1 / 1
アラブの石油王に萌え絵を売ったら、何故か犯罪組織の抗争に巻き込まれました
しおりを挟む
「何、呑気な事言ってんですか? 全部、あなたのせいですよ」
髪を派手な色に染め首筋にまでタトゥーが有る人相の悪いアジア系だが……日本人より明らかに彫りが深い兄ちゃんが、文字で書けば丁寧だが怒気を含んだ口調でそう言った。
辺りには死体が転がっていた。
アジア系、白人、アフリカ系、中南米系、中東系。ポリコレに配慮したような多様な人種構成だ。
始まりは、ある年の年末のコミケだった。
「あの……年末に、とんでもない収入が有って……」
青色申告の前に税理士に相談せざるを得ない事態になった。
「ええっと……何ですか、これ? その……暴力団なんかのマネーロンダリングに関わったりしてませんよね?」
コミケにブースを出していたら、いかにもアラブの石油王と言った感じの人物がやってきて「自分の為だけに萌え系のイラストを描いてくれ」と頼まれた。
そして、前金を即金で俺の銀行口座に振り込んでくれた。
完成品を引き渡したら、同じ額を振り込んでくれると言う。
題材は何でも良い。ただし、指定の印刷所で紙に印刷する事。
前金だけでも、一流企業のサラリーマンの年収2~3年分か……下手したら、それ以上。
カツカツの生活のエロ同人誌作家にも春が巡って来たのだろうか?
数ヶ月後、完成品は無事、アラブの石油王に引き渡されたが……その後、出版社やゲーム会社なんかから、何の声もかからなかった。
しかも、更に数ヶ月後、税理士に頼んだのに、所得税の申告漏れのミスが見付かり、追徴課税の通知が来て……ああ、くそ、中古とは言え仕事場を兼ねたマンションを即金で買い、作画用のPCを新しく買い……要はアレだ「悪銭身に付かず」と云うヤツだ。
仕方ない。
その手のショップサイトで「アラブの石油王が買った萌え絵の複製画」を売る事にした。
一応、問題の「石油王」の事を調べてみたが、実在していて、写真を見る限りコミケにやってきた人本人で、何十番目からしいが、中東のある王国の王位継承者だった。
そして、SNSで「こんな下手な絵買う石油王って、どんだけ目が腐ってんだよwwwww」「なに、この嘘松wwwww」とか散々に嘲笑され始めたが……俺は、それ所では無かった。
問題の石油王が何者かに殺された、と云うニュースが流れ……。
そんな最中に参加した中規模の同人誌即売会に変な客が来た。
温厚そうな二十代後半ぐらいのイケメン……だが、格好は、この場に似つかわしくない小洒落た……まぁ、要はウェ~イ系な感じのモノだった。
「あの……ボク、この前亡くなった○○王国の××殿下の知り合いで……」
微かな中国訛りか韓国訛り……。
その男が見せたスマホの画面には……あのアラブの石油王と握手しているスーツ姿のこいつの写真が表示されていた。
渡された名刺には、中国系らしいIT企業の役員と云う肩書が有り……。
「ボクの為にも萌え絵を描いて欲しいんですが……」
「は……はぁ……」
「謝礼はこれ位で……」
提示された金額は石油王が出したモノよりデカかった。
「では、その……条件は……」
「すぐに」
「へっ?」
「可能なら、明日の朝までに印刷可能な状態にして下さい」
「ちょ……ちょっと……」
「最高クラスのPCを既に用意しています。今からボクに付いて来て、作画にとりかかって下さい」
「む……無茶です……」
「お金が足りませんか? さっきの額の3倍までなら出せます」
「えええええ?」
「あと、ボクの為に作った絵をネットで公開したり他人に売ったりする事は禁止です」
「あ……あの……」
「ああ、金額が足りないんですね。ちょっと待って下さい」
どうやら、中国のIT長者らしき男は、どこかに電話をかけながら居なくなり……。
「何だったんだ……一体……?」
ドンッ‼
いつの間にか戻って来ていた自称・中国のIT長者は俺の前にトランクケースを置いた……。
そこには、最初の言った額の5倍以上の札束が入っていた。
北野武のヤクザ映画に、そんなシーンが有った。
とんでもない額の札束を積まれると……積まれた側が逆に恐怖を覚える……。
俺は、そんな状態だった。
「今から来て……萌え絵を描いてもらえますね?」
「……は……はい……」
その時、どこの国の言葉か判らない怒号……そして……。
何で、同人誌即売会の会場で銃声がするんだよ?
