1 / 1
悪夢の男の楽園
しおりを挟む
給料日直後の最初の休日だったので、いつも行ってるのより、少し高級な喫茶店で朝食を取る事にした。
店に入ると、朝の9時ごろなのに、何故かレジの前には行列。
店員さんに席まで案内してもらうタイプの店なので、店員さんの手が空くのを待つしか無い。
そんなに長い時間ではないが……体感時間は結構有るように感じた。
私の次に、1人の男性が店に入って来る。
私の父親と同じ位の年齢。
がっしりとした体格。
容姿も服装も、親類によく居る「野暮ったい田舎のおじさん」と云う感じだった。
やがて……。
「お待たせしました。席に御案内いたします」
先に店員に声をかけられたのは、後から来た初老の男性だった。
「あの……私が先に来てたんですが……」
えっ?
気のせいだよね?
ほんの一瞬だった。
初老の男性は「何、言ってんだこいつ」と云う顔になり……店員は凍り付き……他のお客さんの中にも、何故か、非難するような目で私を見る人も居て……。
「あ……申し訳ございません」
店員のその一言で、その場の空気は元に戻った……ように思えた。
案内されたのはカウンター席。
だが……。
横に座ったのは、さっきの初老の男性だった。
食べていた。
食べていた。
更に食べていた。
問題の初老の男性は、黙々と、しかし、とんでもない勢いで、3~4人前のパンやケーキを食べ続けていた。
口の回りにはパン屑が付き、胸元には、これまたパン屑がこぼれている。
私には感心が無いようだ。
しかし、私は、食欲が湧く筈も無かった。
多分、気のせいだろう。
レジに行くと、一瞬だけ店員は非難するような視線を、私が居た席の半分以上食べ残したモーニングセットに向けた……ような気がした。
「ありがとうございました。また、おこしくださいませ」
わざと棒読み口調にしているように感じられる声。
店を出ようとすると、悲鳴を上げそうになった。
私の背後には……あの初老の男性が居た。
何でなんだ?
喫茶店を出て入った本屋でも、あの初老の男性と出会った。
相変らず、私には感心が無いようだ。
私の横で雑誌を立ち読みしている。
だが、一体、どうなっている?
何で、初老の男性が、私ぐらいの年齢の女性向けのコスメ系の雑誌を立ち読みする必要が有るのだ?
やがて、初老の男性は何の本も手にしないままレジに向かい……。
初老の男性とレジの店員は何かを話している。
店員と初老の男性は、チラチラと私の方を見る。
心臓がバクバク鳴り始める。
よくよく考えれば、そんな真似をすべきでは無かっただろう。
何とかして気を落ち着けるのが先だっただろう。
しかし、私は、とにもかくにも、一刻も早く、この店を出ようとした。
だが、当然ながら……。
「あの……お客様……」
「えっ?」
「あくまで、形式的な確認ですので……申し訳ありませんが、御協力いただけますか?」
「はっ? はっ? はっ? はっ?」
「他のお客様が、お客様が万引きをされていたと……」
冗談じゃないが、当然だ。
挙動不審な人物が、あわてて店を出ようとする。
しかも、その人物について、他の客が「あいつ万引きしていたぞ」と告げられている。
当然ながら、何も出なかった。
しかし、店員は「お前が悪い」と云う目で私を見て……そして、私の方には、何かを言う気力など残っていなかった。
週明けの朝、出勤するついでにゴミを出そうとした。
そして、玄関のドアを開けると……アパートの隣の部屋の玄関も開いており……そこから出て来たのは……。
「あ……あ……あ……あ……」
「どうかしたのか?」
あの初老の男性だった。
待って、一体、何がどうなってる?
しばらくの間、深呼吸をする。
何とか心臓の鼓動も収まった。
私はゴミ置き場に向かい……あ……あの初老の男性が近所の人達と何かを話している。
そして、初老の男性は去ってゆき……えっ?
さっきまで、初老の男性と話していた近所の人達が私に近付き……。
「あのさ……そのゴミ袋の中身を確認させてもらえんかね?」
「えっ?」
「あんたさ……何回も、燃えるゴミの日にペットボトルをゴミ袋に入れて出してただろ」
「ああ、そうだ。覚えが無いとは言わせんぞ」
い……いや……ちょ……ちょっと待って……知らない……本当に覚えが無い……。
近所の人達によるゴミ確認の間に起きた事は思い出したくも無い。
男の人達……それも無神経極まりないおっさん達によって、たまたま使用済みの生理用品が入っていたゴミ袋の中身を微に入り細をウガァ~って調べられた、と言えば、どんな屈辱的な気持ちになったかは仮に男の人であっても想像が付くだろう。
次なる問題は……このままでは会社に遅刻する。
私は大通りに出ると、たまたま走っていたタクシーを拾い、最寄り駅まで到着、電車に飛び乗り……えっ?
何故か、すぐ近くに、あの初老の男性が居た。
男の人は、私の職場の最寄り駅で降りた。
幸か不幸か、電車の中では何もしなかった。
だが……。
ああ……もう会社の始業時間を過ぎている。
冗談じゃ……。
その時……誰かの腕が私の腕を掴んだ。
私は悲鳴を上げ……。
えっ?
「あの……お客様……他のお客様から、あなたから電車内で『痴漢をやった』と云う濡れ衣を着せられた、と云う苦情が有りまして……御同行願えますか?」
駅員と……そして……何で……何で……警官まで居るの?
