シュレディンガーの彼氏

蓮實長治

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シュレディンガーの彼氏

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 例の伝染病が流行が始まってから、3回目の春が来た。
 1日当りの新規感染者数に関して判っている事は……検査体制が破綻してる事ぐらい。
 あの伝染病での1日当りの死者数に関しては……判っているのは政府や地方自治体が把握している数だけでも交通事故による1日あたりの死者数をダブルスコアで上回っている事で、判っていないのは「本当の死者数が、判っている死者数の何倍か?」と云う事だった。
 それでも、何とか社会は存続していた。……一度、社会をわざと崩壊させて、そこから社会を作り直した方が、後々の為じゃないのか? と云う疑問を多くの人が抱いてはいたが……。
 そんな時、時節柄、ここ数週間会えなかった恋人が、発熱して隔離施設にブチ込まれた。
 まだ、あくまで「感染したかも知れない人」扱いで、検査結果が出るのは……これまた時節柄、何日後かさえ判らないらしい。

 例えば、入管の収容施設の収容者を非人道的に扱う国では、やがて、何の罪も無い自国民も国や公的機関から非人道的に扱われるようになる。
 隔離施設は医療施設では無いので例の伝染病に関係しない医療行為は行なえない、と云う良く判らない理屈で、恋人に花粉症用の市販薬を差し入れる羽目になった。
 そして、恋人がブチ込まれてるのは刑務所ではなく、あくまで伝染病の隔離施設だ。つまり、刑務所の受刑者に差し入れをする時よりも、ややこしい手続を経なければ隔離施設にブチ込まれてる恋人に差し入れをする事が出来ない、と云う事だ。
 そして、面会も、刑務所の受刑者に面会するよりハードルが高い。
 しかし、伝染病の隔離施設には刑務所よりマシな点も、もちろん有る。
 隔離施設になっているホテルに、鼻炎薬と大量のティッシュペーパーを届けた後、恋人から連絡が来た。
「ごめん。明日、もっとティッシュと薬を持って来て。可能なら今日の十倍以上。少なくとも5倍」

「ねえ、何が起きてんの……?」
 アクリル板の向こうには、恋人が居た。
 正確には恋人だ。複数形。
「いや……ここの人も、こんな事は初めてみたいで……」
「そりゃそうだ」
「全員、ここにブチ込まれ続ける事になった」
「政府に問い合わせてるみたいだけど……まだ、担当者にまで伝わってないみたい」
「どんな役職で何が専門の人が担当者なのか、さっぱり判んないけど」
「あとさ、俺達がスマホ使ったら、通信料の請求は、どの『俺』に行くんだ?」
「知るか」
「でも、ようやく夢が叶うな……3Pを……」
「それ以上言わない方が賢明だ」
「最初から言わなかったら、もっと賢明だったな」
「いや、女が複数で男が1人……」
「だから、そう云う冗談は男だけの時にしろって……」
 恋人同士は、中学生男子の馬鹿話みたいな話をやり続けていた。
「だから、あんたら何者だ?」
「俺は、まだ、検査結果が出てない俺」
「俺は、昨日、検査結果が出て、陰性だった俺」
「俺は、昨日、検査結果が出て、陽性だった俺」
「俺は、今日、検査結果が出て、陰性だった俺」
「俺は、今日、検査結果が出て、陽性だった俺」
 5人に増えていた恋人達は、同じ顔、同じ声でそう説明した。着てる服や、髪の寝癖の有無、髭を剃っているか? などはビミョ~に違っていたが。
 何故、こんな訳の判らない事態が起きているかは全く不明だ……。
 だが、巨大な箱に見えるこのホテルの外見から……ある事を連想した。
 ここは……シュレディンガーの猫を閉じ込めてる箱だ……。

「陰性だったんで、出られるってさ」
「は……はぁ……そう……よかったね……」
 数日後、近くのコンビニまで買い物に行っている途中に恋人から連絡が来た。
「で、他のあんたは、どうなったの?」
「俺が、検査結果を見た途端に消え……うわああ……」
「え? ちょっと、どうしたの……うわっ?」
 突然、凄まじい音。
 道路にヒビが入り……何故か体が浮き上がり……えっ? アレは何だ?
 空には……何個もの……そ……そんな馬鹿な……。
 空に見えると同じく、この地球も崩れ始めているらしかった……。
 検査結果が確定した事で、何人にも分裂した私の恋人が1人に統合されたのと同じく……知らない間に分裂していたも1つに統合されつつ有るようだった……。
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