よく見ると……いつの間にか会場には……白人・黒人・東南アジア系っぽいの・色んな人種の混血らしきヤツ……明らかに日本人じゃなくて、オタクっぽい格好じゃない上に、妙にガタイが良い奴らが入り乱れていた。
「ぐ……ぐげっ……」
「うわああああッ‼」
目の前に居た自称・中国のIT長者は血を流しながら倒れ……。その背中には無数の穴が空いていた。
駆け付けた警官達も、謎の集団にあっさり銃殺され……そして謎の集団同士の殺し合いも続いていた。
気付いた時には夜になっていた。
どうやら、会場は警察か自衛隊の特殊部隊に包囲されているらしい。
「な……なんなんだよ……一体?」
「何、呑気な事言ってんですか? 全部、あなたのせいですよ」
大乱戦の数少ない生き残りの1人である東南アジア系らしい髪を染めタトゥーを入れたヤツは、舌打ちをしながら、そう言った。
「は……? えっと……俺のせい?」
「ああ、聞いた事ないみたいですね? 私達みたいな組織の間でマネーロンダリングの為に美術品が使われる事を……」
「へっ?」
「そう。マネーロンダリングの為なんで、本当に価値が無くても良い。価値が有るかもと云う幻想が有って……価格が乱高下しないモノがね……。だから、門外漢には、どう評価すればいいか判らない現代美術なんかの方がいい。あと……日本で云うなら『萌え絵』とか」
「へっ?」
「まだ、判りませんか? あなたに『萌え絵』を依頼した中東のどこかの国の王族は、犯罪で得た金のマネーロンダリング用の『美術品』として、あなたに『萌え絵』を発注したんですよ。そうとは知らず、あなたは複製品を売って、あなたの『萌え絵』の価値を下落させた。そのせいで……あなたの『萌え絵』を媒介に金のやりとりをしてた犯罪組織の間で、とんでもないトラブルが起きたんですよ。ええ、ここで出た死人なんて誤差に思えるぐらいの人死が出るようなトラブルがね……」
髪を派手な色に染め首筋にまでタトゥーが有る人相の悪いアジア系だが……日本人より明らかに彫りが深い兄ちゃんが、文字で書けば丁寧だが怒気を含んだ口調でそう言った。
辺りには死体が転がっていた。
アジア系、白人、アフリカ系、中南米系、中東系。ポリコレに配慮したような多様な人種構成だ。
始まりは、ある年の年末のコミケだった。
「あの……年末に、とんでもない収入が有って……」
青色申告の前に税理士に相談せざるを得ない事態になった。
「ええっと……何ですか、これ? その……暴力団なんかのマネーロンダリングに関わったりしてませんよね?」
コミケにブースを出していたら、いかにもアラブの石油王と言った感じの人物がやってきて「自分の為だけに萌え系のイラストを描いてくれ」と頼まれた。
そして、前金を即金で俺の銀行口座に振り込んでくれた。
完成品を引き渡したら、同じ額を振り込んでくれると言う。
題材は何でも良い。ただし、指定の印刷所で紙に印刷する事。
前金だけでも、一流企業のサラリーマンの年収2~3年分か……下手したら、それ以上。
カツカツの生活のエロ同人誌作家にも春が巡って来たのだろうか?
