世界を護る者達:毒戰寒流

蓮實長治

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第一章:傷城

ニルリティ/高木 瀾(らん) (7)

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 だが……。
 メリっ……。
 嫌な音がする。
 狼男が自分の口を引き裂こうとする機械腕を掴み……。
 機械腕に爪が食い込む。
「マジか、これッ⁉」
 レンジャー隊の副指揮官ブルーパワー型イエローが背中から大型機械腕ユニットを除装。
 ほぼ時を同じくして……機械腕が狼男の爪と握力で破壊される。
 私は、狼男の口から手を放し、裸絞に切り替え、背中の排出口から余剰エネルギーを排出。
 狼男を押し潰そうとした時、狼男の足が地面を蹴り、手は逆に地面に向かい、宙返りをしようとする。
 狼男は、私が狼男を押し潰そうとした運動エネルギーを逆用して、その時の勢いで……危うく、逆に狼男の体に潰されそうになる前に、私は狼男の体から離れる。
「兄貴~ッ‼ 大丈夫ですか~ッ⁉」
 その時、道路の反対側から声。
 出て来たのは……河童の姿をした連中……。
 いや、大型狙撃銃を持ってる河童というのもシュールな光景だが……この御時世、良く有る事だ。
 まぁ、河童と言っても「昔の河童の絵の独特の口はスッポンの口を元にしたもの」という説は本当だったようで「亀人間」っぽい外見だが。
「おい、この狼男をブッ殺す方法は無いねえのかよ?」
「警官が容疑者を殺すのか? 取調べはどうする気だ? こいつの知ってる情報の二〇分の一でも自白うたわせる事が出来れば、大手柄で臨時ボーナスも、警察そっちの偉いさんの弱味を握るも、犯罪組織の手下になってる不良警官を一掃するのも思いのままだぞ、勿体ない」
「こいつみて~なのを置いとける留置所なんか無いねえし、こいつを尋問して無事でいられる警官も居無いねえよッ‼」
「まぁ、殺す方法なら、いくらでも有る。一般人が逃げ遅れてるかも知れない町中で軍用装甲車を一瞬でブッ壊せる武器を使用出来て、誤射その他の事故が起きても誰も責任を取らなくていいならな」
「事実上無いねえって事だろ、それ」
「おい、この状況で軽口か?」
 まぁ、獣化能力者の中では日本最強、東アジアでもベスト3入り確実なヤツの攻撃を、あまり仲の良くない組織の構成員と仲良くギリギリで捌き続けてるって状況だが……。
「軽口でも叩いてなきゃ、この状況では、それこそ心の余裕が無くなる」
 私は、狼男の腹に前蹴り。それと同時に隠し武器のピケットを射出。
 だが、以前にも使った手だ。
 当然効いて無い。
 そして、蹴った足を掴まれ……だが、その足を軸に空中回し蹴り。
 狼男の頭の狙って、靴の爪先を叩き込む。この箇所だけは、装甲素材の組成が軽さと強度のバランスを重視した他の箇所とは違い、重量は有るが硬度や頑丈さ重視だ。
 だが、狼男が腕を上げ、その蹴りも防がれ……銃声。
 レンジャー隊の副指揮官ブルーパワー型イエロー……今はパワー型イエローの機能を失なった単なる副指揮官ブルーだが……が狼男を銃撃。
 威嚇や牽制にしか成らない……が、その一瞬の隙を突いて体全体を奴の腕に絡ませる。
「やるじゃねえか……。関節技ってのは、さっきのみてえなのじゃなくて、コレなんだよな」
「悪いが、腕1本、いただく」
 だが、完全に極まる前に、狼男は飛び上がり、私を地面に叩き付けようとし……。
「まだ、やれねえな……」
 何とか、狼男から離れ……。
「高威力の重火器を使いたいが、後始末をお願いしていいか? あいつを殺せるかも知れないが……周囲の建物に大穴を空けるのも確実な武器なら有る」
 私は、レンジャー隊の副指揮官ブルーに向かって、そう言った。
「ふざけんな」
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