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プロローグ
ドリフト/順流逆流
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『慈悲と忿怒は譬えば車輪の如し。一輪を闕く時、人を度するを得ず。荒神の君は、惟、如来の権身にして、仏法を保たんが為に仮に明神と称す』
『意荒ぶる時、三宝荒神となり、意寂まる時、本有の如来となる』
「仏説大荒神施与福徳円満陀羅尼経」より
『人間には目が二つある。二つの目で見る時はじめて物が立体的に見える。それと同じことで、精神的にも平常人の視覚は立体的なのだ。二つの違った物の姿が同時に見えていて、それだけ余計に物がよく見えるのだ。こうして彼は、運命というものがあると信じながら、同時に自由意志というものもあることを信じてきたのである』
G.K.チェスタトン「正統とは何か」より
「こちら、『アータヴァカ』および『ニルリティ』。現地に到着しました」
「名前は言わなくていい。仲間には誰の発言か判るようになってる」
相棒が、そう言った途端……轟音。
また、轟音。
続いて、更に轟音。
辺り一面……トマト・ソースを塗ったばかりのピザ生地だ。
「本日の天気は曇り、所によって、警官とチンピラが降ってきますと……」
「最近、ちょっと哲学的な疑問が有ってな……」
「何だ?」
相棒は意味不明な事を言いながら、ATVのトランクを開けて、中に入っていた偵察用の小型ドローンを起動させた。
空中用と地上用が各3台。
「警官とチンピラの違いって何だ?」
「お前、身内に警官が居なかったっけ?」
「仕事中にメンバーの個人情報を言うのはNGだ。そもそも、何が起きてる?」
あたしからすりゃ、何で気付かないか理解出来ないが……相棒は元から霊感が一般人の平均を更に下回ってる上に、こいつが着てる強化装甲服「護国軍鬼」には、魔法的・霊的な攻撃をほぼ一〇〇%防ぐ代りに、魔法的・霊的な存在を(物理的実体が有るモノに取り憑いてる場合は別にして)ほぼ認識出来なくなる副作用が有るらしい。
つまり、大規模な魔法災害や霊的災害が起きた場合は「自分だけは助かるが、魔法災害・霊的災害の原因を断つ手段は限られ、誰か他の人間を救助するには支障が大有り」という規格外なのに使い勝手がクソ悪い……この理系脳の相棒の口癖で言うなら「運用の幅が狭い」……代物だ。
あたしの再就職先の俗称である「正義の味方」って言葉のイメージとは正反対の殺戮特化型の「兵器」だ。中身も鎧も。
「なんか、人が落ちてきた階の辺りから、とんでもない邪気」
「そうか……駄目だ、こりゃ。何が起きてるか判らん」
ヘルメットの下に着装してる網膜投影式のゴーグルにはドローンが撮影した映像が映されるが……警官とチンピラの死体が複数に、1人だけ生き残って怯えまくって泣き喚いてるチンピラ。
男。二〇後半~三〇前半。デブ……のように見えて、結構、筋肉質。
部屋の中とは言え、この季節なのに、ノースリーブの黒のTシャツで、上着なんかは着てない。腕には……ちょっと流行遅れの柄のタトゥー。
髭と髪型……ダサい事以外良く判らん。
首には、金色のチェーンのネックレス。
多分、この部屋の中には魔物や悪霊が飛び交ってんだろうが……生憎と普通のカメラには、その手のモノは写らない。
「床に転がってる死体に……外傷は見当たらず、って所か」
「何かに憑り殺さたか……」
あたし達は、雑居ビルの入口の前に立つ。
「邪気の浄化は可能か?」
「厳しいな。応急措置だけやって、応援を呼ぶべきだ。あたしクラスかそれ以上の『魔法使い』系を……最低は3人。理想は5人以上」
『近隣のチームに連絡を入れて、手が空いてる人を探してます。あと、鳥栖から「小坊主」さんと「ミラージュ」さんが向っています』
続いて、後方支援チームから連絡。
「了解。現地部隊2名、事象が発生した建物内に突入する」
相棒は、そう言いながら「行くぞ」のハンドサインを行なった。
『意荒ぶる時、三宝荒神となり、意寂まる時、本有の如来となる』
「仏説大荒神施与福徳円満陀羅尼経」より
『人間には目が二つある。二つの目で見る時はじめて物が立体的に見える。それと同じことで、精神的にも平常人の視覚は立体的なのだ。二つの違った物の姿が同時に見えていて、それだけ余計に物がよく見えるのだ。こうして彼は、運命というものがあると信じながら、同時に自由意志というものもあることを信じてきたのである』
G.K.チェスタトン「正統とは何か」より
「こちら、『アータヴァカ』および『ニルリティ』。現地に到着しました」
「名前は言わなくていい。仲間には誰の発言か判るようになってる」
相棒が、そう言った途端……轟音。
また、轟音。
続いて、更に轟音。
辺り一面……トマト・ソースを塗ったばかりのピザ生地だ。
「本日の天気は曇り、所によって、警官とチンピラが降ってきますと……」
「最近、ちょっと哲学的な疑問が有ってな……」
「何だ?」
相棒は意味不明な事を言いながら、ATVのトランクを開けて、中に入っていた偵察用の小型ドローンを起動させた。
空中用と地上用が各3台。
「警官とチンピラの違いって何だ?」
「お前、身内に警官が居なかったっけ?」
「仕事中にメンバーの個人情報を言うのはNGだ。そもそも、何が起きてる?」
あたしからすりゃ、何で気付かないか理解出来ないが……相棒は元から霊感が一般人の平均を更に下回ってる上に、こいつが着てる強化装甲服「護国軍鬼」には、魔法的・霊的な攻撃をほぼ一〇〇%防ぐ代りに、魔法的・霊的な存在を(物理的実体が有るモノに取り憑いてる場合は別にして)ほぼ認識出来なくなる副作用が有るらしい。
つまり、大規模な魔法災害や霊的災害が起きた場合は「自分だけは助かるが、魔法災害・霊的災害の原因を断つ手段は限られ、誰か他の人間を救助するには支障が大有り」という規格外なのに使い勝手がクソ悪い……この理系脳の相棒の口癖で言うなら「運用の幅が狭い」……代物だ。
あたしの再就職先の俗称である「正義の味方」って言葉のイメージとは正反対の殺戮特化型の「兵器」だ。中身も鎧も。
「なんか、人が落ちてきた階の辺りから、とんでもない邪気」
「そうか……駄目だ、こりゃ。何が起きてるか判らん」
ヘルメットの下に着装してる網膜投影式のゴーグルにはドローンが撮影した映像が映されるが……警官とチンピラの死体が複数に、1人だけ生き残って怯えまくって泣き喚いてるチンピラ。
男。二〇後半~三〇前半。デブ……のように見えて、結構、筋肉質。
部屋の中とは言え、この季節なのに、ノースリーブの黒のTシャツで、上着なんかは着てない。腕には……ちょっと流行遅れの柄のタトゥー。
髭と髪型……ダサい事以外良く判らん。
首には、金色のチェーンのネックレス。
多分、この部屋の中には魔物や悪霊が飛び交ってんだろうが……生憎と普通のカメラには、その手のモノは写らない。
「床に転がってる死体に……外傷は見当たらず、って所か」
「何かに憑り殺さたか……」
あたし達は、雑居ビルの入口の前に立つ。
「邪気の浄化は可能か?」
「厳しいな。応急措置だけやって、応援を呼ぶべきだ。あたしクラスかそれ以上の『魔法使い』系を……最低は3人。理想は5人以上」
『近隣のチームに連絡を入れて、手が空いてる人を探してます。あと、鳥栖から「小坊主」さんと「ミラージュ」さんが向っています』
続いて、後方支援チームから連絡。
「了解。現地部隊2名、事象が発生した建物内に突入する」
相棒は、そう言いながら「行くぞ」のハンドサインを行なった。
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