魔導兇犬録:脱大者

蓮實長治

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第二章:修羅の獣たち

脱大ブローカー 松本義志・暁美夫婦 (1)

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「おい、どうなってんだ、一体?」
 民間の携帯電話回線もパンクしているようだった。
 俺は「外」の自称「正義の味方」から供与された衛星回線経由の端末に、そう怒鳴り散らしていた。
『すまん、こちらのミスだ。こっちは……ちょっとした妨害工作のつもりが、何と言うか……当たり所が悪かったようなモノだ』
「ふざけんな……」
『こちらとしては、たった1つのノードを潰したの些細な妨害工作のつもりが……「大阪」全土にとっては、換えが効かない致命的な急所だったらしい』
 道路の信号も機能停止。
 どこか遠くで起きた交通事故か何かのせいで……道路は渋滞。車がいつ動き出せるか予想も付かない。
 大阪への「密入国」を装った正反対の大量「脱大」の仕事シノギの筈だったのに……。
 昔の大作だが大味なハリウッド映画の最悪のパロが現実で起きていた。
 しかも、それに俺達と「客」が巻き込まれていた。
 マイケル・ベイかローランド・エメリッヒが監督した底抜け超大作映画に良く出て来る「司令塔を潰せば全個体が動きを止める侵略エイリアン」……そいつらの司令塔を見事やっつけてしまったらしい。
 ただし、うっかり、早過ぎるタイミングで。
 しかも、バックアップの司令塔は……無かった……ようだ。
 やれやれ……。
 情状酌量の余地は有るかも知れない。
 やらかしたのは、だ。
 大魔王を倒せば平和が訪れるなんて昔のドラクエの中だけの想像上の話だと思ってるような連中だ。
 だが、実際には、大魔王本人ですらない奴を倒しただけで、大魔王の大軍勢は総崩れの大混乱になってしまった。
 大魔王の大軍勢そのものが、最早、自分達が軍勢のていを成してない事に気付いてないほどの大混乱だ。
 やれやれ……一体全体、この場合……超バカデカい怪獣1匹の死体が町中に転がってのと、大小さまざまな機能を停止したエイリアンのクソ兵器が町中に無数に転がってんのと……どっちが後始末は大変なんだろう?
 多分だが……「大怪獣の後始末」より「侵略エイリアン軍団の後始末」の方が……見た目は地味だが、予算も頭も大幅に使う必要が有るな。映画にする場合も現実になっちまった場合も……。
「一〇年か……」
 助手席でカミさんが、そう言った。
「一〇年も『鎖国』してる内に……大阪の内と外じゃ……全然、常識が変っちまったらしいね」
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