政府主催100%運任せのデスゲーム

蓮實長治

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待てよ国民が人間である必要なんて……

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「キミねえ、仮にも理系の研究者が『抗ゾンビ化薬は危険だ』なんてトンデモ説を信じてしまうなんて、恥かしいと思わないのか?」
 私の上司である奇筑きちくおもね教授は不機嫌そうな顔でそう告げた。
「いや……ですけど……製造元が推奨しない打ち方はマズいでしょ」
「あのさ……今は、非常時だよ。平時なら、どれだけ政府批判をやってもかまわない。それは確かだ。でも、非常時に政府の指示に従わないと、君だけじゃなくて、君の周囲の人達も危険に晒す」
 待ってくれ……非常時が何年も続いてるのは……この国の社会そのものの欠陥と、それを放置したまま、場当たりな政策ばかりやっている政府のせいだ。
「さぁ、早く3回目の職場接種を受けてきたまえ」
「いや……ですが……製造元は一生の内に2回以上打つと、逆にゾンビ化の可能性が高まると……」
「だから、非常時だから仕方ない事だろ? さっさと打って来い」
 抗ゾンビ化薬の1回目の接種が始まった時……輸送や保管時のミスで効力を無くしていた抗ゾンビ化薬が有った事がニュースになっていた。
 野党やジャーナリスト達は、調査と根本対策を要求し続けてきたが……国民の九〇%に接種が終った頃、ようやく調査が始まり……その結果は……。
「接種された抗ゾンビ化薬の三〇%~六〇%が効力を失なっていたと見られるが……効力を失なったものを打たれたのが誰かの追跡は事実上不可能」
 そして……「ゾンビ化のリスクが逆に高まる人が一定数居るにも関わらず、再度、全国民への抗ゾンビ化薬接種」が行なわれ……。
 だが……また……同じ事が起きた。
 最早、「抗ゾンビ化薬の内、どれだけが効力を失なっているか?」「効果が有る抗ゾンビ化薬を打たれたのは誰か?」「逆に抗ゾンビ化薬の複数回打ちによりゾンビ化リスクが高まったのは誰か?」……理屈の上では調査は可能だが、その為に必要となる予算・人員・手間は膨大なモノとなり、政府は「非常事態である以上、巧遅よりも拙速を選ぶべき」と云う理由で、3回目の接種を行なう羽目になり……。
「仕方無い。この手しか無いようだな……」
 その言葉と共に2名の警備員が部屋に入って来て……。どうやら、教授は、私が拒否するのを見越して、あらかじめ警備員を呼んでいたらしい。
「ちょ……ちょっと待って下さい。もし、私が既に効力が切れてない抗ゾンビ化薬を打っていたら……」
「だから、その場合でも、ゾンビ化の確率が上がるだけで、一〇〇%ゾンビ化する訳じゃない。そして、ゾンビ化したとしても……彼らのように国の役に立つ事は出来る。君も、一応は科学者だろう? 非科学的な思考はやめたまえ」
 ……無能な政府と、下手に頭が良過ぎて自分と違う意見の者が馬鹿に思えてしまい、ついには「世の中には馬鹿しか居ない」と絶望した人は……時として同じ結論に到るのだろうか?
 ひょっとしたら、教授は……そして政府は、ゾンビ禍が始まるより前から、支配層を除く「国民」には知性も自由意志も無い方が良い……そう考えていたのでは無いか?
 脳内に制御チップを埋め込まれたゾンビの警備員に連行されながら、私の脳裏には、そんな疑問が浮かんでいた。
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