未来は変えられる……貴方の力で……

蓮實長治

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未来は変えられる……貴方の力で……

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「もしもし……」
「またお前か?」
 電話に出た父は意外な事を言った。今の俺よりも若い四十代の頃の父。
 しかし、父は、その齢で、当時の与党の幹部の1人だった。
 一応は世襲政治家ではあるが、党の県連の役職にも付けずに終った県議会議員の息子が、三十そこそこで国会議員に当選し、四十半ばには与党の大物になり、結局は総理にこそなれなかったが、その後も二十年以上に渡って、この国の政治の「台風の目」で有り続けた男。……それが俺の親父おやじだった。
「今度は西暦何年だ? で、どんな大事件が起きた? 首都圏が壊滅する地震か? 自衛隊のクーデターか? 普通だったら何年かに一度の規模の台風が同じ年にまとめて5つ来たのか? 暴力革命か? 核戦争か? 同時に一〇個以上の原発がテロでメルトダウンを起したのか?」
「あの……どう云う事ですか?」
「今日、何度も同じ電話がかかってきたんだよ。未来の俺の息子を名乗る奴からな」
「おい……どうなってる?」
 俺は、同じ部屋に居る技術者に聞いた。
「この『過去への電話』の技術的原理からして、送信側は今から3時間以内、受信側は、あの日1日間。それが、現在から±一〇〇年間で『過去への電話』が可能な『特異点』です」
「それは聞いたよ。どう云う理屈か、さっぱり判らなかったがな」
「もし、過去へ電話をかけた結果、未来が複数に分岐してしまったとしたら……」
「よく判らんが、まぁ、いい。父が私の言う通りにしてくれれば、大概の災害でも何とかなる筈だ……。もしもし、父さん……」
「言いたい事は判ってる。どんな災害や事件が起きて、誰を総理大臣にどの政党を与党して欲しいかは、電話の度に変るが……それ以外は同じだ。政府や総理大臣の権限を大きくしろ、非常事態に人権を制限する法律を作れ、それを邪魔するヤツが出るから……そいつらを社会の敵に仕立て上げろ、国民を政府の云う事を聞くヤツらばかりになるように教育しろ、首相の意向に逆らう官僚は、どんどん更迭出来るようにしろ……」
「は……はぁ……その通り……です……」
「お前、今、何やってる?」
「はい……父さんの跡を継いで政治家に……」
「跡を継いでと言えば、聞こえはいいが、要は、俺の地盤・看板を使って大した苦労もせずに政治家になっただけだろ」
「……すいません……そうかも……しれません……」
「ひょっとして……お前の言った通りにしたら、災害や大事件や戦争が起きた時に……余計に酷い事になるんじゃないのか?」
「……ま……まさか……」
「お前の言った通りにしたら、未来は酷くなる。酷くなった未来のお前は、また、今の俺に電話をかけるが……その結果、更に酷い事になり……、更に酷い未来のお前が、今の俺に電話をかける……。それが、今日の俺が体験した事じゃないのか?」
「判りません……。他の未来の俺の事は……他の未来が有ったとしても……俺は何も知らないので……」
「ひょっとして……未来を酷くしてるのは……災害や事件じゃなくて、お前の考え方そのものじゃないのか?」
「でも……今の時代では……当り前の考え方ですが……」
「そうか……。なら、お前も政治家なら1つ忠告しておく。安易な手で世の中を良く出来ると思うな」
 父は疲れ切ったような声で電話を切った。その直前……ほんの一瞬だけ……父の嗚咽が聞こえたような気がした。
 ふと、俺は部屋の外を見た。
 そこには、あの伝染病で無人地帯ノーマンズランドと化した東京の町が広がっていた。
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