数ヶ月後、完成品は無事、アラブの石油王に引き渡されたが……その後、出版社やゲーム会社なんかから、何の声もかからなかった。
しかも、更に数ヶ月後、税理士に頼んだのに、所得税の申告漏れのミスが見付かり、追徴課税の通知が来て……ああ、くそ、中古とは言え仕事場を兼ねたマンションを即金で買い、作画用のPCを新しく買い……要はアレだ「悪銭身に付かず」と云うヤツだ。
仕方ない。
その手のショップサイトで「アラブの石油王が買った萌え絵の複製画」を売る事にした。
一応、問題の「石油王」の事を調べてみたが、実在していて、写真を見る限りコミケにやってきた人本人で、何十番目からしいが、中東のある王国の王位継承者だった。
そして、SNSで「こんな下手な絵買う石油王って、どんだけ目が腐ってんだよwwwww」「なに、この嘘松wwwww」とか散々に嘲笑され始めたが……俺は、それ所では無かった。
問題の石油王が何者かに殺された、と云うニュースが流れ……。
そんな最中に参加した中規模の同人誌即売会に変な客が来た。
温厚そうな二十代後半ぐらいのイケメン……だが、格好は、この場に似つかわしくない小洒落た……まぁ、要はウェ~イ系な感じのモノだった。
「あの……ボク、この前亡くなった○○王国の××殿下の知り合いで……」
微かな中国訛りか韓国訛り……。
その男が見せたスマホの画面には……あのアラブの石油王と握手しているスーツ姿のこいつの写真が表示されていた。
渡された名刺には、中国系らしいIT企業の役員と云う肩書が有り……。
「ボクの為にも萌え絵を描いて欲しいんですが……」
「は……はぁ……」
「謝礼はこれ位で……」
提示された金額は石油王が出したモノよりデカかった。
「では、その……条件は……」
「すぐに」
「へっ?」
「可能なら、明日の朝までに印刷可能な状態にして下さい」
「ちょ……ちょっと……」
「最高クラスのPCを既に用意しています。今からボクに付いて来て、作画にとりかかって下さい」
「む……無茶です……」
「お金が足りませんか? さっきの額の3倍までなら出せます」
「えええええ?」
「あと、ボクの為に作った絵をネットで公開したり他人に売ったりする事は禁止です」
「あ……あの……」
「ああ、金額が足りないんですね。ちょっと待って下さい」
どうやら、中国のIT長者らしき男は、どこかに電話をかけながら居なくなり……。
「何だったんだ……一体……?」
ドンッ‼
いつの間にか戻って来ていた自称・中国のIT長者は俺の前にトランクケースを置いた……。
そこには、最初の言った額の5倍以上の札束が入っていた。
北野武のヤクザ映画に、そんなシーンが有った。
とんでもない額の札束を積まれると……積まれた側が逆に恐怖を覚える……。
俺は、そんな状態だった。
「今から来て……萌え絵を描いてもらえますね?」
「……は……はい……」
その時、どこの国の言葉か判らない怒号……そして……。
何で、同人誌即売会の会場で銃声がするんだよ?
よく見ると……いつの間にか会場には……白人・黒人・東南アジア系っぽいの・色んな人種の混血らしきヤツ……明らかに日本人じゃなくて、オタクっぽい格好じゃない上に、妙にガタイが良い奴らが入り乱れていた。
「ぐ……ぐげっ……」
「うわああああッ‼」
目の前に居た自称・中国のIT長者は血を流しながら倒れ……。その背中には無数の穴が空いていた。
駆け付けた警官達も、謎の集団にあっさり銃殺され……そして謎の集団同士の殺し合いも続いていた。
気付いた時には夜になっていた。
どうやら、会場は警察か自衛隊の特殊部隊に包囲されているらしい。
「な……なんなんだよ……一体?」
「何、呑気な事言ってんですか? 全部、あなたのせいですよ」
大乱戦の数少ない生き残りの1人である東南アジア系らしい髪を染めタトゥーを入れたヤツは、舌打ちをしながら、そう言った。
「は……? えっと……俺のせい?」
「ああ、聞いた事ないみたいですね? 私達みたいな組織の間でマネーロンダリングの為に美術品が使われる事を……」
「へっ?」
「そう。マネーロンダリングの為なんで、本当に価値が無くても良い。価値が有るかもと云う幻想が有って……価格が乱高下しないモノがね……。だから、門外漢には、どう評価すればいいか判らない現代美術なんかの方がいい。あと……日本で云うなら『萌え絵』とか」
「へっ?」
「まだ、判りませんか? あなたに『萌え絵』を依頼した中東のどこかの国の王族は、犯罪で得た金のマネーロンダリング用の『美術品』として、あなたに『萌え絵』を発注したんですよ。そうとは知らず、あなたは複製品を売って、あなたの『萌え絵』の価値を下落させた。そのせいで……あなたの『萌え絵』を媒介に金のやりとりをしてた犯罪組織の間で、とんでもないトラブルが起きたんですよ。ええ、ここで出た死人なんて誤差に思えるぐらいの人死が出るようなトラブルがね……」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約者の番
ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。
大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。
「彼を譲ってくれない?」
とうとう彼の番が現れてしまった。
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど
reva
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。
私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。
偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。
そして私は、彼の妃に――。
やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。
外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる