書類の上では貴方が当選されました

蓮實長治

文字の大きさ
1 / 1

書類の上では貴方が当選されました

しおりを挟む
「我々も色々と調べてみたんですが……1960年代に行なわれた東京都知事選で『戸籍上では死んでいた』事になっている人物が立候補した事が有りまして……」
「え……えっと……興味深いお話ですが……私に何の関係が有るのでしょうか?」
 渡された名刺に書かれているのが本当なら、その初老の男性は、東北の某県の県庁の職員で……どうやら、一般企業で云うなら部長クラスか、さらにその上ぐらいらしい。
「当時の公職選挙法では『死んだ他人のフリをして立候補する』と云うのを罰する規定が無く、かなり無理筋の法解釈でその人物を逮捕し、その人物への投票は無効票としたは良いのですが……結局、その人物がどこの誰だったのか、最後まで判らなかったそうなんですよ」
「は……はぁ……えっと、それで……その……?」
「ちょっと想像していただけませんか? この『死んでる筈の東京都知事候補』は、選挙管理委員会が本籍地に問合せたら死亡していたからこそ、何かおかしいと判った訳でして……仮に、生きている人間の戸籍を乗っ取って、立候補していたなら……何が起きると思いますか?」
「いや、そりゃ、住所とかを調べれば……」
「そこに問題が有りまして……」
「へっ?」
「引っ越す際に異動するのは、戸籍でしょうか?」
「い……いえ、高校も大学も勤め先も実家から通える所だったので、詳しくは……」
「引っ越す際に異動するのは住民票です。戸籍が存在する事は、その人が日本国籍を持ってる証明にはなっても……戸籍には現住所との紐付けは基本的に有りません」
「え……えっと、そうなのですか?」
「ええ、なので戦後になって誰がどこに住んでいるかを把握する為に住民票と云う制度が出来たのです」
「は……はあ、ですが……その……私と何の関係が……」
「はい。K県L郡Q町に本籍が有る中馬なかま光宙みつひろと云う方が、この度、我が県の県知事選挙で当選しまして……」
「え? あ……たしかに私と出身地が同じで、同姓同名ですが……この辺りは『中馬』って名字は多くて、小中学校では1クラスに3~4人ぐらいは居ましたんで……この町出身で、私と同姓同名の人ぐらい居るでしょ」
「いえ、新しい県知事の本籍地の住所はここです。この家が有る場所です」
「はぁっ?」
「ちなみに、新しい県知事の生年月日は……」
 告げられた日付は……俺が生まれた日だった。
「い……いや……ちょっと待って下さい」
「そして、我が県の選挙管理委員会が、本籍地であるこちらの町役場に確認した所、中馬光宙県知事候補の戸籍は存在しました」
「そりゃ、存在するでしょ。私の戸籍なんだから」
「それが……その戸籍が、貴方の戸籍か亡くなった中馬光宙候補の戸籍かを確認するすべが無いのです」
「な……亡くなった?」
「はい、当選が決った翌日の晩に、選挙事務所の人達と祝宴を上げた帰りに、交通事故で」
「え……えっと……じゃあ、次の人を繰り上げ当選……」
「でも、中馬光宙さんは生きています」
「い……いや……だから、その……何がどうなって……?」
「ま……オフレコの話にしていただきたいんですが……ちょっと我が県内で、県知事選に泡沫候補まで入れて40人ぐらいの候補が立つほどのゴタゴタが有りまして……まぁ、ぶっちゃけ、有力候補の1人だった中山満宏みつひろさんと云う方の票を減らす為に何者かが立てた紛らわしい名前の泡沫候補が何かの間違いで当選して……当選が決った直後に、偶然にも事故死したか……彼が県知事になっては困る誰かに消されたか……現時点で、最も可能性が高い推測シナリオは、これかと」
「でも、俺は……その県知事だか当選したまま死んじゃった候補だかとは別人ですよ」
「いえ、書類上は貴方です」
「俺が住んでるのは、ここですよ」
「いえ、住民票は、我が県に異動されていました」
「んな馬鹿な。俺は、仕事でも旅行でも名古屋より北に行った記憶は……」
「でも、書類上は、貴方の現住所は我が県の県内です」
「もう訳が判んないんですが、つまりは、俺に何をしろと?」
「週明けから県知事としての仕事が始まります。すぐに準備をお願いします」
「そんな馬鹿な」
「でも、書類上は貴方が県知事です」
「じゃあ、一体全体、死んだのは誰ですか?」
「だから、1960年代の『死んでた筈の東京都知事候補』の話をしたんです。あの人物も、結局は最後まで、どこの誰か判らなかった」
「えっ?」
「ウチの県の県警は被害者不詳のまま捜査を進めていますが……今のところ、交通事故ないしは交通事故に見せ掛けた殺人事件の被害者の身元特定は……望み薄だそうです」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

処理中です...