昔のボクに戻りたい

蓮實長治

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昔のボクに戻りたい

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「えっと……殺人鬼から足を洗いたい、と云う事でしょうか?」
 SNSで表示された「悪魔と取引して願いを叶えよう‼ 代償は貴方の魂だけです」と云う広告をタップすると現われた悪魔は、ボクが説明した願いを根本的に勘違いしていた。
「違います。人殺しは続けたいんです。そして、人殺しを楽しむ屑野郎のままでいたいんです」
「えっ……そんな……」
「どうしたんですか?」
「考え直して下さい。善人になりたいのなら、当方としても色々とサービスを付ける事が出来るのですが……」
「ちょ……ちょっと待って下さい。貴方、悪魔ですよね?」
「いえ……善人を堕落させた方が営業成績が上がるので……」
「それは、貴方の都合ですよね? ボクの願いは、サービスが少々悪くてもいいんで、ボクの殺人鬼としてのスキルや手際を……連続殺人を始めてから半年後ぐらいのレベルに戻して、そこから何が有っても成長させないようにして下さい。付帯条件は、ボクが人殺しを楽しむような人間のままでいる事と、これまで犯した殺人の記憶とこれから犯す殺人の記憶を保持し続ける事です」
「は……はい……ちょっと待って下さい……。上司と相談しますので……あ、どうも、はい……それが……」
 悪魔はスマホを更に近未来っぽくしたような外見の何かを取り出し、誰かと話し始め……。
「あ……上司の承認が下りました。貴方の願いを叶えますが……それにしても、変った願いですな……」

 中学の頃、連続殺人鬼を将来の夢にしてから……必死に努力し続けてきた。
 自分で言うのも何だが「さわやか系のイケメン」だった顔を、いわゆる「爬虫類顔」「冷酷そうな顔」に整形した。
 筋肉量が多い方で、がっちりした体格だったが……身体能力や持久力を保ちつつ痩せた体になるようにトレーニング方法を工夫した。
 自分では一人称は「俺」の方がしっくり来ていたのだが、「ボク」と自称するように心掛けた。
 どうやら生まれ付き恐怖や動揺を感じにくい性格だったが……他人から神経質そうに見える言動をわざと取り続けた。
 生まれて初めての殺人は素晴らしいものだった……ボクにとってSEXの初体験は、どうでもいい遠い記憶の彼方の事だが……殺人の初体験は、死ぬまで色褪せない素晴らしい青春の思い出であり続けるだろう。
 しかし……警察の手を逃れ続けて3年余り……多分、ノーベル賞に殺人部門が有れば冬のストックホルムに何度も招かれるであろう程の人数を殺したボクは自分の失敗に気付いた。

「あははは……これだよ……これ……あははは」
 悪魔との取引をした日の深夜、平和な家庭を襲撃し、一家を皆殺しにしたボクは、久し振りに心からの悦びの笑い声を上げた。
 1人殺すにも何度も包丁で突き刺さざるを得ず……あまつさえ、内1人をあやうく逃がしてしまう所だった。
 家中は血だらけ。ボクが童貞を捨てた時(初SEXじゃなくて初殺人の意味だ。念の為)より少し齢下の男の子は、体中から血を流しながら、自分の妹を逃す為にボクに立ち向ってきた。
 すごいよ。
 感動した。
 君のように勇敢で家族思いの子に出会えるなんて……殺人鬼をやってて本当に良かった。
 ああ、相手が気付く間もなく一撃で人を殺せた少し前のボクだったら……君が、こんなに素晴らしい人だと知る事すら出来なかっただろう。
 罪もない一家は、誰1人、楽にも綺麗にも死ねなかった。
 殺人を繰り返す毎に、当然ながら僕のスキルは上がり手際は良くなり……ボクの楽しみの為に死んでくれた素晴らしい人達は、一撃で楽になる事が多くなった。
 その結果……殺人現場は、あまり残虐なモノに見えなくなっていった。まぁ……と言っても相対的には、と云う意味だけど。
 死体をデコレーションする事も試してみたが……出来たのは「仕事で淡々と殺しをやった奴が、頭のおかしい連続殺人鬼の仕業に偽装した」ようにしか見えないチグハグなモノだった。
 そして、ボクの愛する人達が、逃げ出したり、反撃してきたり、警察に電話しようとする事も少なくなり……ボクの殺人は淡々とした作業と化していった。ああ……好きな事であればこそ一生続けるもんじゃない、ってのは殺人についても当て嵌るのか……昨日まで、そんな事を思っていたのに……。
 ボクは取り戻した……。かつての未熟だった頃の自分と……未熟だったからこそ味わえた楽しみを……。
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