冗談じゃない……ここは……現実……いや……そう言えば……何で……何で……。
何故か、周囲には男しか居ない。
何百人、何千人居るか判らない男達は……完全に取り乱している私を「これだから女は……」とでも言いだけな侮蔑の目で見ていた。
店に入ると、朝の9時ごろなのに、何故かレジの前には行列。
店員さんに席まで案内してもらうタイプの店なので、店員さんの手が空くのを待つしか無い。
そんなに長い時間ではないが……体感時間は結構有るように感じた。
私の次に、1人の男性が店に入って来る。
私の父親と同じ位の年齢。
がっしりとした体格。
容姿も服装も、親類によく居る「野暮ったい田舎のおじさん」と云う感じだった。
やがて……。
「お待たせしました。席に御案内いたします」
先に店員に声をかけられたのは、後から来た初老の男性だった。
「あの……私が先に来てたんですが……」
えっ?
気のせいだよね?
ほんの一瞬だった。
初老の男性は「何、言ってんだこいつ」と云う顔になり……店員は凍り付き……他のお客さんの中にも、何故か、非難するような目で私を見る人も居て……。
「あ……申し訳ございません」
店員のその一言で、その場の空気は元に戻った……ように思えた。
案内されたのはカウンター席。
だが……。
横に座ったのは、さっきの初老の男性だった。
食べていた。
食べていた。
更に食べていた。
問題の初老の男性は、黙々と、しかし、とんでもない勢いで、3~4人前のパンやケーキを食べ続けていた。
口の回りにはパン屑が付き、胸元には、これまたパン屑がこぼれている。
私には感心が無いようだ。
しかし、私は、食欲が湧く筈も無かった。
多分、気のせいだろう。
レジに行くと、一瞬だけ店員は非難するような視線を、私が居た席の半分以上食べ残したモーニングセットに向けた……ような気がした。
「ありがとうございました。また、おこしくださいませ」
わざと棒読み口調にしているように感じられる声。
店を出ようとすると、悲鳴を上げそうになった。
私の背後には……あの初老の男性が居た。
何でなんだ?
喫茶店を出て入った本屋でも、あの初老の男性と出会った。
相変らず、私には感心が無いようだ。
私の横で雑誌を立ち読みしている。
だが、一体、どうなっている?
何で、初老の男性が、私ぐらいの年齢の女性向けのコスメ系の雑誌を立ち読みする必要が有るのだ?
やがて、初老の男性は何の本も手にしないままレジに向かい……。
初老の男性とレジの店員は何かを話している。
店員と初老の男性は、チラチラと私の方を見る。
心臓がバクバク鳴り始める。
よくよく考えれば、そんな真似をすべきでは無かっただろう。
何とかして気を落ち着けるのが先だっただろう。
しかし、私は、とにもかくにも、一刻も早く、この店を出ようとした。
だが、当然ながら……。
「あの……お客様……」
「えっ?」
「あくまで、形式的な確認ですので……申し訳ありませんが、御協力いただけますか?」
「はっ? はっ? はっ? はっ?」
「他のお客様が、お客様が万引きをされていたと……」
冗談じゃないが、当然だ。
挙動不審な人物が、あわてて店を出ようとする。
しかも、その人物について、他の客が「あいつ万引きしていたぞ」と告げられている。
当然ながら、何も出なかった。
しかし、店員は「お前が悪い」と云う目で私を見て……そして、私の方には、何かを言う気力など残っていなかった。
週明けの朝、出勤するついでにゴミを出そうとした。
そして、玄関のドアを開けると……アパートの隣の部屋の玄関も開いており……そこから出て来たのは……。
「あ……あ……あ……あ……」
「どうかしたのか?」
あの初老の男性だった。
待って、一体、何がどうなってる?
しばらくの間、深呼吸をする。
何とか心臓の鼓動も収まった。
私はゴミ置き場に向かい……あ……あの初老の男性が近所の人達と何かを話している。
そして、初老の男性は去ってゆき……えっ?
さっきまで、初老の男性と話していた近所の人達が私に近付き……。
「あのさ……そのゴミ袋の中身を確認させてもらえんかね?」
「えっ?」
「あんたさ……何回も、燃えるゴミの日にペットボトルをゴミ袋に入れて出してただろ」
「ああ、そうだ。覚えが無いとは言わせんぞ」
い……いや……ちょ……ちょっと待って……知らない……本当に覚えが無い……。
近所の人達によるゴミ確認の間に起きた事は思い出したくも無い。
男の人達……それも無神経極まりないおっさん達によって、たまたま使用済みの生理用品が入っていたゴミ袋の中身を微に入り細をウガァ~って調べられた、と言えば、どんな屈辱的な気持ちになったかは仮に男の人であっても想像が付くだろう。
次なる問題は……このままでは会社に遅刻する。
私は大通りに出ると、たまたま走っていたタクシーを拾い、最寄り駅まで到着、電車に飛び乗り……えっ?
何故か、すぐ近くに、あの初老の男性が居た。
男の人は、私の職場の最寄り駅で降りた。
幸か不幸か、電車の中では何もしなかった。
だが……。
ああ……もう会社の始業時間を過ぎている。
冗談じゃ……。
その時……誰かの腕が私の腕を掴んだ。
私は悲鳴を上げ……。
えっ?
「あの……お客様……他のお客様から、あなたから電車内で『痴漢をやった』と云う濡れ衣を着せられた、と云う苦情が有りまして……御同行願えますか?」
駅員と……そして……何で……何で……警官まで居るの?
冗談じゃない……ここは……現実……いや……そう言えば……何で……何で……。
何故か、周囲には男しか居ない。
何百人、何千人居るか判らない男達は……完全に取り乱している私を「これだから女は……」とでも言いだけな侮蔑の目で見ていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる