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第一章:海にかかる霧
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まだ「本物の東京」が無事だった頃、俺が所属していた魔法結社「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」は「本物の靖國神社」まで地下鉄で一駅……「本物の東京」で地下鉄で一駅ってのは余程の年寄か体が不自由でもない限りは歩いて行ける距離って意味だ……の所に有った。
毎年、八月一五日になると、右翼の街宣車が流す軍歌が聞こえ……いや、軍歌だけじゃなくて、何故か、クラシックや昔の歌謡曲を流してるのも有ったが……近くの大通りでは右翼団体の構成員と警察の機動隊員が追いかけっこをやっていたり、車両が通行止めになってたりした。
良く有る終戦の日の風物詩だった。
そうだ……八月一六日……前日の喧騒の反動で、どこか気が抜けたような気がしていた日に、突然、富士山が火を吹き、旧首都圏と旧政府は壊滅し……俺は生き残る事こそ出来たが……。
俺が居た「魔法結社」の呼び方では「第2階梯」「内陣結社」と呼ばれる「幹部クラス」の一員になったばかりで……少しばかり思い上がっていた俺は……あまりの天災を前にして、何も出来ぬまま呆然と立ち尽し……その代り、俺を助けてくれたのは……何の「異能力」も持たない一般人だった。
あの時……俺は……自分の力への信頼を失ない……。
そこまで思い出して……再び、呼吸を整え……心を落ち着かせる。
そう言えば……東京……それも「本物の靖国神社」の目と鼻の先……に居た十年ほどの間、よくよく考えたら「本物の靖国神社」に行った事は片手の指で数える程しか無かった。
多分、この「偽物の靖国神社」は、結構、良く出来た「偽物」なんだろう。
でも、どこまで「本物」に似てるかは……はっきり言って判らねえ。
バカデカい青銅の鳥居と、この神社のオリジナル版を作ったらしい幕末の侍の銅像が俺達を出迎えてくれた。
「偽物の浅草」に有るらしい超巨大雷門なんかとは違って、どうやら原寸大のようだ。
本物は、富士山から吹き出す火山性ガスが雨雲に混ったせいで降った酸性雨のせいでエラい事になってるらしいが。
「バイオテクノロジーで作られた一年中花を咲かせる桜」が辺り一面、この町の他の場所にも増してゾロゾロと有るが、霊感が有る奴にとっては「嫌な感じのする町にビョ~キの木がウジャウジャ生えてる」ようにしか思えねえだろう。
外国から来た観光客の中には、呑気に花見をしてるのも居るが……俺からすると、腐臭のする中、腐りかけた花を愛でながら飲み食いしてる面白おかしい変態どもに見えない事もない。
「そう言や、『本物』が無事だった頃、この見世物小屋には一度も入った事が無かったな……」
「その手の話は、ここの『従業員』に聞こえないように言って下さい。ここの『従業員』にとっては、こここそが『本物の靖國神社』なんですから」
「探ったらマズいか?」
お目当てのブツは……この「遊就館」とか云う見世物小屋の地下倉庫に有るらしい。
「多分、『気』を探ったら……『英霊顕彰会』にバレますね」
霊的・魔法的なモノを検知する手段は、大きく分けて2種類有る。
1つは、パッシブ・センシング。こっちは何もせずに、相手が放つ気配・気・魔力・霊力などを検知する。
この方法は、相手に、こっちが探っている事を気付かれる危険性は小さいが……得られる情報の精度はイマイチ。
もう1つは、アクティブ・センシング。こっちから「気」を放ち、相手の反応を見る。
この方法は、得られる情報の精度は高くなるが、相手に気付かれる危険性が有る。
そして、「得られる情報の精度は高くなる」と言っても、どこまでの情報を得られるかは、やるヤツの技量に依存する。医者の打診や聴診みたいなモノで……結構な職人芸であり、当然ながら、長い間「現場」から離れていれば、適切なタイミングで適切な探り方をやったり予想外の反応が起きた時に事態の把握や対処を短時間で行なう為の「勘」や「経験値」は失なわれていく。
パッシブ・センシング的な「探り方」では、それらしい呪物の気配は感じられない。
吾朗や、かつての妹弟子にして現・総帥の話が本当でも……多分、集められた呪物の周囲には、呪物の気配や力を隠す「結界」が張られている。
そして……そこそこの技量が有る「魔法使い」系のヤツなら……その「結界」内を「気」で探ろうとしたヤツが居たなら、その事を検知出来るようにしているだろう。
最盛期の俺なら……「中に有る呪物の気配を隠す結界」「誰かが中を『魔法的』な手段で探ろうとしたら、その事を検知する結界」の裏をかけたかも知れねえ……。
けど、それをやるには……綿密な下準備・下調べと、かなり微妙で職人芸的な「気」の制御と長時間の精神集中が必要になる……。そうだ……喩えるなら……金庫破りの名人が金庫の番号を探り出すような……侵入予定の建物の図面を元に、防犯カメラの死角になる侵入・逃走ルートを割り出すような……「勘と経験」と「綿密かつ合理的な思考」の両方が必要になる。今の俺は、どちらも失なった。
