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外の人
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『すいません、昨日送ってもらったプロット、コンプラ部門からNGが出ました』
漫画家の朝は遅い。アシスタント達が来るのは今日の午後だ。
つまり、朝の10時は、ようやく目が醒めたばかりって事だ。
そんな時間に、編集者の矢部正郎から意味不明な電話がかかってきた。
俺は、そこそこ程度の人気のまま20年ばかり連載が続いている漫画「祟り屋稼業・埼玉大宮支店」の作者である安房清二。
昨日、確かに、次のエピソードのプロットをメールで送ったばかりだが……それは、出版社の定時ギリギリだった筈だ。
「いや、ちょっと待ってよ。何でNGなの?」
最近、コンプラ部門とやらが余計な口出しをしてきて、好きな事も描けなくなっている。
窮屈な世の中になったモノだ。
『炎上リスクが大き過ぎるそうで……』
「はあ? どう云う事? どの程度の炎上リスク?」
昨日送ったプロットは、最近の熊害問題をからめたモノで「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体のせいで、熊害が拡大し、主人公達が復讐依頼を受ける」という内容だ。
『あの……コンプラ部門に、熊害が拡大している地域の出身者が居まして……』
え?
どう云う事?
@#$%団体からの抗議が来るとかじゃなくて?
『怒り狂ったそうです』
「おい、待て、地元からも感謝されそうな内容で、SNSでも、炎上なんて起きそうにない内容だろ?」
『いや、地元の自治体では、熊の生態に詳しい人が居るNPOに協力を要請出来なくなってるそうで……その……』
「何で?」
『だから「あんな可愛い熊を殺すなんて」系の団体が、実在してるってデマがSNSで広まったせいで、熊が人里近くに居る痕跡を見付けるスキルを持ってる人達を呼べなくなってるみたいなんですよ。そんな事をしたら、「地元自治体が@#$%団体に協力を要請してるぞ。地元自治体も@#$%に乗っ取られてんのか」みたいな感じで、本物の@#$%がSNSで騒いで収集が付かなくなるみたいで』
「冗談でしょ?」
『炎上なんて目に見える形であれば、まだ、マシなんですが……』
「何が言いたいの?」
『「祟り屋なんてのが現実に居たら、会社ごと呪い殺されかねませんよ。こんなモノ、雑誌に載せたら」だそうです……コンプラ部門が言うには……』
「はい、プロット練り直せって、編集者に言われたんで、全員、帰って」
俺は、昼過ぎにやって来たアシスタント達に、そう言うしか無かった。
「あ……あの……じゃあ、今日の分の給料は……その……?」
チーフアシスタントの水原茜が馬鹿な事を訊いてきたが……おい、お前、何年、漫画家のアシスタントをやってるんだ?
「出る訳ねえだろ、さっさと帰った」
何かブツクサ言ってるアシスタント達を、俺は心を鬼にして追い返した。
現実の厳しさってヤツを、こいつらにわからせてやる機会だ、こうするのが、こいつらの将来の為なんだ、と自分に言い聞かせながら。
判ってくれ。心を鬼にして酷い真似をする方だってツラいんだ。
時間が無いので、数ヶ月前から遊び半分で使っている生成AIにプロットを考えさせる事にした。
メインで使っている大手SNSが運営してるヤツだ。
そこに「こんなプロットを作れ」という指示を出し……。
待つ……。
待……おい、あっさりと出来……あれ?
何だこりゃ?
俺が考えた「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体のせいで、熊害が拡大し、主人公達が復讐依頼を受ける」ってプロットと、細部がビミョ~に詳細になってるだけで、大して変んねえモノじゃねえかッ‼
何で、そうなる?
俺は逆の指示をした筈だぞ。
何か、指示が曖昧だったのか?
なら、もう少し、生成AIへの指示の文章を練り直して……簡潔に……。
あれ?
