例の伝染病のワクチンは危険だと云うデマを撒き散らしているアカウントの中もで最も狂った事を言ってたヤツの1つが変な書き込みを始めた事だった。
どう変かと言えば、マトモな内容の書き込みだったのだ。
普段、狂った事を言ってるヤツが、急にマトモになる……冷静に考えると良い事か異常事態かは判断に迷うが……その時は、誰もが異常事態だと考えた。
そして、そのアカウントはマトモな……マトモかどうかの基準は、普段のそいつの言動じゃなくて、あくまで世間一般の……書き込みを削除し……だが、SNS上では、そいつを巡る「祭」が続き……とうとう、そのアカウントは「反ワクチン批判派が作ったネタアカウントで、急にマトモな事を言い出したのは本アカのつもりで書き込みをしたんじゃないのか?」と云う噂が流れ……。
冗談じゃない……。
ほんの2~3日で、SNS上から発端になったヤツを含めて反ワクチン系のアカウントがいくつも消えた。
無茶苦茶な事を言ってるアカウントほど消えて、反ワクチン系の中でも相対的に穏当なアカウントはそのまま、と云う傾向が有るようだった。
既にSNS上では「過激な反ワクチン派は反ワクチン批判派による自作自演」なんて陰謀論が広まりつつ有った。
「やれやれ……」
俺は仕事場であるクリニックの診療を終えて近くのコンビニで晩飯を買い……。
「あ、先生、どうも」
そう声をかけてきたのは……。
「あ、どうも……」
身長約一八〇㎝。スポーツジムに通ってるらしい体付き。顔も、いわゆる「マッチョ系のイケメン」。
なんで、こんな人がウチのクリニックの患者なのかと言えば……要はイ○ポだったのだ。
「ところで、このSNSのアカウントって、先生のですよね?」
お……おい……何で………。
何でバレたんだ? どうなってる?
その患者さんが……俺に見せたスマホには……例のSNSの「祭」の発端になったアカウントの書き込みのスクショが表示されていた。
そうだ……このアカウントの「中の人」は俺だったのだ……。
本当かどうかは知らないが、映画やドラマに出て来るような「サイコパス」は……居たとしてもサイコパスの中でも少数派だ、と云う話を聞いた事が有る。
いわゆる「爬虫類顔」。
神経質そうな感じ。
どちらかと言えば痩せ気味。
少なくとも、男性のサイコパスの中では、そんなのは少数派らしく……男性のサイコパスには、どちらかと言えば、体付き・顔付きともに「男性的」な人物が多いそうだ……。要は、ある男がサイコパスだったなら、「マッチョ系のイケメン」の可能性が高い、と……。
「じゃあ、先生、やって見て下さい。先生が言ってる事が本当なら、飛べますよね……ここから……」
俺を……この駅前の雑居ビルの屋上まで連れて来た患者さんは、そう言った。
「えっ?」
「先生、まさか、医療従事者なのに、まだ、ワクチン打ってないんですか?」
「そりゃ、打ってますよ……」
「じゃあ、先生、ここから飛んで下さい」
「そ……そんな……馬鹿な……」
「だって、先生がSNSに書き込んでたじゃないですか? ワクチンを打ったら……遺伝子に変化が起きて、アメコミの登場人物みたいな変な能力を得てしまう、って」
「だから、んな馬鹿な事、有る訳が……」
「嘘吐いてたんすか?」
「あ……」
「医者のくせに、SNSで大嘘を広めてたんすか?」
「ま……待って……」
「証明して下さい。先生が言ってる事が本当か、先生が嘘吐きなのかを……」
「……」
「証明しろ、って言ってんだよ」
「…………」
「早く、やれよ」
「……………………」
「聞こえねえのか? このヤブ医者」
「はいいいいいいッッッッッッッ……やりますやりますやりますやりますやりますぅぅぅぅぅっっっっっ‼」
俺は、下に飛び降り……あれ?
飛べたっ‼
そんな……馬鹿な……でも……俺は……スーパーヒーローだっ‼
倒すべき悪モンは……あそこだっ‼ あのサイコ野郎だっ‼
目からビームを放ち……蹴るっ‼ 殴るっ‼ 更に蹴る蹴る蹴る殴る殴る蹴る殴る殴る蹴る……。
すごいすごいすごいすごい……すごいいいいいっっっっっ‼
その時にとんでもない轟音を立ててしまったらしく、その雑居ビルに入ってた学習塾からの通報で……警察がやって来た。
俺は……患者を一方的にブチのめした医者として扱われ……要は傷害の現行犯で逮捕された。
だが……結局は……頭がおかしいと判断され……いや、俺は本当に頭がおかしくなったのか? それとも……本当にアメコミ・ヒーローみたいなスーパーパワーを身に付け……それを危険視した政府か何かによって……治療と称する考えるもおぞましい処置を施されるのだろうか?