「ああ……バレるな……。特に……今の俺だと……」
「ま……今回は下見って事で……」
毎年、八月一五日になると、右翼の街宣車が流す軍歌が聞こえ……いや、軍歌だけじゃなくて、何故か、クラシックや昔の歌謡曲を流してるのも有ったが……近くの大通りでは右翼団体の構成員と警察の機動隊員が追いかけっこをやっていたり、車両が通行止めになってたりした。
良く有る終戦の日の風物詩だった。
そうだ……八月一六日……前日の喧騒の反動で、どこか気が抜けたような気がしていた日に、突然、富士山が火を吹き、旧首都圏と旧政府は壊滅し……俺は生き残る事こそ出来たが……。
俺が居た「魔法結社」の呼び方では「第2階梯」「内陣結社」と呼ばれる「幹部クラス」の一員になったばかりで……少しばかり思い上がっていた俺は……あまりの天災を前にして、何も出来ぬまま呆然と立ち尽し……その代り、俺を助けてくれたのは……何の「異能力」も持たない一般人だった。
あの時……俺は……自分の力への信頼を失ない……。
そこまで思い出して……再び、呼吸を整え……心を落ち着かせる。
そう言えば……東京……それも「本物の靖国神社」の目と鼻の先……に居た十年ほどの間、よくよく考えたら「本物の靖国神社」に行った事は片手の指で数える程しか無かった。
多分、この「偽物の靖国神社」は、結構、良く出来た「偽物」なんだろう。
でも、どこまで「本物」に似てるかは……はっきり言って判らねえ。
バカデカい青銅の鳥居と、この神社のオリジナル版を作ったらしい幕末の侍の銅像が俺達を出迎えてくれた。
「偽物の浅草」に有るらしい超巨大雷門なんかとは違って、どうやら原寸大のようだ。
本物は、富士山から吹き出す火山性ガスが雨雲に混ったせいで降った酸性雨のせいでエラい事になってるらしいが。
「バイオテクノロジーで作られた一年中花を咲かせる桜」が辺り一面、この町の他の場所にも増してゾロゾロと有るが、霊感が有る奴にとっては「嫌な感じのする町にビョ~キの木がウジャウジャ生えてる」ようにしか思えねえだろう。
外国から来た観光客の中には、呑気に花見をしてるのも居るが……俺からすると、腐臭のする中、腐りかけた花を愛でながら飲み食いしてる面白おかしい変態どもに見えない事もない。
「そう言や、『本物』が無事だった頃、この見世物小屋には一度も入った事が無かったな……」
「その手の話は、ここの『従業員』に聞こえないように言って下さい。ここの『従業員』にとっては、こここそが『本物の靖國神社』なんですから」
「探ったらマズいか?」
お目当てのブツは……この「遊就館」とか云う見世物小屋の地下倉庫に有るらしい。
「多分、『気』を探ったら……『英霊顕彰会』にバレますね」
霊的・魔法的なモノを検知する手段は、大きく分けて2種類有る。
1つは、パッシブ・センシング。こっちは何もせずに、相手が放つ気配・気・魔力・霊力などを検知する。
この方法は、相手に、こっちが探っている事を気付かれる危険性は小さいが……得られる情報の精度はイマイチ。
もう1つは、アクティブ・センシング。こっちから「気」を放ち、相手の反応を見る。
この方法は、得られる情報の精度は高くなるが、相手に気付かれる危険性が有る。
そして、「得られる情報の精度は高くなる」と言っても、どこまでの情報を得られるかは、やるヤツの技量に依存する。医者の打診や聴診みたいなモノで……結構な職人芸であり、当然ながら、長い間「現場」から離れていれば、適切なタイミングで適切な探り方をやったり予想外の反応が起きた時に事態の把握や対処を短時間で行なう為の「勘」や「経験値」は失なわれていく。
パッシブ・センシング的な「探り方」では、それらしい呪物の気配は感じられない。
吾朗や、かつての妹弟子にして現・総帥の話が本当でも……多分、集められた呪物の周囲には、呪物の気配や力を隠す「結界」が張られている。
そして……そこそこの技量が有る「魔法使い」系のヤツなら……その「結界」内を「気」で探ろうとしたヤツが居たなら、その事を検知出来るようにしているだろう。
最盛期の俺なら……「中に有る呪物の気配を隠す結界」「誰かが中を『魔法的』な手段で探ろうとしたら、その事を検知する結界」の裏をかけたかも知れねえ……。
けど、それをやるには……綿密な下準備・下調べと、かなり微妙で職人芸的な「気」の制御と長時間の精神集中が必要になる……。そうだ……喩えるなら……金庫破りの名人が金庫の番号を探り出すような……侵入予定の建物の図面を元に、防犯カメラの死角になる侵入・逃走ルートを割り出すような……「勘と経験」と「綿密かつ合理的な思考」の両方が必要になる。今の俺は、どちらも失なった。
「ああ……バレるな……。特に……今の俺だと……」
「ま……今回は下見って事で……」
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