俺さえも「奴ら」だったのか?

蓮實長治

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俺さえも「奴ら」だったのか?

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「最早、これまでです。無念ではありますが……私は……新しい大統領に政権を譲り渡す決意をいたしました。ですが……次の大統領選挙では……」
 足下が崩れるような錯覚を覚えた。
 信じてきた大統領は……ついに「奴ら」に屈服したのだ。
「支持者の皆さんは、今後、非暴力的な方法で……」
 待て……何を言ってるんだ……?
「くれぐれも、暴力的手段に訴えかける事は慎んで下さい。私は、何人であれ、如何なる主張であれ、暴力的な方法で自分の主張を通そうとする者を非難いたします」
 おい……大統領……あんたを信じて戦い続けてきた奴らを切り捨てる気か?
 フザけるな。

 俺は演説を続ける大統領に向ってライフルをブッ放ち……え……待て……。
 大統領の胸に腹に空いた穴からは、血は流れず、代りに……火花のようなモノが……。
 そうだ……安い映画やグラフィック・ノベルや日本のMangaで良く有る……。
「うわああああ……っ‼」
 クソ、気付いているべきだった。
 既に、俺達の中に「奴ら」が入り込んでいたのだ。大統領さえも「奴ら」に……何って、こった。本物の大統領は既に殺されて……。
 俺は更に銃を撃とうとした。
 そんな事をしても、何になるのか?
 判ってはいるが、まずはこの場を逃げなければ……。
 誰かが俺の左腕を掴んだ。
 人間では有り得ない力で……俺の左腕は引き千切られ……。
 何故だ……? 何故……痛くない……?
 引き千切らた腕の付け根からは、金属製の骨と……どうやら筋肉の代りをするらしい無数のケーブルが見えた。
 奇妙な虹のような光沢を持つ金属の腕と……何本ものピンクに近い赤と……暗い青の二種類のケーブルが……。
 そ……そんな……俺も……「奴ら」だったのか?
 だとしたら……俺は……まさか……最初から……自分でも気付かぬ間に……俺は……大統領の支持者達を自滅に向わせるように仕向けていたのか?
 俺達の仲間は……俺の言った事を信じてしまったせいで……。

「それで、前大統領を暗殺した男が『9β』だったのは確実なのですか?」
 通称「9β」……。前大統領支持派が過激化する原因となった陰謀論……その陰謀論を最初に広めた人物がインターネット上で名乗っていた名前だった。
「はい……彼が所持していたスマートフォンと自宅のPCの通信記録からすると、ほぼ確実です」
 前大統領が、支持者向けの退任宣言を行なっている最中に、かつての選挙スタッフの1人に銃殺されてから1週間。
 事件を担当する警察機構の長官は、新しい大統領に、そう説明していた。
「彼は……自分がロボットのようなモノだと云う妄想を抱いていて……マトモな取調べは不可能です。もっとも当然ですが、CTとMRIで検査した結果、彼は人間でした……。彼の体内に有る人工物は……虫歯治療用の詰め物ぐらいです」
「なるほど……」
「一応、脳波に異常が見られ……左腕に何の異常も無いにも関わらず左腕を失なったと思い込んでおり……更に、自分が陰謀論を撒き散らしたのは、自分を『作った』何者かが『真の愛国者』を自滅に導く為で……『本物の自分』は既に何者かにより殺されている、と信じていますが……まぁ、当然ながら、一つ残らず既知の精神疾患で説明可能な症状ばかりです」
「取調べもロクに出来ない訳ですか……。時に……彼の左手に何かが握られていたとの事ですが……」
「はい……。未知の電子機器と未知の合金です」
「電子機器? ケーブルのようなモノだと云う報告も有りましたが……」
「ええ……ピンクに近い赤と……暗い青の2種類のケーブル状の電子機器を握っていました。詳細は……まだ……調査中ですが……共に通電により伸び縮みする性質が有り……青い方は電気が通ると延び、赤い方は電気が通ると縮む性質を持っているようです。あと……未知の合金ですが……人間の手の小指の骨にそっくりな形状だった、との事です」
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