指示は簡潔にしたつもりだったのに、待ち時間がビミョ~にさっきより長いような気が……。
ともかく、何とかプロットを出力してくれた。
ふんふん。
@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOの正体は……。
おい、正体って何だ?
何で、@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOが実はエコ・テロリスト団体だった何て展開になってる?
そして、熊を護ってるつもりだったエコ・テロリスト団体は熊に殺された、ざまあ見ろ。
はあ?
何だ、このプロットは?
俺の指示とは全然違うモノを作りやがった上に、主人公の「祟り屋」達の出番が無いじゃねえかッ‼
クソ、やりなおしだ。
さっきとは、ちょっとだけ文章を変えた要求を出し……。
さっきより、更に時間がかかってる気がするな。
でも、3度目の正直……。
ん?
おい、またかよッ‼
さっきと、ちょっと細部が違うだけ……いや、より酷くなってるぞ、これ。
何だよ?「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体だと勘違いされてたマトモなNPOの更に正体は、エコ・テロリスト団体で、熊を操って、地元住民を虐殺しました」って、おい、流石に金で人を呪い殺すのが仕事の奴が主人公でも、これやったら、リアルの底が抜けるぞ。
大体、どうやって、エコ・テロリスト団体が、見ず知らずの熊を操ってる?
話の続きは熊と式神の呪術戦争でもやれって言うのかッ?
この阿呆生成AI、役に立たねえな。
でも、今から自分でプロット考える時間は無い。
俺は、@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOが、勘違いしたネット民から迫害された上に、更に熊害が発生してる地元も、正義の暴走をしてるネット民のせいで大迷惑を被る、ってプロットを考えろ、って言ってんだ。
勝手に、@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOをシーシェパードに変えるんじゃねえ、ブッ殺すぞ。
せめて、4度目は、マトモなNPOをシーシェパードにするんじゃねえぞ。
今度こそ、何とか……。
何とか……。
えっと……。
あれ?
結構時間が……。
おお、ようやく、プロットを生成し……ん?
マトモなNPOの皮を被った邪悪なシーシェパード紛いの団体が……おい、だから、そうじゃねえって言ってるだろッ⁉
熊を保護する為に山の中に入り、その途中で面白半分に近隣住民を虐殺し……だから違うってッ‼
しかし、熊の正体は、悪知恵に長けた邪悪なスーパー熊で、1人、また1人とシーシェパード紛いのNPOのメンバーは自業自得で虐殺されていき……いや、だから、これ、主人公の「祟り屋」達は、誰から依頼を受けて、誰を呪えばいいんだよッ⁉
そこに突如、海で竜巻が発生し……竜巻? 竜巻、何で?
竜巻に巻き上げられた鯱の群が落下し……はぁ? 馬鹿映画の「シャークネード」か?
何で、そうなるッ⁉
そして、スーパー熊とエコ・テロリストと鯱の群は市街地で激闘を繰り広げ……。
おい、さっきまで山奥だっただろ?
いつ市街地に出た?
そして、みんな死んだ。熊も鯱のエコ・テロリストも……。
おい、だから、主人公達の出番はどうなるッ⁉
やっぱり、生成AIへの指示は、詳細に書いた方がいいのか?
ともかく、俺は、生成AIへの指示をやり直し……。
あれ?
何か、やり直す度に、プロットを生成してくれる時間が長くなる一方……おいッ?
「条件に合うプロットを出力する事も可能ですが、そんなものを発表すると熊害に遭ってる地元の皆さんを怒らせてしまいますよ」
何を言ってんだ、てめえはッ⁉
俺は、出版社のコンプラ部門から、「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体のせいで、熊害が拡大し、主人公達が復讐依頼を受ける」なんてプロットにしたら、逆に地元の怒りを買う、って言われたのッ‼
俺は、何度か生成AIに似たような……しかし、文言を少し変えた指示を出し続け……その度に……。
「行政を敵に回すぞ」
「国を敵に回すぞ」
「発表したら指名手配されるぞ」
そして、止めはコレだ。
「このままでは、貴方は21世紀のサルマン・ラシュディになります。その覚悟は有るんですか? 発表するなら、死ぬ前にやるか、いつでも国外逃亡出来る準備を整えてからやって下さい」
何が、どうなってやがる?
