1 / 1
AIとテロとトーマス・ベイズと自由意志と
しおりを挟む
一体全体、日本は、どうして、こんな社会になってしまったのか?
この5年ほど、閣僚・与党幹部・それらの経験者を狙ったテロが、年に4~5回の頻度で起こり、そして、その内の5人に1人は重症を負うか死亡する羽目になった。
もちろん、その対策としてテロが起きた際に犯人の可能性が高い者を割り出すAIが作られたのだが……。
「お前の情報は公安に全く無い。よく、我々の目を逃れ続けたものだな。一体全体、お前は誰で、どうやって公安の目を逃れ続けた?」
県会議員選の応援演説にやって来た副総理を狙った爆弾テロが起きた翌日、俺は留置所に御案内された。
「俺が、どこの誰か知らないのに、逮捕したのか? 気は確かか?」
「お前がSNSにやった書き込みには……ここ数年のテロ犯達によるSNSへの書き込みと良く似たパターンが見られた上に、監視カメラの映像から、事件が起きた時にお前が現場近くに居た事は判っている」
「おい、自分の目で、そのSNSの書き込みや監視カメラの映像を確認したのか?」
「AIの分析だ。確認するのは検察官の役目だが……お前らサヨクどもも良く御存知の通り、我々公安は送検や刑事裁判での勝訴が目的じゃない。お前がロクデモない目に遭って、他のサヨクどもへの見せしめにさえ成れば、それで次のテロは防げるだろう」
「残念だったな。俺がどんな目に遭っても……サヨクどもへの見せしめには成らんぞ」
「何を言ってる?」
「だから、すぐに俺が、どこの誰かを確認しろ」
「はあ? どこぞの糞サヨクだろ?」
「あの……先輩……この被疑者どっかで見覚えが……」
その時、取調べを行なっていた警官の内、若い方がそう言い出した。
「えっ?」
「悪いが、超頭がいいAI様が判断をお間違えあそばしたたせいで逮捕されたのは2回目だ。その若いのとは、そん時に顔を合せた覚えが有る」
「はあ? 冤罪だとでも言うつもりか? 馬鹿か、お前は? 極端な話、冤罪だろうが何だろうが、お前をサヨクどもへの見せしめに使えれば、それでいいんだよ」
「あのな……まだ、判らんのか? 公安に俺の情報が無いのは……俺が公安にとっては『監視対象にする』という発想さえ浮かばんような人間だからだ」
「何を言ってる? 自分が天皇陛下だとでも言うつもりか? 精神鑑定で無罪を狙おうとしても……」
「そして、事件の現場の近くの監視カメラに俺が映っていたのも……俺が、あそこに居ても誰も何も不思議だとは思わない男だからだ」
「だから、何の事だ? お前は一体全体、自分をどこの誰だと言いたいんだ?」
「与党の県連の会長だ」
「だから、どうなってるんだ? テロの容疑者として誤認逮捕された人達のSNSへの書き込みを見たら、明らかな与党支持者ばかりだった。何故、AIは与党支持者を政府・与党関係者へのテロの容疑者だと誤判断したんだ?」
首相はテロ対策AIを作った学者を、そう問い詰めた。
「ええっと……何と申しますか……理想論としてはAIにはテロを起した者の情報のみならず、テロを起さなかった者の情報も学習させるべきでしたが……そっちの方に技術的問題が有りまして……」
「はあ? おい……まさか、与党支持者が与党の政治家を狙ったテロを起こしてるとでも……」
「ええっと……ああ、喩え話で説明させていただきます。秘書官、今使われているPCで、ちょっとした計算をしていただきたいのですが……」
「はぁ、何でしょうか?」
「マスクをしていれば、ある程度は防げる病気が流行しているとします。外を出歩く時にマスクをちゃんと付けている人は全人口の95%で、問題の伝染病に罹患しているのは、その条件に当て嵌る人の場合は一万人に1人、残り5%は、外を出歩く時にマスクをちゃんと付けておらず、その条件に当て嵌る人は百人に1人の割合で問題の病気に罹患しているとします。では、全罹患者の内、外を出歩く時にマスクをちゃんと付けていた人と、そうでない人の割合はどうなりますか?」
「まぁ、そりゃあ……一応、計算してみ……あれ? 計算間違ったかな?」
「どんな結果が出ました?」
「い……いや……マスクをしている人が罹患する確率はそうでない人の百分の一なのに、罹患者の約16%がちゃんとマスクをしていたって変な結果が……」
「それと同じ事です。テロが多発するような社会になってしまった以上、与党支持者の1人1人が、例え、そうでない人よりもテロを起こす確率が低くても……与党支持者の人が圧倒的多数であれば……結果的にテロ犯の内、無視出来ない数か下手をしたら過半数が与党支持者という事を起こり得ます」
「お……おい……待て。テロは病気じゃない。やるもやらないも、それぞれの人間の意志や判断の結果の筈だ。だから、テロをやった奴らを法律で裁けるんだ。テロが起きるのは、健康に気を付けても病気になる可能性が0じゃなくならないようなモノなら……テロ犯を裁き罰する事に何の意味が有る? 犯罪を犯すかどうかについて各自の判断や自由意志が一般に思われてるほどには重要な要素じゃないなんて事が真実だとしたら、刑法が……更には社会秩序が崩壊しかねんぞ」
「あの……総理……私は人工知能の研究者として……時々、思うんですよ……。人間の脳の研究が進めば進むほど……人間の行動の中で『自己責任』だと言い切れるものはどんどん減ってくんじゃないか。テロを誘発し易い社会になってしまったが最後、その人がどんな政党や政策を支持していようが、国民1人1人がテロを起す確率はどんどん上がっていくんじゃないか、って……」
