本物の神絵師は人間(おまえ)じゃない

蓮實長治

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本物の神絵師は人間(おまえ)じゃない

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「ちょ……ちょっと待って下さい。『牡蠣渋』に出現したボクの偽物の正体が、国が作ったAIだって事ですか?」
 少し前までは「神絵師」扱いされていたが、今やは、畏れ多くも、「表現の自由」庁の長官であるこの私に対して、そう叫んだ。
「偽物? 何を言ってるんですか? 今や、あのAIの作った作品こそが、真の『押忍桜 肋骨』の絵で、貴方は『押忍桜 肋骨』氏の名を騙る偽物ですよ」
「はぁ?」
「マスゴミに『報道しない自由』など無いように、貴方にも『作品を発表しない自由』など無い。『表現の自由』を行使したければ、ファンの望む表現を行ない続ける義務が有ります。学校で習いませんでしたか?『権利には義務が伴う』って」
「待って下さい。何を言ってるんですか? 貴方は仮にも『表現の自由』庁の……」
「ああ、『表現の自由』庁は、あくまで通称です。正式名称は『コンテンツ産業庁』ですよね?」
「はぁ?」
「我が庁の使命は『日本のコンテンツ産業の保護』であり、個々の表現者の『表現の自由』を護る事は、その使命を達成する手段に過ぎない。たかだが、一神絵師如きの自由や権利を護る為に、日本最大のイラスト投稿サイトである『牡蠣渋』の利益が毀損されるなら、これ以上の本末転倒は無い」

 日本最大のイラスト投稿サイト「牡蠣渋」の運営会社の不祥事が原因で、いわゆる「神絵師」達が「牡蠣渋」のアカウントを消すか、作品を非公開にしてしまった。
 こんな事は、過去にも何回が有ったが……今回は過去最大のモノとなった。
 直近の国政選挙で私に投票してくれたオタク達は、私に泣き付き……。
 だが、こんな事も有ろうかと、「牡蠣渋」と我が「表現の自由」庁が研究費を共同出資して開発していた、あるモノが役に立った。

 あの元「神絵師」どもは気付いていなかった。
 アカウントを消し、作品を削除または非公開にしても、本当に削除されている訳ではない。それどころか、
 単にデータベース上のアカウントや作品のデータに「削除済み」または「非公開」のフラグが立っているだけで、データそのものは「牡蠣渋」のサーバ上に残っており、検索処理などの際に「削除済み」「非公開」のフラグが立っているアカウント・作品が除外されているにすぎない。
 我々は、「牡蠣渋」のサーバ上の残っていた、自分の「表現の自由」を行使する権利を放棄した元神絵師どもの作品をAIに学習させ……。
 許し難き「表現の自由」の敵と化した者どもは、最早、神絵師などではない。
 我々がAI上に再現した複製品こそが、今や真の「神絵師」たちなの……ん?

 私の冷静で理性的で現実主義的な説明に対してヒステリックな反論を行なった偽の神絵師を警備員に排除させた直後、机の上の電話が鳴り出し……。
「私だが、何だ?」
『すいません。本庁のサーバ・ルームで、例のAIを動かしているサーバが次々と処理を停止しました』
「はぁっ?」
『原因は……処理の過負荷です。原因を突き止めるまで、AIプロセスは再起動しない方が……』
「おい、待て……どうなってる?」
『今、開発元にログを解析させています……』

「おい……これが過負荷になった原因の『神絵師』達の絵か?」
「ええ、元漫画家である長官には、共通点がお判りだと思いますが……」
「何を言ってる、私は、まだ漫画家だぞ」
 だが……例のAIの開発者の言ってる事には判らない点が有った。
 例のAIの過負荷は、AI上に再現した神絵師達の10%未満の特定の神絵師にだけ発生する。
 しかし……その神絵師の絵を見せられても……。
「それに、共通点とは何だ? 絵柄も塗り方もバラバラだぞ」
「ええ、バラバラなのが問題なんです」
「はぁ?」
「AIとは早い話が『気の効いた高度な統計』なんです」
「だから、何だ?」
「ですので、AIが再現するのに困難な絵柄も有るんです」
「おい、そんな欠陥が有ったのか? それに……『AIが再現するのに困難な絵柄』と言っても……さっきも言った通り、絵柄も塗り方もバラバラじゃないか」
「はい、だから、AIの本質は統計だと、さっきも説明しましたよね?」
「何を言ってる?」
「AIは『平均的な絵柄の絵』や『流行りの絵柄の絵』『メジャーな画像製作アプリを使った絵』の再現は得意ですが……それから外れた絵の再現は不得意なんです」
「おい、待て……何か……段々判ってきたぞ」
「はい、『神絵師』である以上、その絵には何かの『個性』が有る筈ですが……我々が作ったAIは『個性的な絵』を真似ようとする場合ほど……処理が重くなってしまうんです」
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