オリンピック聖火の災禍式

蓮實長治

文字の大きさ
1 / 1

オリンピック聖火の災禍式

しおりを挟む
「言い残す事が有れば聞いてやる……。例え、貴様が我が同胞のかたきだとしても……それ位の情けはかけてやっても良かろう」
 テロリスト達は、その相手に銃を向けながらそう言った。
「君達の国のブシドー精神と云うヤツかね……。馬鹿馬鹿しい」
「黙……ぐふっ?」
「おい……どうした?……ぐえッ?」
 IOCの元役員に銃を向けていたテロリスト達は……次々と床に膝を付き苦しみ出した。
「君達……私に少しは敬意を払いたまえ……」
「……ふ……ふざけ……」
「私は……あの疫病から世界を救った……さる偉大なる神の司祭なのだよ……。そうなったのは……偶然では有るのだがね……」

 あの疫病が流行が治まる気配は見せぬ頃……その儀式は行なわれた。
 関わった者達は、誰1人、宗教的要素など無い、形骸化した儀式だと思っていた……しかし……。
「偉大なる太陽の神アポロンよ。オリンピア競技祭の為に、聖火をともし給え」
 凹面鏡で集められた太陽光は、やがて、古代には存在しなかった物質であるフィルムを熱し……。
 「古代ギリシャ風」を装っているだけの単なる茶番の筈だった。
 だが、次の瞬間、巫女役の1人が口から泡を吹きながら倒れ伏した。

「一体、どうなっているんだ?」
 そのIOC役員は、WEB会議システムの画面に向かって、そう怒鳴った。
『○×△◇■?』
「おい、その女は……何と言ってるんだ?」
『古代ギリシャ語です』
「はぁ?」
『「お前がゼウスに捧げられし聖なる競技祭の紛物を企てた男か?」と聞いています』
「大体……その女は、何者だ?」
『そ……それが……この女性に取り憑いたモノは……「疫病の神アポロン」を名乗っています』

「だから……どう云う事なのだ?」
 IOCの役員は、数日前に起きた事態についての調査を命じた部下にそう尋ねた。
「ですから……古代ギリシャでも、アポロンが太陽神とされたのは、あとの方の時代で……本来は、アポロンは芸術・予言・疫病・医療の神だったのです……。今回のオリンピック聖火の採火式では、偶然にも、疫病の世界的流行の最中に……『疫病の神』の名を呼んでしまったのです……」
「しかし……それだけの事で、あんな事態になるなど……」
「そ……それが……そもそも、オリンピック聖火の採火式は……いつから行なわれたか御存知ですか?」
「昔から……おい、違うのか……?」
「一九三六年のベルリン・オリンピックです」
「待て……それは……ナチスの……」
「そうです……。当時の記録などを調べた所……採火式の手順の策定に関わっていたのは……ナチスお抱えのオカルティスト達でした……」
「はぁ?……一体全体、何が、どうなって……」
「ですから……近代オリンピックにおける聖火の採火式の正体は……信仰する者が絶えた古代の神々の力を利用する……魔術の儀式だった……らしいのですよ」

「なるほど……貴様の望みは……八十余年前に、我々の1人を呼び出したアドルフ・ヒトラーとか云う男に授けたような『力』か……」
 アポロンを名乗る存在が取り憑いた女性は、傲然とそう言った。
「い……いえ……この世界の人々を救う力です」
 IOCの役員は……へりくだって、そう答えた。この「アポロン」の機嫌を損ねて死んだ者は……たった数日で百人を超えていた。
「我々からすれば、似たようなモノだ。よかろう……我が力の一部を授けてやろう……。その中には……今、人間達を苦しめている疫病の流行を終らせる力も含まれる。条件は2つ……」

「私に、世界を救う力を与えてくれた『神』は生贄として……『紛物の祭』を行なおうとしている不埒な国の民の命を要求した……。だから……私達は、東京オリンピックを強行したのだよ……。君達の国で、あの疫病を更に蔓延させ、君達の国を滅ぼす為にね……」
「な……何を……言っている?」
「誇りに思いたまえ……君達の国と、君達の同胞は……世界を救う生贄に……」
 その時、テロリストの1人の持っていた銃が火を吹き……。
「ば……馬鹿な……偉大なるアポロンと司祭である私が……死ぬ……筈……など……待て……しまった……今日は……たしか……約束の……日……」

 東京オリンピックの聖火の採火式から、IOCの元役員の1人が「東京オリンピックにより、あの疫病が更に日本で蔓延した結果、日本が滅んだ」と信じるテロリストに暗殺されるまでの日数と、一九三六年のベルリン・オリンピックの聖火の採火式から、アドルフ・ヒトラーが死ぬまでの日数は偶然にも一致していたが、その事に気付く者は誰も居なかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...