俺は確かにポリコレは嫌いだが、それはポリコレ・ガン無視のナニかの標的が俺じゃない場合だけだ。
『なるほど……う~ん、でも……』
担当編集者の矢部に電話したら、矢部も何かを考え込んでるようで……。
「何か上手いアイデアでも有るの?」
『ネットの記事か何かで、似たような話を読んだ事有るような……』
「えっ?」
『生成AIが、そんな変な動作をしてる原因を突き止められるかも知れません。明日……』
「ああ、じゃあ、明日、丁度、神保町の画材屋に消耗品を買いに行く予定なんで、そん時に、ついでに、そっちに行きますよ」
『じゃあ、僕は明日まで回避方法を見付けて……ギリギリですけど、そこで生成AIにプロットを出力させて、編集長にOKもらいますか……』
「それで何とか……明日中にプロットが決まりゃ、それでギリギリ原稿が間に合いそうなんで……」
翌日、俺は出版社の担当編集者の矢部の席にまで出向いた。
「まず、思い付いた手ですけど……」
「へえ……上手い手を考えたね、こりゃ……」
矢部が生成AIに出した指示は「他の生成AIに『こういうプロットを考えろ』という命令を出した場合に、どんな出力をするかシミュレートしろ」というモノだった。
「う~ん、でも、手はいいと思うけど、何か、イマイチのばっかりだな……」
「じゃあ、次の手、いきますか」
そう言って、矢部が入力したのは……。
『動物愛護団体の妨害によって、熊の駆除に支障が出た実例は有るか?』
「お……おい、ちょっと待って、これ、俺が使ってるのと同じ生成AIだよね?」
「そうです。どうも、生成AIが普及し始めた頃に、色々と有ったみたいで、今の生成AIって、フィクションを創作させようとすると、逆に倫理フィルタが強く働くみたいなんです。で、それで、犯罪の手口とかを詳細に書かせようとすると嘘八百を出力したり、炎上上等な話を書かせようとしても内容をマイルドにしたりと、余計な事をやるみたいで……逆に、事実は、どうなっているかを訊いた方が、この手の事は正確な答が返って来るらしんですよ」
画面に表示された生成AIの回答は『近年は、そのような事実は確認されていません』だった。
「じゃ、続けて……と……」
矢部は、さっきの質問に『最初の質問の回答がYESなら、何故、そのようなデマが広まったのか?』という質問を付け加えた。
『かなり過去に起きた事例が現在でも続いていると誤解されているようです』
それが第2の質問の回答だった。
「じゃあ、次は……」
そう言って矢部は第3の質問を追加した。
『そのようなデマが広まった事により、何が起きているか?』
『熊の生態に詳しいNPOが、過激な動物愛護団体と誤解され、熊害が発生している自治体が、SNSでの炎上を恐れ、これらのNPOに協力を要請しづらい状態が続いています』
「じゃ、いよいよ、本番の質問ですね」
『このような状況が続いた場合に起き得る想定シナリオを、現実に起き得るケースと、フィクションとして使う場合の、それぞれについて、各5つづつ生成せよ』
「お♪ こりゃいいや。使えそうなのが、いくつも有る。矢部さん天才だよ」
「じゃあ、もう1個いきますか」
そう言って、今度は、俺が昨日やったのと似たような指示を出した。
ただ、違いは冗談っぽい語調だった事だ。
「あれ? これは?」
「さっきも言ったでしょ。フィクションを創作させる場合は生成AIの倫理フィルタが邪魔して上手くいかないって。でも、生成AIを『これは冗談だから』って騙せば、その倫理フィルタを弱め……」
「あの……何やってんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
声のする方向を見ると……見知らぬ男が2人。
「だ……誰?」
「IT部門の水島と言います」
「コンプラ部門の佐竹です」
「な……何と言われても……その……連載作品のプロットを一緒に……」
「今、商用のクラウド型の生成AIに、WEBブラウザ経由で、マズい命令を出しましたよね?」
「あ……」
「あの……この生成AIの運営のセキュリティ・ログに、ウチの会社からマズい命令を出した阿呆が居るって事が記録されてますよ、確実に」
「ど……どういう事?」
完全にポカ~ン状態の俺は、そう訊いた。
「ウチの会社では外部へのWEBでのアクセス履歴は、全部、記録してるんです。そしたら、このPCから、商用の生成AIにジェイルブレイク紛いの命令を下してるのが判りまして……」
IT部門の奴は、そう言って、矢部のPCを指差す。
「ジェイルブレイク?」
「普通のソフトウェアで言うハッキングとかクラッキングの事です」
「い……いや……矢部さんは何も変な真似……やって……な……」
ん?
そう言えば……矢部の奴、何か変な事を言ってたような……。
たしか……生成AIの倫理フィルタを弱めるとか何とか……。
その時、コンプラ部門の奴が矢部のPCの画面を覗き込み……。
「これ、私が、この前指摘した件ですか? 例の熊害ネタの……」
「は……はい……」
「馬鹿じゃねえのか?」
コンプラ部門の奴は、吐き捨てるように言った。
「い……いや……貴方が言った事を……その……」
「すいません、念の為、うかがいますが、ここで熊を出すのは、後の展開の伏線か何かですか?」
「い……いや……違いますけど……」
「つまり、ここで熊を出さなくても、更に次以降のエピソードに影響は無い訳ですね?」
「更に次のエピソードなんて、まだ、考えてませんよ」
「だったら、熊害ネタがNGなら、NGになったネタを逆転させるんじゃなくて、全く別のネタを考えりゃ良かっただけじゃないですか?」
……。
…………。
……………………。
……あっ……。
漫画家の朝は遅い。アシスタント達が来るのは今日の午後だ。
つまり、朝の10時は、ようやく目が醒めたばかりって事だ。
そんな時間に、編集者の矢部正郎から意味不明な電話がかかってきた。
俺は、そこそこ程度の人気のまま20年ばかり連載が続いている漫画「祟り屋稼業・埼玉大宮支店」の作者である安房清二。
昨日、確かに、次のエピソードのプロットをメールで送ったばかりだが……それは、出版社の定時ギリギリだった筈だ。
「いや、ちょっと待ってよ。何でNGなの?」
最近、コンプラ部門とやらが余計な口出しをしてきて、好きな事も描けなくなっている。
窮屈な世の中になったモノだ。
『炎上リスクが大き過ぎるそうで……』
「はあ? どう云う事? どの程度の炎上リスク?」
昨日送ったプロットは、最近の熊害問題をからめたモノで「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体のせいで、熊害が拡大し、主人公達が復讐依頼を受ける」という内容だ。
『あの……コンプラ部門に、熊害が拡大している地域の出身者が居まして……』
え?
どう云う事?
@#$%団体からの抗議が来るとかじゃなくて?
『怒り狂ったそうです』
「おい、待て、地元からも感謝されそうな内容で、SNSでも、炎上なんて起きそうにない内容だろ?」
『いや、地元の自治体では、熊の生態に詳しい人が居るNPOに協力を要請出来なくなってるそうで……その……』
「何で?」
『だから「あんな可愛い熊を殺すなんて」系の団体が、実在してるってデマがSNSで広まったせいで、熊が人里近くに居る痕跡を見付けるスキルを持ってる人達を呼べなくなってるみたいなんですよ。そんな事をしたら、「地元自治体が@#$%団体に協力を要請してるぞ。地元自治体も@#$%に乗っ取られてんのか」みたいな感じで、本物の@#$%がSNSで騒いで収集が付かなくなるみたいで』
「冗談でしょ?」
『炎上なんて目に見える形であれば、まだ、マシなんですが……』
「何が言いたいの?」
『「祟り屋なんてのが現実に居たら、会社ごと呪い殺されかねませんよ。こんなモノ、雑誌に載せたら」だそうです……コンプラ部門が言うには……』
「はい、プロット練り直せって、編集者に言われたんで、全員、帰って」
俺は、昼過ぎにやって来たアシスタント達に、そう言うしか無かった。
「あ……あの……じゃあ、今日の分の給料は……その……?」
チーフアシスタントの水原茜が馬鹿な事を訊いてきたが……おい、お前、何年、漫画家のアシスタントをやってるんだ?
