御当地萌えキャラと邪神の復活とそして……

蓮實長治

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御当地萌えキャラと邪神の復活とそして……

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『ふざけてんですか? これのどこが「萌えキャラ」ですか? これ、どう見ても、あの伝説に出て来る……』
 仕事を回してくれた業社の担当者から送られてきた罵詈讒謗のメールを見て、まず思ったのは「何の事だ?」だった。
『すいません、どこを手直しすれば良いか具体的に言ってもらえるとありがたいのですが……』
 ブラック業社っぽい相手とは言え、仕事をくれた相手なので下手に出なければならないが……更にその返信は、もっと酷い罵詈讒謗だった。
『自分が送った絵を良く見てみろ、ボケ。もう、この話は無しだ。他の絵師に頼む。今時、萌え系の絵師なんて掃いて捨てるほど居るんだから、お前なんかの代りぐらいすぐ見付かる』
 な……何だ、こりゃ?
 とは言え、折角、自分の絵柄を捨てて、萌え系の絵を描けるようになったのは失敗かもしれない。
 今や、萌え系じゃない絵を描ける絵師の方が貴重だ。
 特に今回みたいな「御当地萌えキャラ」のデザインなんかの金が絡む話だと、pixivあたりにくらでも居る奴を安く買い叩いた方が……いや待て。
 あのブラック業社の担当者が言ってた事が気になり、奴に送った絵を確認……。
 うわああああッ‼
 待ってくれ、何がどうなってる?
 何だ、こりゃ一体?
 これは本当に俺が描いたモノなのか?
 有り得ない肌の色。
 萌えキャラだとしても、明らかに不自然な大きさの目や口。
 そして……頭部には……そうだ……まるで……古代の伝説の……。

『あの……支払いはいつになるんですか?』
 その「御当地萌えキャラ」の仕事を請け負って3ヶ月。
 まるで、昔、何かの本で読んだ「底抜け超大作映画が出来るまで」みたいな状況を自分で体験する羽目になった。
 「もっと衣装の露出度を上げろ」「もっと男に媚びた顔にしろ」と云う関係者からの注文が伝えられた数日後には、別の関係者から「衣装の露出度を下げろ」「あまりに色気が出過ぎてるのは品が無い。修正しろ」と云う注文が来る。
 締切は決ってるのに手直しは何度もやらされ、twitterで他の仕事の宣伝をやれば、業社の担当から「こっちの仕事が進んでないのに、何、他の仕事をやってんだ」と云う意味の下手な18禁エロより子供に見せられないような単語が満載のメールがやって来る。それどころか、同じ関係者が数日前とは逆の注文をしてくる事さえ有った。
 他にも、変な修正注文が有った。
 衣装の複雑な部分を簡素にしろ。
 顔にお前の「個性」なんて必要ない。
 この箇所は、もっとデフォルメしろ。
 髪型は、もっと簡単に描けるものにしろ。
 これだとVtuber化した時に動かせないじゃないか。
 ……どうやら、今後は俺より安く使える他の絵師に、俺がデザインした「御当地萌えキャラ」の絵を量産させるつもりらしい。
 そして、この後に及んで、俺はようやく重大な事に気付いた。
 「御当地萌えキャラ」業社は、この仕事にいくら払うと云う事は言ってたのに、肝心の支払い先の銀行口座なんかは、俺に一度も訊いてなかったのだ。
『あれ? ニュース見てないんですか? この仕事の締切は伸びます。いつまでかは不明です。お金は、貴方がデザインした「御当地萌えキャラ」が実際に宣伝なんかに使われた後に支払う事になります』
『ちょっと待って下さい。どう云う事ですか?』
『例の多国籍軍が南太平洋のカルト系のテロリストを掃討する件に日本も参加する事になりましたよね? 今の日本は戦時体制なんですよ。観光用の「御当地萌えキャラ」の需要なんて当分有りませんよ』
 な……何を言ってるんだ?
 たしかに、そう云うニュースは俺も聞いた事は有る。
 しかし、日本の自衛隊も参加するとは言え、それが俺の仕事と何の関係が有るんだ?
『あと、この仕事から勝手に降りたりしたら、民事訴訟になりますよ』
『はあ? 何を言ってんですか?』
『「何を言ってんですか?」は、こっちのセリフです。契約書を良く読み直して下さい』

 気分転換に久し振りに、最寄りの政令指定都市の繁華街まで足を延ばした。
 だが、人通りは少なく……道行く人達の顔も暗い。
 以前、良く行っていた飲食店は閉店しており……あちこちに南太平洋に派遣される多国籍軍への支持を呼び掛けるポスターが貼られ……。
 大規模書店に行けば、以前、来た時の半分か……下手したら三分の一にまで営業規模が縮小されており、空いたスペースは多国籍軍への志願受け付けに使われていた。
 そして、夕方になり、JRのターミナル駅に戻ると……機動隊が多国籍軍反対のデモ隊を叩きのめしていた。

 更に数ヶ月が過ぎ、俺がデザインした「御当地萌えキャラ」は最初のラフとは似ても似つかない「誰にデザインをやらせても関係ない」ような無個性なモノになっていた。
 いつ、この「御当地萌えキャラ」が使われ、そして、いつ、この仕事の金が入ってくるかさえ判らない状況だった。
『今から約1時間後、多国籍軍は「深淵の叡智の探求者たち」を名乗るカルト系テロ組織の本拠地と見られる南太平洋のルルイエ島への総攻撃を行なう予定です』
 マンガ雑誌はエロもそうでないモノも、紙媒体も電子書籍も次々と「戦争協力」を名目に潰され……俺は、いい齢をして、定年退職した親からの仕送りで暮す羽目になった。
 ネットで配信されているニュース映像は、どうやら、多国籍軍の軍艦の内の1つに搭載されたカメラから撮影されたものだった。
『待って下さい。あれは……あれは……何……で……うわああああッ⁉』
 だが、その時、ニュース映像は「空間が歪んだ」としか呼べない奇怪な状態に……いや……違う……「空間が歪ん」でいるように見えるのは、俺の視界全部だ。
 何が起きて……おい、あれは何だ?
 ニュース映像に映っている南太平洋の島には、途方も無く巨大な……しかし、生物である事だけは判る「何か」が出現……。

 そして……世界そのものが作り変えられた……と思う……。いや……俺の記憶も作り変えられているようだ……。「世界そのものが作り変えられたように思えた」と云う記憶も作り変えられ……。

『主要国の連合陸戦部隊は、カルト宗教の信者達よりを死守する事に成功したと発表しました。この地球上の全ての。世界主要国の首脳はの更なる弾圧で合意したとの事です』
 かなりブラックな「御当地萌えキャラ」業社に切られてから丸1日が経った。
 俺は、まだ、頭が混乱したまま、それでも機械的に日常生活をおくり……そして食事をしながら、いつも視聴しているネットの動画サイトが報じているそのニュースを聞いていた。
 一体、何故、俺は、あのおぞましい伝説に出て来る「」のめすの絵なんかを描いたのか?
 そして、何故、その絵を「萌えキャラ」として「御当地萌えキャラ」業社に送ってしまったのだろうか?
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