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第一章:Rings of the World
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その日の前日……東京オリンピックの最中に起きた富士山の大噴火で、多くのオリンピック選手と、そして、改革反対派のIOCの役員のほどんどが、死亡または行方不明になったらしい。
僕達を生み出した人々にとっては……有り得ないまでに素晴らしい幸運だった。
まるで神か何かが、間違った考えを持った愚か者達に神罰を下したように感じたらしい。
中国の民主化や、朝鮮半島の統一、アメリカの分裂と再統合、そして日本の経済力の低下。
あっさりと滅んでしまった日本は……世界情勢の大きな変化によって、かつてほど重要な意味を持った国では無くなっていた。
「昨日の富士山の噴火によって、これから君達が英雄になれる時代が、より確実に来る事が決まったも同じだ」
朝礼で所長はそう言った。
その後に僕に降り掛った運命を考えれば悪い冗談にも程が有るが、けれど、「それ」が起きたその時まで……僕が、どんな異常な場所で生まれ育ったかなんて気付いていなかった。
いつか、僕達は外の世界で生きていく事になるとは言われていたが、肝心の「外の世界」がどんなモノか、知らなかったし、想像もしていなかった。
『愛の反対は憎しみではなく無関心』
外の世界に出てから知った言葉だ。
『人の心に有るモノの中で、最も邪悪な存在は、鈍感さと無神経さだ』
この日から約一〇年後、ある人物に言われた言葉だ。
まさに、それが、この日までの僕で……その後の僕の人生は、それに対する罰を受ける日々だったのかも知れない。
緊張はしていた。
しかし、この日の「検査」で不合格になるなど考えていなかった。
ともかく、僕達「ピュア・ブラッド・ヒューマン」と呼ばれる者達の第一世代に対して行なわれる検査の1つ……それが、その日に予定されていた事だ。
そして、昨日の東京壊滅なんて、まるで無かったかのように、淡々と当り前のように検査の準備は完了していた。
僕と、もう1人は、頭にヘッドギア……簡易型の脳波計を装着され、軽い練習をやる事になった。
僕が選手になる予定だった柔道の組み手だ。
最初から互いの着衣の一部や腕を握ろうとする目紛しい攻防。
あくまで軽い練習であって、目的は、僕達の脳波データを取る事の筈だった。
でも、いつの間にか、僕達は本気になっていた。
気付いた時には、僕は、大外刈りで一本を決めていた。
時計を見ると……柔道の試合としては、異常に短かい時間で勝負が付いていた。
僕は相手に手を差し延べ……いや、今にして思えば、それは「礼に始まり、礼に終る」なんて奴じゃなくて、単なる勝者の思い上がりだったかも知れない。
だが、その時、何か……異常な雰囲気に気付いた。
教官達や研究者達がざわついている。
「白、すぐに両手を前に出したまま、こちらを向いて」
「は……はい」
白……それは、僕が着ていた道着の色だった。
「そのまま動くな」
そう言いながら、教官の1人が近付いて来た。
「こんな馬鹿な話が有るか……。冗談じゃない」
教官は吐き捨てるように言った……。
そして……。
僕の手には強化プラスチック製の手錠がかけられた。
「お前には、ほんのわずかだが……『異能力』が有る可能性が出て来た。もし、その疑いが晴れなければ……お前はレギュレーション違反の不良品として……」
その後、教官が何と言ったか覚えていない。
たしかに、聞こえていた筈なのに、頭が真っ白になって……僕の脳は、教官の口から出た言葉を意味のない耳障りな雑音と判断した。
僕達を生み出した人々にとっては……有り得ないまでに素晴らしい幸運だった。
まるで神か何かが、間違った考えを持った愚か者達に神罰を下したように感じたらしい。
中国の民主化や、朝鮮半島の統一、アメリカの分裂と再統合、そして日本の経済力の低下。
あっさりと滅んでしまった日本は……世界情勢の大きな変化によって、かつてほど重要な意味を持った国では無くなっていた。
「昨日の富士山の噴火によって、これから君達が英雄になれる時代が、より確実に来る事が決まったも同じだ」
朝礼で所長はそう言った。
その後に僕に降り掛った運命を考えれば悪い冗談にも程が有るが、けれど、「それ」が起きたその時まで……僕が、どんな異常な場所で生まれ育ったかなんて気付いていなかった。
いつか、僕達は外の世界で生きていく事になるとは言われていたが、肝心の「外の世界」がどんなモノか、知らなかったし、想像もしていなかった。
『愛の反対は憎しみではなく無関心』
外の世界に出てから知った言葉だ。
『人の心に有るモノの中で、最も邪悪な存在は、鈍感さと無神経さだ』
この日から約一〇年後、ある人物に言われた言葉だ。
まさに、それが、この日までの僕で……その後の僕の人生は、それに対する罰を受ける日々だったのかも知れない。
緊張はしていた。
しかし、この日の「検査」で不合格になるなど考えていなかった。
ともかく、僕達「ピュア・ブラッド・ヒューマン」と呼ばれる者達の第一世代に対して行なわれる検査の1つ……それが、その日に予定されていた事だ。
そして、昨日の東京壊滅なんて、まるで無かったかのように、淡々と当り前のように検査の準備は完了していた。
僕と、もう1人は、頭にヘッドギア……簡易型の脳波計を装着され、軽い練習をやる事になった。
僕が選手になる予定だった柔道の組み手だ。
最初から互いの着衣の一部や腕を握ろうとする目紛しい攻防。
あくまで軽い練習であって、目的は、僕達の脳波データを取る事の筈だった。
でも、いつの間にか、僕達は本気になっていた。
気付いた時には、僕は、大外刈りで一本を決めていた。
時計を見ると……柔道の試合としては、異常に短かい時間で勝負が付いていた。
僕は相手に手を差し延べ……いや、今にして思えば、それは「礼に始まり、礼に終る」なんて奴じゃなくて、単なる勝者の思い上がりだったかも知れない。
だが、その時、何か……異常な雰囲気に気付いた。
教官達や研究者達がざわついている。
「白、すぐに両手を前に出したまま、こちらを向いて」
「は……はい」
白……それは、僕が着ていた道着の色だった。
「そのまま動くな」
そう言いながら、教官の1人が近付いて来た。
「こんな馬鹿な話が有るか……。冗談じゃない」
教官は吐き捨てるように言った……。
そして……。
僕の手には強化プラスチック製の手錠がかけられた。
「お前には、ほんのわずかだが……『異能力』が有る可能性が出て来た。もし、その疑いが晴れなければ……お前はレギュレーション違反の不良品として……」
その後、教官が何と言ったか覚えていない。
たしかに、聞こえていた筈なのに、頭が真っ白になって……僕の脳は、教官の口から出た言葉を意味のない耳障りな雑音と判断した。
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