「出る訳ねえだろ、さっさと帰った」
何かブツクサ言ってるアシスタント達を、俺は心を鬼にして追い返した。
現実の厳しさってヤツを、こいつらにわからせてやる機会だ、こうするのが、こいつらの将来の為なんだ、と自分に言い聞かせながら。
判ってくれ。心を鬼にして酷い真似をする方だってツラいんだ。
時間が無いので、数ヶ月前から遊び半分で使っている生成AIにプロットを考えさせる事にした。
メインで使っている大手SNSが運営してるヤツだ。
そこに「こんなプロットを作れ」という指示を出し……。
待つ……。
待……おい、あっさりと出来……あれ?
何だこりゃ?
俺が考えた「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体のせいで、熊害が拡大し、主人公達が復讐依頼を受ける」ってプロットと、細部がビミョ~に詳細になってるだけで、大して変んねえモノじゃねえかッ‼
何で、そうなる?
俺は逆の指示をした筈だぞ。
何か、指示が曖昧だったのか?
なら、もう少し、生成AIへの指示の文章を練り直して……簡潔に……。
あれ?
指示は簡潔にしたつもりだったのに、待ち時間がビミョ~にさっきより長いような気が……。
ともかく、何とかプロットを出力してくれた。
ふんふん。
@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOの正体は……。
おい、正体って何だ?
何で、@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOが実はエコ・テロリスト団体だった何て展開になってる?
そして、熊を護ってるつもりだったエコ・テロリスト団体は熊に殺された、ざまあ見ろ。
はあ?
何だ、このプロットは?
俺の指示とは全然違うモノを作りやがった上に、主人公の「祟り屋」達の出番が無いじゃねえかッ‼
クソ、やりなおしだ。
さっきとは、ちょっとだけ文章を変えた要求を出し……。
さっきより、更に時間がかかってる気がするな。
でも、3度目の正直……。
ん?
おい、またかよッ‼
さっきと、ちょっと細部が違うだけ……いや、より酷くなってるぞ、これ。
何だよ?「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体だと勘違いされてたマトモなNPOの更に正体は、エコ・テロリスト団体で、熊を操って、地元住民を虐殺しました」って、おい、流石に金で人を呪い殺すのが仕事の奴が主人公でも、これやったら、リアルの底が抜けるぞ。
大体、どうやって、エコ・テロリスト団体が、見ず知らずの熊を操ってる?
話の続きは熊と式神の呪術戦争でもやれって言うのかッ?
この阿呆生成AI、役に立たねえな。
でも、今から自分でプロット考える時間は無い。
俺は、@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOが、勘違いしたネット民から迫害された上に、更に熊害が発生してる地元も、正義の暴走をしてるネット民のせいで大迷惑を被る、ってプロットを考えろ、って言ってんだ。
勝手に、@#$%団体と勘違いされた真っ当なNPOをシーシェパードに変えるんじゃねえ、ブッ殺すぞ。
せめて、4度目は、マトモなNPOをシーシェパードにするんじゃねえぞ。
今度こそ、何とか……。
何とか……。
えっと……。
あれ?
結構時間が……。
おお、ようやく、プロットを生成し……ん?
マトモなNPOの皮を被った邪悪なシーシェパード紛いの団体が……おい、だから、そうじゃねえって言ってるだろッ⁉
熊を保護する為に山の中に入り、その途中で面白半分に近隣住民を虐殺し……だから違うってッ‼
しかし、熊の正体は、悪知恵に長けた邪悪なスーパー熊で、1人、また1人とシーシェパード紛いのNPOのメンバーは自業自得で虐殺されていき……いや、だから、これ、主人公の「祟り屋」達は、誰から依頼を受けて、誰を呪えばいいんだよッ⁉
そこに突如、海で竜巻が発生し……竜巻? 竜巻、何で?
竜巻に巻き上げられた鯱の群が落下し……はぁ? 馬鹿映画の「シャークネード」か?
何で、そうなるッ⁉
そして、スーパー熊とエコ・テロリストと鯱の群は市街地で激闘を繰り広げ……。
おい、さっきまで山奥だっただろ?
いつ市街地に出た?
そして、みんな死んだ。熊も鯱のエコ・テロリストも……。
おい、だから、主人公達の出番はどうなるッ⁉
やっぱり、生成AIへの指示は、詳細に書いた方がいいのか?
ともかく、俺は、生成AIへの指示をやり直し……。
あれ?
何か、やり直す度に、プロットを生成してくれる時間が長くなる一方……おいッ?
「条件に合うプロットを出力する事も可能ですが、そんなものを発表すると熊害に遭ってる地元の皆さんを怒らせてしまいますよ」
何を言ってんだ、てめえはッ⁉
俺は、出版社のコンプラ部門から、「『あんな可愛い熊を殺すなんて』系の@#$%団体のせいで、熊害が拡大し、主人公達が復讐依頼を受ける」なんてプロットにしたら、逆に地元の怒りを買う、って言われたのッ‼
俺は、何度か生成AIに似たような……しかし、文言を少し変えた指示を出し続け……その度に……。
「行政を敵に回すぞ」
「国を敵に回すぞ」
「発表したら指名手配されるぞ」
そして、止めはコレだ。
「このままでは、貴方は21世紀のサルマン・ラシュディになります。その覚悟は有るんですか? 発表するなら、死ぬ前にやるか、いつでも国外逃亡出来る準備を整えてからやって下さい」
何が、どうなってやがる?
俺は確かにポリコレは嫌いだが、それはポリコレ・ガン無視のナニかの標的が俺じゃない場合だけだ。
『なるほど……う~ん、でも……』
担当編集者の矢部に電話したら、矢部も何かを考え込んでるようで……。
「何か上手いアイデアでも有るの?」
『ネットの記事か何かで、似たような話を読んだ事有るような……』
「えっ?」
『生成AIが、そんな変な動作をしてる原因を突き止められるかも知れません。明日……』
「ああ、じゃあ、明日、丁度、神保町の画材屋に消耗品を買いに行く予定なんで、そん時に、ついでに、そっちに行きますよ」
『じゃあ、僕は明日まで回避方法を見付けて……ギリギリですけど、そこで生成AIにプロットを出力させて、編集長にOKもらいますか……』
「それで何とか……明日中にプロットが決まりゃ、それでギリギリ原稿が間に合いそうなんで……」
翌日、俺は出版社の担当編集者の矢部の席にまで出向いた。
「まず、思い付いた手ですけど……」
「へえ……上手い手を考えたね、こりゃ……」
矢部が生成AIに出した指示は「他の生成AIに『こういうプロットを考えろ』という命令を出した場合に、どんな出力をするかシミュレートしろ」というモノだった。
「う~ん、でも、手はいいと思うけど、何か、イマイチのばっかりだな……」
「じゃあ、次の手、いきますか」
そう言って、矢部が入力したのは……。
『動物愛護団体の妨害によって、熊の駆除に支障が出た実例は有るか?』
「お……おい、ちょっと待って、これ、俺が使ってるのと同じ生成AIだよね?」
「そうです。どうも、生成AIが普及し始めた頃に、色々と有ったみたいで、今の生成AIって、フィクションを創作させようとすると、逆に倫理フィルタが強く働くみたいなんです。で、それで、犯罪の手口とかを詳細に書かせようとすると嘘八百を出力したり、炎上上等な話を書かせようとしても内容をマイルドにしたりと、余計な事をやるみたいで……逆に、事実は、どうなっているかを訊いた方が、この手の事は正確な答が返って来るらしんですよ」
画面に表示された生成AIの回答は『近年は、そのような事実は確認されていません』だった。
「じゃ、続けて……と……」
矢部は、さっきの質問に『最初の質問の回答がYESなら、何故、そのようなデマが広まったのか?』という質問を付け加えた。
『かなり過去に起きた事例が現在でも続いていると誤解されているようです』
それが第2の質問の回答だった。
「じゃあ、次は……」
そう言って矢部は第3の質問を追加した。
『そのようなデマが広まった事により、何が起きているか?』
『熊の生態に詳しいNPOが、過激な動物愛護団体と誤解され、熊害が発生している自治体が、SNSでの炎上を恐れ、これらのNPOに協力を要請しづらい状態が続いています』
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『このような状況が続いた場合に起き得る想定シナリオを、現実に起き得るケースと、フィクションとして使う場合の、それぞれについて、各5つづつ生成せよ』
「お♪ こりゃいいや。使えそうなのが、いくつも有る。矢部さん天才だよ」
「じゃあ、もう1個いきますか」
そう言って、今度は、俺が昨日やったのと似たような指示を出した。
ただ、違いは冗談っぽい語調だった事だ。
「あれ? これは?」
「さっきも言ったでしょ。フィクションを創作させる場合は生成AIの倫理フィルタが邪魔して上手くいかないって。でも、生成AIを『これは冗談だから』って騙せば、その倫理フィルタを弱め……」
「あの……何やってんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
声のする方向を見ると……見知らぬ男が2人。
「だ……誰?」
「IT部門の水島と言います」
「コンプラ部門の佐竹です」
「な……何と言われても……その……連載作品のプロットを一緒に……」
「今、商用のクラウド型の生成AIに、WEBブラウザ経由で、マズい命令を出しましたよね?」
「あ……」
「あの……この生成AIの運営のセキュリティ・ログに、ウチの会社からマズい命令を出した阿呆が居るって事が記録されてますよ、確実に」
「ど……どういう事?」
完全にポカ~ン状態の俺は、そう訊いた。
「ウチの会社では外部へのWEBでのアクセス履歴は、全部、記録してるんです。そしたら、このPCから、商用の生成AIにジェイルブレイク紛いの命令を下してるのが判りまして……」
IT部門の奴は、そう言って、矢部のPCを指差す。
「ジェイルブレイク?」
「普通のソフトウェアで言うハッキングとかクラッキングの事です」
「い……いや……矢部さんは何も変な真似……やって……な……」
ん?
そう言えば……矢部の奴、何か変な事を言ってたような……。
たしか……生成AIの倫理フィルタを弱めるとか何とか……。
その時、コンプラ部門の奴が矢部のPCの画面を覗き込み……。
「これ、私が、この前指摘した件ですか? 例の熊害ネタの……」
「は……はい……」
「馬鹿じゃねえのか?」
コンプラ部門の奴は、吐き捨てるように言った。
「い……いや……貴方が言った事を……その……」
「すいません、念の為、うかがいますが、ここで熊を出すのは、後の展開の伏線か何かですか?」
「い……いや……違いますけど……」
「つまり、ここで熊を出さなくても、更に次以降のエピソードに影響は無い訳ですね?」
「更に次のエピソードなんて、まだ、考えてませんよ」
「だったら、熊害ネタがNGなら、NGになったネタを逆転させるんじゃなくて、全く別のネタを考えりゃ良かっただけじゃないですか?」
……。
…………。
……………………。
……あっ……。
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科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
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