同業者……診療科は違うが……は冷酷にそう告げた。
「い……いや……でも……その……」
「あなたが信じているモノは……妄想ですが、他人に危害を加える事につながりかねない危険な妄想です。安全の為に入院していただきます」
ほんの少し前まで開業医だった俺は傷害事件を起し……そして、有罪は免れた。俺に必要なのは処罰ではなく治療だと判断されて。
もう判らない……。俺が信じている事が、妄想か事実か……それさえも……。
発端はSNS上で例の伝染病のワクチンは危険だと云うデマを撒き散らしているアカウントの中もで最も狂った事を言ってたヤツの1つが変な書き込みを始めた事だった。
どう変かと言えば、マトモな内容の書き込みだったのだ。
普段、狂った事を言ってるヤツが、急にマトモになる……冷静に考えると良い事か異常事態かは判断に迷うが……その時は、誰もが異常事態だと考えた。
そして、そのアカウントはマトモな……マトモかどうかの基準は、普段のそいつの言動じゃなくて、あくまで世間一般の……書き込みを削除し……だが、SNS上では、そいつを巡る「祭」が続き……とうとう、そのアカウントは「反ワクチン批判派が作ったネタアカウントで、急にマトモな事を言い出したのは本アカのつもりで書き込みをしたんじゃないのか?」と云う噂が流れ……。
冗談じゃない……。
ほんの2~3日で、SNS上から発端になったヤツを含めて反ワクチン系のアカウントがいくつも消えた。
無茶苦茶な事を言ってるアカウントほど消えて、反ワクチン系の中でも相対的に穏当なアカウントはそのまま、と云う傾向が有るようだった。
既にSNS上では「過激な反ワクチン派は反ワクチン批判派による自作自演」なんて陰謀論が広まりつつ有った。
「やれやれ……」
俺は仕事場であるクリニックの診療を終えて近くのコンビニで晩飯を買い……。
「あ、先生、どうも」
そう声をかけてきたのは……。
「あ、どうも……」
身長約一八〇㎝。スポーツジムに通ってるらしい体付き。顔も、いわゆる「マッチョ系のイケメン」。
なんで、こんな人がウチのクリニックの患者なのかと言えば……要はイ○ポだったのだ。
「ところで、このSNSのアカウントって、先生のですよね?」
お……おい……何で………。
何でバレたんだ? どうなってる?
その患者さんが……俺に見せたスマホには……例のSNSの「祭」の発端になったアカウントの書き込みのスクショが表示されていた。
そうだ……このアカウントの「中の人」は俺だったのだ……。
本当かどうかは知らないが、映画やドラマに出て来るような「サイコパス」は……居たとしてもサイコパスの中でも少数派だ、と云う話を聞いた事が有る。
いわゆる「爬虫類顔」。
神経質そうな感じ。
どちらかと言えば痩せ気味。
少なくとも、男性のサイコパスの中では、そんなのは少数派らしく……男性のサイコパスには、どちらかと言えば、体付き・顔付きともに「男性的」な人物が多いそうだ……。要は、ある男がサイコパスだったなら、「マッチョ系のイケメン」の可能性が高い、と……。
「じゃあ、先生、やって見て下さい。先生が言ってる事が本当なら、飛べますよね……ここから……」
俺を……この駅前の雑居ビルの屋上まで連れて来た患者さんは、そう言った。
「えっ?」
「先生、まさか、医療従事者なのに、まだ、ワクチン打ってないんですか?」
「そりゃ、打ってますよ……」
「じゃあ、先生、ここから飛んで下さい」
「そ……そんな……馬鹿な……」
「だって、先生がSNSに書き込んでたじゃないですか? ワクチンを打ったら……遺伝子に変化が起きて、アメコミの登場人物みたいな変な能力を得てしまう、って」
「だから、んな馬鹿な事、有る訳が……」
「嘘吐いてたんすか?」
「あ……」
「医者のくせに、SNSで大嘘を広めてたんすか?」
「ま……待って……」
「証明して下さい。先生が言ってる事が本当か、先生が嘘吐きなのかを……」
「……」
「証明しろ、って言ってんだよ」
「…………」
「早く、やれよ」
「……………………」
「聞こえねえのか? このヤブ医者」
「はいいいいいいッッッッッッッ……やりますやりますやりますやりますやりますぅぅぅぅぅっっっっっ‼」
俺は、下に飛び降り……あれ?
飛べたっ‼
そんな……馬鹿な……でも……俺は……スーパーヒーローだっ‼
倒すべき悪モンは……あそこだっ‼ あのサイコ野郎だっ‼
目からビームを放ち……蹴るっ‼ 殴るっ‼ 更に蹴る蹴る蹴る殴る殴る蹴る殴る殴る蹴る……。
すごいすごいすごいすごい……すごいいいいいっっっっっ‼
その時にとんでもない轟音を立ててしまったらしく、その雑居ビルに入ってた学習塾からの通報で……警察がやって来た。
俺は……患者を一方的にブチのめした医者として扱われ……要は傷害の現行犯で逮捕された。
だが……結局は……頭がおかしいと判断され……いや、俺は本当に頭がおかしくなったのか? それとも……本当にアメコミ・ヒーローみたいなスーパーパワーを身に付け……それを危険視した政府か何かによって……治療と称する考えるもおぞましい処置を施されるのだろうか?
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