この5年ほど、閣僚・与党幹部・それらの経験者を狙ったテロが、年に4~5回の頻度で起こり、そして、その内の5人に1人は重症を負うか死亡する羽目になった。
もちろん、その対策としてテロが起きた際に犯人の可能性が高い者を割り出すAIが作られたのだが……。
「お前の情報は公安に全く無い。よく、我々の目を逃れ続けたものだな。一体全体、お前は誰で、どうやって公安の目を逃れ続けた?」
県会議員選の応援演説にやって来た副総理を狙った爆弾テロが起きた翌日、俺は留置所に御案内された。
「俺が、どこの誰か知らないのに、逮捕したのか? 気は確かか?」
「お前がSNSにやった書き込みには……ここ数年のテロ犯達によるSNSへの書き込みと良く似たパターンが見られた上に、監視カメラの映像から、事件が起きた時にお前が現場近くに居た事は判っている」
「おい、自分の目で、そのSNSの書き込みや監視カメラの映像を確認したのか?」
「AIの分析だ。確認するのは検察官の役目だが……お前らサヨクどもも良く御存知の通り、我々公安は送検や刑事裁判での勝訴が目的じゃない。お前がロクデモない目に遭って、他のサヨクどもへの見せしめにさえ成れば、それで次のテロは防げるだろう」
「残念だったな。俺がどんな目に遭っても……サヨクどもへの見せしめには成らんぞ」
「何を言ってる?」
「だから、すぐに俺が、どこの誰かを確認しろ」
「はあ? どこぞの糞サヨクだろ?」
「あの……先輩……この被疑者どっかで見覚えが……」
その時、取調べを行なっていた警官の内、若い方がそう言い出した。
「えっ?」
「悪いが、超頭がいいAI様が判断をお間違えあそばしたたせいで逮捕されたのは2回目だ。その若いのとは、そん時に顔を合せた覚えが有る」
「はあ? 冤罪だとでも言うつもりか? 馬鹿か、お前は? 極端な話、冤罪だろうが何だろうが、お前をサヨクどもへの見せしめに使えれば、それでいいんだよ」
「あのな……まだ、判らんのか? 公安に俺の情報が無いのは……俺が公安にとっては『監視対象にする』という発想さえ浮かばんような人間だからだ」
「何を言ってる? 自分が天皇陛下だとでも言うつもりか? 精神鑑定で無罪を狙おうとしても……」
「そして、事件の現場の近くの監視カメラに俺が映っていたのも……俺が、あそこに居ても誰も何も不思議だとは思わない男だからだ」
「だから、何の事だ? お前は一体全体、自分をどこの誰だと言いたいんだ?」
「与党の県連の会長だ」
「だから、どうなってるんだ? テロの容疑者として誤認逮捕された人達のSNSへの書き込みを見たら、明らかな与党支持者ばかりだった。何故、AIは与党支持者を政府・与党関係者へのテロの容疑者だと誤判断したんだ?」
首相はテロ対策AIを作った学者を、そう問い詰めた。
「ええっと……何と申しますか……理想論としてはAIにはテロを起した者の情報のみならず、テロを起さなかった者の情報も学習させるべきでしたが……そっちの方に技術的問題が有りまして……」
「はあ? おい……まさか、与党支持者が与党の政治家を狙ったテロを起こしてるとでも……」
「ええっと……ああ、喩え話で説明させていただきます。秘書官、今使われているPCで、ちょっとした計算をしていただきたいのですが……」
「はぁ、何でしょうか?」
「マスクをしていれば、ある程度は防げる病気が流行しているとします。外を出歩く時にマスクをちゃんと付けている人は全人口の95%で、問題の伝染病に罹患しているのは、その条件に当て嵌る人の場合は一万人に1人、残り5%は、外を出歩く時にマスクをちゃんと付けておらず、その条件に当て嵌る人は百人に1人の割合で問題の病気に罹患しているとします。では、全罹患者の内、外を出歩く時にマスクをちゃんと付けていた人と、そうでない人の割合はどうなりますか?」
「まぁ、そりゃあ……一応、計算してみ……あれ? 計算間違ったかな?」
「どんな結果が出ました?」
「い……いや……マスクをしている人が罹患する確率はそうでない人の百分の一なのに、罹患者の約16%がちゃんとマスクをしていたって変な結果が……」
「それと同じ事です。テロが多発するような社会になってしまった以上、与党支持者の1人1人が、例え、そうでない人よりもテロを起こす確率が低くても……与党支持者の人が圧倒的多数であれば……結果的にテロ犯の内、無視出来ない数か下手をしたら過半数が与党支持者という事を起こり得ます」
「お……おい……待て。テロは病気じゃない。やるもやらないも、それぞれの人間の意志や判断の結果の筈だ。だから、テロをやった奴らを法律で裁けるんだ。テロが起きるのは、健康に気を付けても病気になる可能性が0じゃなくならないようなモノなら……テロ犯を裁き罰する事に何の意味が有る? 犯罪を犯すかどうかについて各自の判断や自由意志が一般に思われてるほどには重要な要素じゃないなんて事が真実だとしたら、刑法が……更には社会秩序が崩壊しかねんぞ」
「あの……総理……私は人工知能の研究者として……時々、思うんですよ……。人間の脳の研究が進めば進むほど……人間の行動の中で『自己責任』だと言い切れるものはどんどん減ってくんじゃないか。テロを誘発し易い社会になってしまったが最後、その人がどんな政党や政策を支持していようが、国民1人1人がテロを起す確率はどんどん上がっていくんじゃないか、って……」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる