世界を護る者達:毒戰寒流

蓮實長治

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第三章:ピースブレイカー

ニルリティ/高木 瀾(らん) (5)

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「え……えっと……何で、その格好なんだ?」
 後方支援要員の1人である望月は、私とひなた強化装甲服パワードスーツ用のインナーを着ているのを見て、そう言った。
「今日も出撃の可能性が有る。ところで兄貴……」
「おい、大体、なんで、こんだけメンバーを呼び出したんだよ?」
 コードネーム「猿神ハヌマン」の「中身」である金子裕天のりたかは、私の質問を遮って、そう訊いてきた。
「まずは、この映像を見てくれ。この『鬼』の体温、どう思う?」
「どうなってんだ、これ? 本物の……」
「人間にしては低いけど、周囲の気温よりは高い」
「でも、哺乳類なら低体温症で死んなきゃおかしい体温だ。爬虫類なんかは専門外だけど……」
「あまり、爬虫類には見えない外見だな。ところで、今村……」
 私は狼男に変身する能力を持つ今村亮介に、そう言った。
「何だ?」
「あの時、あの場に居た味方の中で、防毒マスク付のヘルメットをしていなかったのはお前だけだ。何か変な臭いを感じなかったか?」
「う……う~ん、言われてみれば……何か……消臭剤っぽい臭いと……あと……たしかに変な……何か、嫌な臭いが……」
「腐敗臭?」
「言われてみれば、そうかも……」
「なに、じゃあ、この『鬼』は死体で……もう、腐敗が始まってるって事? で、この『鬼』の体温の正体は……腐敗熱か?」
『こちら、大牟田チーム、そっちからの依頼をやったけど……』
 その時、別チームから連絡が入る。
「おい、何を依頼した?」
「足が付かないルートで、県警の久留米署に電話してくれって頼んだ。『久留米に来た時に落とし物した』みたいなの問い合わせを電話でやってくれってな」
『電話に誰も出ないぞ』
「へっ?」
『こちら、太宰府チーム。同じく足の付かない番号から久留米の警察病院に電話したが、誰も出ない』
「お……おい、どうなってる?」
「多分だが……昨日の動画配信者と、機動隊員も……あの『鬼』に似た存在と化した」
「冗談だろ……。最悪だ……」
 最悪の予想が当った……。
 久留米市内の警察業務は……ほぼ麻痺している。
 あと、警察関係者が……かなり……死んでるか、あの『鬼』の同類と化している。
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