正しい歴史

蓮實長治

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正しい歴史

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「先生……『にゅうかんのしゅうようしせつ』って何ですか?」
 生徒の1人がそう聞いてきた。
「そんな言葉、どこで知ったの?」
「図書館の端末を使ってたら、たまたま古いニュース動画を見付けて……」
 困った事だ。旧時代の邪悪なプロパガンダの抹消は、まだ終っていないらしい。
「昔……まだ、この国が邪悪な外国と国交が有った頃……そう先生が生まれる前ね……。他の国は世界一素晴しく豊かなこの国を妬んでいたのよ……」
 私も馬鹿ではない……薄々は知っている。
 しかし、子供への教育とは……子供をこの社会に適応させるのが目的だ。
 邪悪な社会なら、その邪悪の中で、正しい社会なら、その正しさの中で、子供が生きていけるようにしなければならない。
 自分の意見を言えない社会なら口を噤む大人に、そうでない社会なら、自分の意見を堂々と言える大人に育てる必要が有る。
 それが、教育者としての「誠実さ」だ。
「それで?」
「そして、他の国は、自分の国の『欠陥人間』達を、この国に送り込んで来たの……。でも、この国を治めている神様達は……欠陥人間どもであっても、殺すような無慈悲な真似はしなかった……。そして……『刑務所』や『入管の収容施設』と云うモノを作って……社会の役に立たない欠陥人間達を養ってあげたのよ」
「それ……変だよ……。欠陥人間になった方が良いって事じゃないの?」
「そんな事を考えては駄目よ。君も大きくなったら……この国を治めている神様達の言い付けを守れる正しい人間になりなさい。そうしないと……生きてる内は刑務所で養ってもらえるけど……死んだら地獄に堕ちてしまうのよ」
「は……はい……でも……天国も地獄も……誰も見た事が……」
 次の瞬間、私はその子の首を絞めた。
 教え子の1人や2人が「事故死」するより、神々政府の言う事に疑いを持つ……それどころか、その疑いを公言してしまう教え子が居る事の方が……私にとっては、遥かにリスクが高い。
 ましてや……私の一族には……もちろん会った事さえない曾祖父の姉、新時代の到来以前に死んだ人物だが……今では忌しき職業とされる「歴史学者」だった者が居たのだ。ただでさえ、神々政府の監視対象なのに、教え子が「欠陥人間」と化したら……どんな運命が待っているやら……。
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