輸出用特別生産

蓮實長治

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輸出用特別生産

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「あの……国産の野菜って無いんですか?」
 勤め先のスーパーで品切れの有無などの確認をしていると……野菜売り場で「少年」と「若い男性」のどっちで呼ぶべきか判断に迷う客から、そう聞かれた。
 近くに有る大学の学生らしいが、雰囲気からすると、この新学期に入学して一人暮らしを始めたばかりなのだろう。
「国産の野菜は……まぁ、年々、流通量が減ってるので……」
「でも……D国産のは……農薬とか……」
「いや、それは、十年以上前の話ですよ。あっちでも、問題が有る農薬の規制は年々厳しくなってますので」
 嘘は言っていない。
「それに、ここに有る野菜は、D国の国内向けに規準じゃなくて、ウチの国に輸出する為の規準で特別に作ってもらってるので」
 これまた、嘘は言っていない。
「じゃあ、D国産と言っても、昔よりは安全なんですね?」
 たしかに、ウチの国に輸出する為に、D国の政府から特別に認可をもらって生産している野菜だ。ただし、認可の条件は「D国政府に指定された地域のみで生産し、」。
 このお客さんの世代どころか、このお客さんの親の世代が子供の頃から、ウチの国の多くの人間にとっては「虫食いその他が無い野菜」が当り前のモノになっていた。
 「虫食いが無い」ものを「好む」のでは無い。「虫食いが無い」のがあまりに「当り前」になり過ぎて、「虫食いの有る野菜」を「野菜」ではなく「野菜屑」だと認識する人達が無視出来ないほど増えてしまったのだ。
 だが……そんな野菜をD国で生産しようとしたら……D国の法律では、「農作物用」ではなく「園芸用」としてしか認可されていない農薬を使うしか無かった。
 そして……ウチの国で作られた高級品の無農薬野菜は……ここ十数年で著しい経済成長を遂げたD国に輸出されるようになり……国内のスーパーには入らなくなっていたのだ……。
 流石にそんな事情が有るので、客に嘘を言う訳にはいかない。
 なので、俺は、言葉ではなく、どうとでも解釈出来る営業スマイルを返答代りにした。
 そのお客さんは、安心したような表情になり、野菜をいくつか籠に入れ、レジへと向かった。
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